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2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた【開催レポート_その3】です。

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その1】はこちら。

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その2】はこちら。

 

SESSION2:エリアマネジメントに係わる私たち 
                    〜エリアマネジメントに携わる若手メンバーと中堅メンバーの対話によって〜

続いてのセッションでは、エリマネに携わる若手メンバーと中堅メンバーの対話によってエリマネそして、それに係わる人々について考えていきました。全国エリアマネジメントネットワークの若手実務者会議「AMU35」のメンバーから、日々の取り組みの中で感じる課題や悩みを投げかけ、中堅メンバーがメンターとしてそれに答える形で対話をしていきます。

<登壇者>

【メンター】
内川亜紀氏|札幌駅前通まちづくり株式会社 代表取締役
園田聡氏|有限会社ハートビートプラン 代表取締役(共同)

【AMU35メンバー】
金井れもん氏|(公財)中国地域創造研究センター/広島駅周辺地区まちづくり協議会
川島あさひ氏|東京建物株式会社
高山円香氏|三菱地所株式会社/大丸有エリアマネジメント協会
浅野進氏|安田不動産株式会社

【モデレーター(AMU35発起人)】
山中佑太氏|NTTアーバンソリューションズ株式会社
内野洋介氏|(一社)二子玉川エリアマネジメンツ/東急株式会社

 

AMU35メンバー
(左上:川島あさひ氏 / 右上:浅野進氏 / 左下:金井れもん氏 / 右下:高山円香氏)

 

Q.現場対応や関係者調整など目の前の業務に追われ、エリマネの上流にあるビジョンと現場の取り組みとの距離を感じながらも、丁寧に振り返る時間がありません。また、アウトプットの機会が少なく、若手の頃はどういった行動をして視野を広げればよいでしょうか?

内川 若手ではなくなった今でも目の前の業務に追われていますが、私の場合は少し割り切っていて、イベントなどの現場業務は一番自分たちが考えていることを表現する場だと捉えています。イベントは「手段」なので、手段とビジョンがなるべく近づくように心がけていますね。振り返りも、資料をまとめて関係者を集めてしっかり時間を取ろうとすると大変ですが、実は雑談の中で振り返っていることが結構多いので、そういったことでも大切にするようにしています。
若手の頃の情報収集については、全国エリマネの事務局の方と仲良くなって、とにかくなんでも話を聞いてました(笑) 私の頃はエリマネ女子会という活動があったので、そこで他のエリマネ団体の先輩方と仲良くしていただいて、皆さんの話の中から課題の糸口を見つけるようにしていましたね。今でも様々なプログラムがあるのでそういった場に参加するといいかもしれません。

メンターの内川亜紀氏

 

園田 私はコンサルの立場なので、ビジョンと実際の取り組みがいかに結びついているかを言語化することが大きな役割ですが、若い頃は言語化しようにもスキルも経験も乏しかったので、現場にいる方の話をたくさん聞いて、その想いを自分なりに言語化するようにしていました。中でも一番よく聞きに行っていたのは飲食店の方の話。飲食店は、地域の経営者の中でも非常に高いリスクを背負っていて、自分の業態や出店理由にしっかりロジックを持ってらっしゃるので、街の声として非常に学ぶことが多いんです。
そういう方々がどういうビジョンやポリシーを持っているのか、自分たちが実施したイベントは何か寄与できていたのか、別の席で食べているお客さんが関心を持ってもらえる内容になってたかなんかを考えて。正しいかどうかはわかりませんし、お店のことは自分で調べてこいと怒られることもありましたが(笑) でも自分たちの視野も広くなりますし、すごくしっくりくるお話が多かったと思いますね。

 

Q.エリマネの取り組みはKPI設定や効果測定が難しく、どういった指標で測るべきか悩んでいます。また、エリマネの一環として行っている清掃活動には多くの方が参加してくださる一方で、そこからの展開に繋げられない状態が続いています。ステークホルダーが非常に多い中で、新しい取り組みに巻き込んでいくにはどうしたらよいでしょうか。

園田 コンサルの立場で言うと、自分が好きで素敵だと思うことに取り組めばいいと思います。コンサルという存在は当事者の方からすると、お金もらってあるべき論を言っているだけと思われがちで、なかなか話を聞いてもらえないんです。なので、地域のこの人が言っていること、考えていることの中で、自分が心から素晴らしいと思えるものに対して、どうやったら実現できるか考えるようにしています。
地域には多くの企業がいるので一社一社すべてが合意して、全員がメリットが感じられることをやるというのはそもそも無理があるんです。それだったら、明確にやりたいことがある一社に絞って、今回はこの企業のテーマで皆さんでできることをやってみませんかと動くようにしています。この時に、お金を募るだけではなく、それぞれが持っている本業のリソースを共有してほしいとお話しすることも大事です。デザイン系の会社だったら制作物を協力してもらえないかとか、学校があれば学生に関わってもらうことができないかとか。一社ではできないことも、地域全体で力を合わせることでこんなことまでできるんだとわかってもらえれば、次に繋がっていくんですよね。
各社がどういったことにメリットを感じているかは、僕らではわからないことがたくさんあるので、話を聞いて何を求められているのかちゃんと理解して蓄積していくと、新しい活動に活かせるようになると思います。

メンターの園田聡氏

 

内川 清掃活動は参加してくれるだけで嬉しいと思った方がきっといいですよね。仲間がこれだけいるんだとお互いに知ることができますし、顔がわかるだけでも何かに繋がるんじゃないかと考えています。
KPIは誰もが難しいと感じていることかもしれませんが、私たちの場合は常にビジョンやミッションと照らし合わせて活動がちゃんとそれに伴っているかを確認しています。

園田 KPIや効果については、一つの取り組みを見た時に、どう多面的な価値を見出せるかといった見方をすることが大事だと思いますね。
例えば、ある街の駅前に中高生が多く集まる広場をつくった際に、周辺のステークホルダーの方にこの場所にどういった価値を感じるかヒアリングしたんです。その中で20代向けのショッピングセンターのテナントさんが、「広場に集まる中高生は、今はうちで買い物はしないけれど、3〜4年すればメインターゲット層になるので、この場所に親しみを持ってくれれば今後お客さんになってくれるかもしれない」という話をされて、そういう考え方もあるのかと思ったんです。つまり、店舗の経営判断として直近の顧客獲得に繋がらないことには投資できないけれど、公共なら将来的な人の流れを想像して投資できる。街で過ごす習慣をエリマネ側でつくっていくことは、ある種数年後に対する顧客創造の投資にも繋がるので、新しいマーケットをつくるという説明もできるんです。そうやって、絶対的な正解というよりあらゆる見方で価値を見つけていくことが大事だと思いますね。

内川 ヒアリングに行くと、事務局の言ってることって難しくてわかんないのよと言われることが結構ありますよね。やっぱり人それぞれの理解の度合いは異なるので、自分たちがやりたいこともあるけれど、相手の目線で話を聞くということはずっと大切にしていることかもしれません。

 

Q.エリマネは板挟みになる苦しみや収益性の悩みなど、逆風も多く負けそうになる時もあり、日々のモチベーションに波が生じます。そういった時はどうしていますか?

園田 僕の場合は最初の質問にもあった、その街の飲食店に話を聞きに行きますね。エリマネはステークホルダーが多く、それぞれのメリットになっているのか収益性があるのかといった話によくなるんですけど、「誰のメリットにもなってないことをやってる」と思ってしまうと、そもそも仕事として意味があるのかというところまで考えてしまいます。そういった時に、自分たちの活動を最初に手を挙げて一緒にやってくれた人を思い出して会いに行くんです。自分たちがやってることをわかってくれている存在は安心しますし、街の人の顔を見ることで、誰のためにやっているのかを再確認していますね。

エリマネの取り組みはそれぞれの地域で異なりますが、志を同じくする立場の悩みは共通するもの。現場に立つ実務者同士、具体的なアドバイスは若手メンバーにとっても多くのヒントとなったようです。
対話の後には、メンターのお二人から若手メンバーに向けてコメントをいただきました。

「今エリマネに取り組まれてる方の中でも、『エリマネ』という言葉をあまり知らずに、会社に配属されて関わるようになった方は多いと思います。ですが、私も全く知らないところからここまでやって来ているので、すごく専門性が必要なのかというとそれだけではありません。皆さん立場も違いますし、やっていることも全員バラバラなので、違いを楽しみながら業務に携われたらいいんじゃないかなと思っています」(内川氏)

「先輩方の研究や取り組みによって日本なりのロジックや手法が整理され、その功績の上に僕らはエリマネ活動をすることができています。一方で、これからのことは今の現場に一番ヒントや可能性があると思っていて、新しいことに取り組むと今までのロジックでは解けない課題が出てきますが、それが解けた時にまた次のステージに進めると思うんです。そういう意味では、僕らは先輩たちがやってきたことに貢献しながらさらに発展できるよう、今日のように現場で感じていることを共有し、研究し、何か形に定着させていかなければなりません。世代ごとで積み重ねていくことを大事にしながら、自らも新しいフィールドに行けるようにどんどん現場で活躍してほしいなと思います」(園田氏)

最後に、本会会長である出口敦氏から閉会の挨拶がありました。

「今日の一番のキーワードは『悩む』だと思っていまして、各セッションの中でも非常によく出てきた言葉ですが、やはり皆さんで悩む場がこの全国エリアマネジメントネットワークであり、悩みを議論する中から答えを導き出そうとすることがこの組織の一つのあり方だと思っています。時代と共に悩みが尽きることはないと思いますが、今後も活発な活動を通じて、日本のエリマネを広めていきたいと思っています」(出口氏)

全国エリアマネジメントネットワーク会長 出口敦氏

2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた【開催レポート_その2】です。

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●クロストーク

プレゼンテーションの後は、全国エリアマネジメントネットワーク幹事・森ビル株式会社の中裕樹氏、全国エリアマネジメントネットワーク副会長・リージョンワークス合同会社の後藤太一氏も加わり、3名でクロストークを行いました。

最初に、モデレーターである後藤氏からインプットと投げかけがなされました。

全国エリアマネジメントネットワーク副会長/リージョンワークス合同会社 後藤太一氏

 

「エリマネの役割を見直す前に、エリマネそのものの解像度をもっと上げて議論した方がいいと思っています。というのも、海外ではエリアマネジメントではなく『Urban Place Management』という言葉で表現していて、細かく定義もされているんです。まず、エリアではなく『プレイス』という言葉になっていますが、具体的にいうと『共有された文脈や関係性のある人々が生活する舞台』。つまり、施設や空間だけではなく、人の活動や人と人の関わりを扱っているということが大きな考え方です。もう一つ『マネジメント』というのは、日本のエリマネでは建物がつくられた後にどう使いこなすかという管理・運営を指すことが多いですが、海外の定義では計画、リーダシップの発揮、コミュニケーションとマーケティング、経済開発、制作提案などを包括して行うことをマネジメントの内容としています。
世界ではこういった考え方があり、定義化されている中で、日本のエリマネは現状何をしていて、今後どうあるべきか。そういったところに一歩踏み込んで議論できればと思います」(後藤)

 

「エリアマネジメント」という言葉が誕生して20年。さまざまな研究や取り組みを経て、そのあり方や意味を確立してきました。次第に日本の各地で取り入れられるようになり、エリマネはさらに発展を続けています。そうした現状を改めて会場の皆さんと共有した上で、次に何を考え、取り組むべきなのか、クロストークにより議論を深めていきました。

後藤 飯田さんのプレゼンテーションでは、「第三の自分」や「経験への開放性」など、エリマネの役割としてこれまで求められてきた経済発展以外にももっと大事なものがあるんじゃないかと感じました。

飯田 今世界中でまちづくりに取り組む人は、経済よりも人の幸せに重きを置いているように感じています。もちろん経済開発によって街が活性化することも大事ですが、そこだけを追求すると取り残されてしまうことがあまりに多いのも事実です。経済だけを優先してきた社会からの脱却する取り組みとして、インフォーマル・パブリック・ライフがあるんじゃないかと思います。

後藤 カフェの例もありましたが、インフォーマル・パブリック・ライフ的な場というのはどういったものがあり得るでしょうか。

飯田 お金を持っていなくてもいられることがポイントで、商店街や骨董市なんかはお金を持っていなくてもそこに佇んだり回遊するだけでも許されますよね。 ただいてもいいし、買いたかったら買ってもいいというぐらいの状態が、一番インフォーマル・パブリック・ライフとしてうまくいくと思います。
デザイン的なことで言うと、まず誰でも訪れることができて、カフェで過ごしてもいいし、ベンチに座ってもいいし、芝生で休んでも大丈夫という、そういった自由にいられるしつらえになってることが一番理想です。骨董市に行っても何にも買わないでなんか見てるだけの人もたくさんいるように、そういう緩やかさが大事だと思うんです。

後藤 森ビルさんが手がけるヒルズも、何も買わなくても回遊できるような設計をされていますよね。

  そうですね。居住者の方も多くいらっしゃいますし、日常的に居られるような場を考えています。最近では住宅地でもエリマネの取り組みが始まっていて、飯田さんのご経験のように住宅地にあるさまざまな課題に対して住民同士が協力してエリアの価値を上げていこうとしています。そうした中で、我々の立場として地域の方と協力できる可能性はあるのでしょうか。

全国エリアマネジメントネットワーク幹事/森ビル株式会社 中裕樹氏

 

飯田 ここは自分がいてもいい場所なんだ、と思える場をデザインすることが大事だと思います。東京には新しい施設が次々とできており、広場は美しく、座るところも十分に整えられているけれど、自分が場違いに思えてしまうこともあります。この「場違い」の対極には「歓迎」があって、例えばカルディは非常に成功を収めていますが、それはやはり入口でコーヒーをもらえることが嬉しいからだと思うんです。自分がいても大丈夫なんだ、許される場なんだと感じ取る力を人は敏感に持っていると思うので、その点を意識すると地域の人との関わりもすごく変わるんじゃないかと思いますね。

  ありがとうございます。もう一点、クリエイティブクラスの開放性を上げていくことが、その場の質を高めていくという話がありました。確かにエリマネとしてもその可能性を感じていざやろうと思うと、もっと刺激的なイベントをやろうだとか、アートプロジェクトをやろうといった既視感のある企画に落ち着いてしまいます。おそらくアプローチは多様にあると思いますが、取り組む上でどういったことが重要になるでしょうか。

飯田 まず、「インフォーマル・パブリック・ライフはイベントではない」ということを前提に持っていただきたいと思います。日本は季節の行事を大事にしてきた歴史があるので、それをしなければいけない意識が強くありますが、イタリアやフランスの広場ではそこまでイベントは行われておらず、基本は日常的に佇める場なんです。インフォーマル・パブリック・ライフは日常の中のちょっとした非日常を感じる場となっていて、週に3〜4回行く人もいます。しかし、イベントをやっているとその分座れる場所や滞在できる空間がなくなるので、日常的に訪れている人やイベントと関係がないと感じる人を排除することになりかねません。特に日本の広場はそういう側面が強く、イベントをやっていない時は人は端っこを通り、空白地帯になってがらんとしてしまう。そうではなくて、日常的に人が佇める場をつくることが大切だと思いますね。

後藤 過ごし方が選べる状態にあるといいですよね。例えば自分の場合だと昔は居心地が良かった渋谷のセンター街が最近行きづらくなっているんですけど、それは人の変化もあるわけで。やっぱりいろんなものがある程度あるかどうか、全てを揃える必要はないけれど、この街には何が必要かを考え続けないといけないと思います。

飯田 すべての解決策はイベントではなく、そこでゆったりと時を過ごせる場のセッティングをすることだと考えていくといいのではないかと思いますね。日常の中で気軽に外で過ごせる場所というのは、求められてるのに全然ないんです。設計した後にそうした場をつくることは難しいと思われるかもしれませんが、キッチンカーとビストロチェアを何個か出してみるだけでも雰囲気は非常に変わります。そういったできるところからでも試すのもよいかもしれません。

飯田美樹氏

 

  できることからやる時にも、やはり一社ではできないことが多いので、他社の物件や地域の方と一緒に取り組んで、エリア全体の価値を上げていくという意識が重要ですね。
もう一つ、今日の飯田さんのお話を聞いて強く感じたのは、人に対して高い解像度を持って見ていくことです。エリマネでは「人中心」という考え方は以前から言われていることですが、「人」についてもっと具体的に突き詰めるべきだと改めて感じました。

飯田 街やそこにいる人を観察する際には「関係の解像度」を見るといいかもしれません。関係というのは、何かに触れられるとか、匂いがするとか、お店の奥から店員さんが声をかけてくれるといった関係性が生まれる予感のようなものです。自分がいてもいいんだと思える温かみがあるかないかを見ていくと、今後のエリマネにも何かヒントになると思います。

後藤 都市というものはいろんな人の場所であるということが前提にあって、その中でどのように人の活動や交流を促していくか考えるべきだということですね。
やるべきことは時代とともに非常に変わり続けていますが、今日得たヒントをそれぞれの街に応じてカスタマイズしていっていただきたいと思います。

 

 ▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その3】はこちら。

2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた内容を3回に分けてレポートします。

 

冒頭に、国土交通省 都市局まちづくり推進課長 須藤明彦氏より開会のご挨拶をいただきました。

国土交通省 都市局まちづくり推進課長 須藤明彦氏

「国土交通省では、官民が持つ空間をパブリックな場所として街に開き、 イノベーションの創出や人々のウェルビーイングを実現するまちづくりに向けた政策を推進しているところです。そのためには、ハードの整備だけではなく、多様な関係者間でのビジョンの共有、連携体制の構築、 官民連携のさらなる強化といったことが重要です。その中で、エリアマネジメントの取り組みはますます欠かすことができないものとなりますので、今後の都市再生政策の要にもなるエリアマネジメントのあり方について、皆さまからのご意見もいただきたく考えております」(須藤氏)

 

SESSION1:インフォーマル・パブリック・ライフから考えるエリアマネジメント

最初のセッションテーマは、「インフォーマル・パブリック・ライフから考えるエリアマネジメント」。『インフォーマル・パブリック・ライフ―人が惹かれる街のルール』の著者である飯田美樹氏をゲストに迎え、都市における居心地良さや暮らしやすさの観点からエリアマネジメントの役割を改めて考えていきました。

初めに、飯田氏から「インフォーマル・パブリック・ライフ」について、事例とともにご紹介いただきました。

Lumière 代表/カフェ文化、パブリック・ライフ研究家 飯田美樹氏

 

まず、このテーマで執筆するに至った背景として、自身の経験が大きく影響していたと話します。
カフェ文化やパブリックライフの研究に取り組む傍ら、子供の出産を機に専業主婦になり、京都のニュータウンに引っ越したという飯田氏。そこは大きな公園やショッピングセンターが周辺にあり、ウォーカブルでよく計画された都市だったそうですが、どこか違和感があったそうです。

「いざ暮らしてみると、街のどこを歩いてもほとんど人がいないことが日常でした。 それでも街に適応して楽しもうと心がけて、児童館やママサークルへ出かけていったものの、日増しに得体の知れない孤独が深まるばかりで、泣くことが増える一方だったんです。
そうした日々の中、ある大学の先生から私の研究に近いんじゃないかとレイ・オルデンバーグが書いた『The Great Good Space(翻訳版:サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」)』を読むことを勧められました。当時はまだ知られていなかったサードプレイスやカフェの重要性を説いた本で、そこには私が抱えていた得体の知れない孤独と同じものをアメリカの専業主婦たちが抱えていると書かれていたんです」(飯田氏)

オルデンバーグは「元々人間は家庭と職場・学校を第一と第二の場とし、それから第三の場となるインフォーマル・パブリック・ライフがあることで精神的なバランスを取っていた」とし、それに対してアメリカ社会は、第一と第二の場のみで全てを背負ってしまっているため、ストレスが解消されない状態が起きていると指摘しています。
この「インフォーマル・パブリック・ライフ」との出会いを機に、得体の知れない孤独に対する答えがここにあるのではないかと、自らも研究を進めることを心に決めたと言います。

「この第三の場所となる『インフォーマル・パブリック・ライフ』とは、老若男女が気軽に行けて気分転換ができる場所およびその時間と定義しており、具体的には広場、公園、川岸、海辺、市場、商店街などのイメージです。第三の場所というと、日本では『サードプレイス』をイメージするかもしれませんが、サードプレイスはインフォーマル・パブリック・ライフに含まれる中核的な存在と位置付けています。カフェ、パブ、ビアホールといったものがサードプレイスの例で、特にヨーロッパでそれらは社会的なガス抜きの場として機能しています。
一方、そうした場がないと家庭や職場、学校における社会的なストレスを、個人的に解消しなければならず、自分でヨガやジョギング、ジムに行くわけですが、そのお金がない人はストレスを解消することすらできないという悪循環が起こってしまうのです」(飯田氏)

 

ストレスは社会的なものでありながら、解決は個人に委ねられるという悪循環。その循環を解消する鍵となる第三の場=インフォーマル・パブリック・ライフとは、一体どういったものをもたらすのでしょうか。飯田氏はインフォーマル・パブリック・ライフの要素を以下のように挙げました。
=====
● 朝から晩までどんな時間でも人がいる
● 誰にでも開かれており、誰しもがそこでゆっくりすることが許される
● あたたかい雰囲気があり、一人で訪れても、誰かと一緒にいるような安心感がある
● そこに行くと気持ちが少し上向きになる
● そこでは人々がリラックスしてくつろぎ、幸せそうな表情をしている
=====
日本では、南池袋公園や丸の内仲通り、商店街や骨董市もインフォーマル・パブリック・ライフの良い例として挙げられるそうです。

 

では、上記のような特徴を持つインフォーマル・パブリック・ライフの社会的意義とは、どういったことがあるのでしょうか。飯田氏は、自分とは異なる世界にいる人の存在を肌で感じることができる「ソーシャルミックスの促進」、頭の中に抱える悩みや問題を一時的に低下させる「カフェセラピーの効果」、そして家庭や仕事での役割に縛られない「本来の自分自身の獲得」に繋がると述べます。

「最後の『本来の自分自身』とは、厳しい社会規範や教育に抑圧されずになんとか残った忘れかけていた自分、つまり第三の自分を指しています。
サードプレイスが実は人間にとって重要なんだとオルデンバーグが主張したように、私は人間にとって第三の自分こそがもっと重要ではないかと提起したいんです。私がニュータウンでの生活で第三の場と第三の自分が得られずに苦しんだように、自分らしくいられる場所とそうあれる時間が街には必要なんだと強く思うようになりました」(飯田氏)

人の暮らしや社会とって重要なインフォーマル・パブリック・ライフですが、それらの充実は街の動きにも影響を与えると言います。社会学者のリチャード・フロリダは「私が聞き取り調査をした人たちは、刺激的で創造的な感情を提供してるところに住みたいし、住む必要があると主張した」と述べたように、コロナ以前には、パリ、ロンドン、ニューヨークなどで、前代未聞の人口増加が進んでいました。飯田氏は、この背景にある人々の願望をこう分析します。

「人がある街へと引っ越す理由には、そこに行けばよりよい暮らしが期待できるとか、もっと自分らしく生きられるのではないかといった願望があります。今日ここに参加されているまちづくりに取り組む方々にとっても、どうすれば自分の地域が人の願望を惹きつけ、発展できるかが大きな課題ではないかと思います。リチャード・フロリダは、そのための鍵となるのは『まず高い能力を持つ人やクリエイティブな人を惹きつけることだ』と述べており、そうしたクリエイティブクラスや若い世代は、ストリートライフのあるコミュニティやウォーカブルな場所に好感を抱く傾向にあります。経済的に栄えるためにはオフィスビルの繋がりだけでは不十分であり、文化的、社会的刺激に満ちた街であるということが重要だと言われています」(飯田氏)

しかし、ストリートライフのあるコミュニティやウォーカブルな場所であればいいというわけではありません。そうしたものの中に、クリエイティブクラスは何を求めているのでしょうか。ここで飯田氏が経験したニュータウンを再び例に挙げます。

「私が住んでいたニュータウンは、ウォーカブルシティとしては非常に良くできた街でしたが、そこでは『子連れの主婦』としての画一的な経験しかできなかったんです。第二や第三の自分はなく、自分らしくありたいと願っても、それを促す場も許容してくれる場も存在しませんでした。この街での自分の正しい生き方とは、このまま2人目の子供を産んで団地の一室を購入して老後を迎えることで、それ以外の可能性を感じられずに毎日を生きていました。こうした画一的なものの見方や価値観しかない街は、それらに違和感がある人にとっては息苦しさを感じて脱出するしかなくなってしまうんです。
こうした自分の経験を踏まえながら特にお伝えしたいのは、インフォーマル・パブリック・ライフを通した経験への開放性が大事だということです。つまり、自分が持つ絶対的な価値観とは全く異なるものに出会った時に、否定せずに肯定的に捉えられる状態であること。これが人を惹きつける街と抜け出したい街の一番の違いであり、クリエイティブクラスもなぜインフォーマル・パブリック・ライフの充実した街を選ぶのかというと、まさにそこが経験への開放性を促す場になっているからなんです」(飯田氏)

経験への開放性が高い場は、視野を広げるとともにより自身の自由な発想も認めてもらえるようになります。これは画一的な価値観の中で苦しんでいる場合には、生き方を左右するほど重要な環境とも言えます。

「改めてインフォーマル・パブリック・ライフがなぜ重要かと言うと、そこでは社会の規則から離れて自分らしく振る舞うことができるとともに、多様な人がいることで視野が広がり、既存の価値観と違うのも肯定的に受け入れやすくなります。そして、そこには新しいこと、異なることに対する寛容な雰囲気があるので、他では許されないような行動や意見も安心してすることができる。つまり自己表現がしやすくなるので、新しいアイデアも肯定されてイノベーションへと繋がっていくのです。
そしてそうした場に大事なものは、居心地の良さだと思っています。多くの人が集まっているかではなく、長い時間滞在したいと思うかどうか、恒常的に居心地が良いかが重要ということです。人々が主体的に過ごせる場をつくるということが、これからのまちづくりの役割なのではないかと思っています」(飯田氏)

 

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その2】に続きます。


2024年8月30日、全国エリアマネジメントネットワークの第8期の活動振り返りと、第9期の活動方針を発表する総会を開催しました。今回は虎ノ門ヒルズステーションタワー45階の会場にて、東京の街を望みながら多くの会員の皆さまにご参加いただきました。報告がなされた主な内容をレポートします。

 

第8期事業報告

まず、第8期の主な活動と現在の状況について報告を行いました。
総括としては「研究会合同シンポジウムの初開催」、「エリアマネジメント研究交流会の認知向上」、「人材育成プログラムの展開」が主な活動となりました。それぞれの詳細は以下の通りです。

●活動の総括
(1)研究会合同シンポジウムの初開催

これまで「スマートシティ・DX」「グリーン×エリアマネジメント」「ナイトタイムエコノミー」をテーマとした三つの研究会を設立し個々に議論を進めてきましたが、第8期では各議論の成果として「全国エリマネ研究会合同シンポジウム:エリアマネジメントの役割・領域の拡張」を開催。各研究テーマの可能性やエリマネして取り組む意義を紹介しながら、三つのテーマを掛け合わせた都市の価値向上を図る新たな展開について議論を深めました。

(2)エリアマネジメント研究交流会の認知向上

第4回目の開催となったエリアマネジメント研究交流会は、15本の研究発表が集まり、100名以上の方に参加いただきました。本研究交流会で報告をすることを一つの目標とする学生も増えてきており、エリマネに関する研究や調査の報告の場として着実に認知度が向上しています。

(3)人材育成プログラムの展開

人材育成を目的としたプログラムでは、エリマネ実務者向け研修プログラム「プレイスメイキング講座」に加え、包括的にエリマネにおけるマインドを理解する新たなプログラムとして「エリマネマインド養成講座」のパイロット版を実施。エリマネに必要とされるリーダーシップや地域とのコミュニケーション、コーディネート力等を学ぶことを目的に、経験豊富なエリマネ実践者をメンターに迎え、インプットとディスカッションを行いました。今回のパイロット版にてニーズや運営の課題を明らかにした上で、第9期では本格的な開催を検討しています。
また、第5期に立ち上げた若手ネットワーク「AMU35」も継続的に開催し、人材の循環も行われています。

また、海外連携については、海外の組織と具体的な議論を進め、連携体制のベースを構築しました。一方で、当初計画していたアンケート等のリサーチ関係やエリマネウェビナー、行政との対話の機会の実施は着手に至らなかったため、第9期に引き継ぐこととしました。

第9期事業計画

続いて、第9期の事業計画の報告を行いました。これまでの全国エリアマネジメントネットワークでは、「交わる/深める/広める/支える」の4つの方針にて取り組んできましたが、活動の裾野が広がってきたことを踏まえ、第9期からは「高める」を方針に新たに追加。エリマネのプロフェッショナルとしての専門性・実務能力向上の機会を創出することにも注力していきます。

●第9期の主な活動内容

第9期では「エリアマネジメントの振り返りと高め合い」をコンセプトとして、以下の活動を計画しています。

➢ エリアマネジメントの振り返りとこれからの役割の再考と発信
➢ 中間支援組織としての情報蓄積及びエリマネに関わる人・団体の高め合い
➢ エリアマネジメントに関する行政との対話の充実
➢ 研究会・コミュニティ活動の推進を通じたエリアマネジメントの実務者育成
➢ 海外情報の収集やアジア都市との連携活動の展開(エリアマネジメントの海外への展開)
➢ 全国エリアマネジメントネットワークの組織体制の検討

これらを方針とし、特に注力したい事業内容について説明を行いました。

 

(1)情報交換・連携【交わる】

従来のニュースレターの発行に加えて、会員間で日常的に交流や情報交換ができるよう、オンライン等のコミュニケーションツールを活用した環境設備について議論を進めていきます。
また、海外連携では、IDA(International Downtown Association)等の海外ネットワークを通じて、世界各地のBID(Business Improvement District)の情報を蓄積し、情報交換を行っていきます。

(2)エリアマネジメントの社会的な認知向上【広める】

エリマネの社会的な認知向上に向けて、「エリマネを振り返る」ことをテーマにした大規模なシンポジウムを予定しています。また、イベントレポートの配信やウェブサイトの英語対応等を行い、さらなる広報の充実化を図ります。

(3)エリアマネジメント活動の深化・行政との対話・連携の場の構築【深める】

「エリアマネジメント研究交流会」を継続して開催するとともに、「エリアマネジメント政策対話」という新たな議論の場を展開します。これは、国土交通省とともに開催してきた「官民連携まちづくりDay」から発展した取り組みとして、エリマネの推進に必要な政策・制度の活用法や課題について、国、自治体、エリマネ団体といった多様な立場の実務者同士が対話できる機会を創出していきます。

(4)エリアマネジメントに関する各種情報提供やエリアマネジメント団体の強化【支える】

エリマネに関するこれまでのリサーチの成果として、「エリアマネジメント」という言葉が日本で提唱されてから現在までの約20年の動きを俯瞰して整理し、これまでのエリマネの役割や活動領域の広がりを理解するとともに、今後の展望を議論する場を展開する予定です。

(5)エリアマネジメントのプロフェッショナルとしての専門性・実務能力向上の機会【高める】

これまで開催してきた講習会での実践・試行をもとに、エリマネについて様々な観点から学ぶことができる場として「エリマネカレッジ」を開催します。プログラム内容は、第8期にパイロット版を実施した「エリマネマインド養成講座」やエリマネの制度や事例を体系的に学ぶ「エリマネ実務者研修講座」、合宿形式でエリマネのプランニングや事業設計を学ぶ「エリマネ実務者合宿」などを検討しています。
また、第9期から新たに「エリマネアワード」を立ち上げ、各エリマネ団体が行っているエリマネ事業を募集し、実務者同士で評価し合い、高め合う場を展開していきます。

 

最後に、全国エリアマネジメントネットワークの立ち上げから活動を牽引してくださった小林重敬氏が、第8期をもって会長を退任されることとなりました。退任の挨拶として、エリマネの可能性について次のように期待を寄せました。

小林 重敬 氏

「全国エリアマネジメントネットワークは約10年前に発足し、その中で様々な成果が上がってきたと思います。一つは、全国でエリマネ活動をしている団体が増えたこと。大都市を中心とした団体から、いまもっとも活動が活発化している中都市、それから最近では地方の小さな都市でも活動があり、あらゆる地域でエリマネ活動が展開できることがわかってきました。また、これまでは商業地域での活動が多くを占めていましたが、最近では住宅地でのエリマネ活動が徐々に芽生えています。
全国でのエリマネ活動は、非常に幅広く展開している過程にありますので、今後も皆さんで力を合わせてより一層ネットワークを広げていただきたいと思います」(小林氏)

 

後任には東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授の出口敦氏が就き、「新しい時代を築いていくための課題は多くありますが、そうした課題にも前向きにチャレンジしていきたいと思っています」とこれからの活動に向けた想いを述べました。

新に会長に就任する 出口 敦 氏

 

第8期の全国エリアマネジメントネットワークでは、研究会合同シンポジウムや人材育成プログラムの展開など、これまで積み上げてきた知見やノウハウをさらに実務面に生かすための展開を行いました。
会員も年々多くの方にご入会いただき、益々全国でのエリマネ活動の発展が期待されます。各地域での取り組みがより推進されるように、全国エリアマネジメントネットワークでは繋がりをより強固なものへとしていきます。体制が変わり新たなスタートを切る全国エリアマネジメントネットワークの活動に、これからもぜひご期待ください。

 

☞総会資料はこちらからダウンロードできます。
全国エリマネ第9回通常総会資料

沢山の皆様のご尽力のもと、2024年6月29日 会場発表及びオンライン配信にて「エリアマネジメント研究交流会 第4回」を実施致しました。

第4回は調査報告4件、研究報告5件、事例報告6件の、全15件の発表エントリーがありました。
▷当日のプログラムはこちら

今回の研究発表は、昨年の2会場に分けての開催とは違って、4回目にしてほぼ初めて、実行委員が一堂に会しての開催となりました。
会場全体で意見交換をしようという気概にあふれており、加えて、今回より選考メンバーとして全国エリマネ幹事メンバーも参加したことで、学識及び研究者のご意見に加えて実務経験者の視点も踏まえた質問や意見が多数飛び交い、各発表とも時間が足りないほど充実した情報意見交換・議論ができたと感じております。

【アワード受賞者】
第4回のアワードは以下の方々が受賞されました。 ※「◎」は発表者

【調査研究部門】
◇ふるさと納税を活用した地方公共団体におけるエリアマネジメント団体への支援
                                                                         ―取組み事例をもとにした考察―
   ◎高橋 裕美(京都大学経営管理大学院官民協働まちづくり実践講座)
      要藤 正任(京都大学経営管理大学院官民協働まちづくり実践講座)
      吉田  恭(京都大学経営管理大学院官民協働まちづくり実践講座)

◇大阪・難波周辺におけるエリアマネジメントと歩行者回遊・滞留の実態
   ◎高木 悠里(大阪公立大学大学院)、土屋 文佳(大阪公立大学大学院)
      遠藤 真仁(大阪公立大学大学院)、
      神田 佳祐(大阪公立大学大学院)、嘉名 光市(大阪公立大学大学院)

【研究報告部門】
◇CVMと共分散構造分析を用いたエリアマネジメントの評価に関する研究
                                                                               -品川シーズンテラスを対象として-
   ◎諸藤 弘之(NTTアーバンソリューションズ株式会社)、内山 武士(NTTアーバンソリューションズ株式会社)、
      竹内 雄大(NTTアーバンソリューションズ株式会社)、高橋 美玖(NTTアーバンソリューションズ株式会社)、
      桑田  仁(芝浦工業大学)、山澤 浩司(芝浦工業大学)

◇英国・アイルランドにおける地方都市BIDの活動評価に関する研究
   ◎大島 陸人(岡山大学大学院環境生命自然科学研究科・院生)
      堀  裕典(岡山大学 学術研究院 准教授)

【事例報告部門】
◇まちの会所における役割の変化〜名古屋市錦2丁目の会所における2010年前後を比較して〜
   ◎黒部 真由(一橋大学大学院社会学研究科・院生)
      名畑  恵(錦二丁目まちづくり協議会)、堂免 隆浩(一橋大学)

【ベストプレゼンテーション部門】
◇秋田県男鹿市における酒造会社を起点としたまちづくりの取組
   ◎三好 史晃(株式会社三菱地所設計)


第4回 アワード受賞者の皆様

 

本研究交流会恒例となりました“舗装材トロフィーシリーズ”
第4回目のトロフィーは、大阪 御堂筋よりご提供頂きました舗装材のトロフィーです。
受賞者の方々には、御名前とタイトルを記載し、制作後に各受賞者に贈呈されます。受賞者の皆様は楽しみにお待ちください。

トータル7時間という長丁場ではありましたが、多岐にわたる視点での発表を伺うことができ、大変有意義な会となりました。
今回参加の学生の方から「昨年、配信で個の発表会を見て今年は発表することをモチベーションにしてきたので参加出来て嬉しい」という大変嬉しいお言葉を頂きました。実行委員一同大変感動しました!!
初回から発表者として多くの学生や若手の方に参加いただいており、エリアマネジメントの裾野の広がりも実感しているところです。
終了後に実施した交流会でも、経験や世代を問わず楽しく、時に真剣に意見交換が行われており、本研究会の目指す“交流の場”が育まれていることを嬉しく思っております。

運営面でも、大阪公立大学と東京都市大学の学生さんにサポートとしてお手伝いいただいたことで、更に活気が出たように感じました。
本研究会に様々な点から関わってくださる皆様と共に、更に盛り上がっていければ嬉しく思います。
引き続き、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

最後に、参加者の皆様、付き合いいただきました視聴者の皆様、ありがとうございました。

▲第4回選考委員▲
○実行委員長:嘉名 光市(大阪公立大学院 教授)
○各セッション担当委員
【調査研究部門】司会:宋 俊煥(山口大学 教授)
【研究報告部門】司会:丹羽 由佳理(東京都市大学 准教授)
【事例報告部門】司会:要藤 正任(京都産業大学 教授)
【実行委員メンバー】泉山 塁威(日本大学 准教授)、高木 悠里(大阪公立大学 講師)、野原  卓(横浜国立大学 准教授)、
堀  裕典(岡山大学 准教授)、籔谷 祐介(富山大学 講師)、
【選考メンバー】金城 敦彦(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会/全国エリアマネジメントネットワーク副会長)
後藤 太一(リージョンワークス合同会社 代表社員/全国エリアマネジメントネットワーク幹事)
○全体司会・運営:全国エリアマネジメントネットワーク事務局
【事務局】長谷川 隆三(全国エリアマネジメントネットワーク)、関口 泰子(全国エリアマネジメントネットワーク)、
三牧 浩也(UDCネットワーク)
【運営サポート】大阪公立大学大学院 工学研究科 都市系専攻 都市計画研究室の皆さん、東京都市大学環境学部 丹羽研究室の皆さん

会の実施・運営にご尽力いただきました皆様、ありがとうございます。

今年も”エリアマネジメント研究交流会”開催します!

エリアマネジメント研究交流会の第4回を今年度も開催致します。
「エリアマネジメント研究交流会」は、全国エリアマネジメントネットワーク、UDCネットワークの2者による実行委員会で運営しており、エリアマネジメント研究の深化、すそ野の拡大、研究者と実務者の意見交換・交流の場の提供を目的としています。
本研究交流会では、エリアマネジメントに関する調査、研究や実践について広く発表者を募り、研究者同士、研究者と実務者での議論を通じて、エリアマネジメントの役割や価値・評価、実践知等についての知見を深め、共有していきたいと考えております。

今年は6月29日開催です。

第4回として2024年6月29日(土)に開催することと致しました。5月より発表者の募集を行いますので奮ってご参加ください。本研究交流会は、出来るだけ多くの発表が行われるよう厳格な審査等は行いません。また、一定の結論や独創性、先駆性を求めるものでもありません。着手したばかりの調査、研究でも広く受け付けますので、よろしくお願いいたします。
※開催方式につきましては、「発表者及び実行委員会のみ会場参加にてオンライン配信」を想定しております。

▼研究会に関する詳細及び研究交流会へのエントリーについては、下記資料をダウンロードください。▼
☛ ダウンロード 【ご案内】エリアマネジメント研究交流会第4回について
☛ ダウンロード 【ES】エリアマネジメント研究交流会第4回_エントリーシート

研究交流会 第3回について

昨年7月1日に第3回を開催した研究交流会では21件の発表がありました。第3回のアワード受賞者については以下のページをご確認ください。 第3回の梗概集もダウンロード頂けます。

開催後記 エリアマネジメント研究交流会 第3回

 

エリアマネジメント研究交流会について

研究交流会にエントリーされる方は、下記をご確認ください。

2023年9月4日、全国エリアマネジメントシンポジウム2023を福岡・天神にて開催しました。今回は「これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える」をテーマに、福岡を拠点にあらゆる分野で活躍されるステークホルダーの方に登壇いただき、議論を交わしていただきました。

文化・クリエイティブを切り口に二部構成で、多様なトピックが展開した3時間に渡る【開催レポート_その2】です。

▷▷▷【開催レポート_その1】はこちら。

 

SESSION2:エリアマネジメントはどうする【エリアマネジメント団体の方々によるディスカッション】

続いての第二部では、第一部でのトークを踏まえて、街にあるさまざまな空間やコンテンツを扱うエリマネは、都市に多様な文化的・創造的アクティビティを展開していくために、どのような役割を担うべきか、文化芸術といった要素をどう受け止めていくべきかを考えていきます。

このセッションのコーディネーターを担当する東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授の出口敦氏は次のように切り出しました。

東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 出口敦氏

 

「シンポジウムに参加されている皆さんは普段エリマネの実務に携わられていて、さまざまな業務に追われていると思います。ただ、目の前のことに精一杯になっていると、何のためにまちづくりをしているのか俯瞰して考える時間がなかなかないのではないでしょうか。そういった点で、年に一度実務者が集まって原点に立ち返り、自分たちの取り組みの意味を考え直す機会は非常に重要だと思います。ここからはまさにエリマネの役割について議論を深めていきますので、皆さんのお考えにも繋がっていければと思います」(出口氏)

第二部でも、まずは各登壇者の方より現在の活動をご紹介いただきました。

<登壇者>
須賀大介氏|福岡移住計画 代表
三好剛平氏|三声舎 代表
内野豊臣氏|博多まちづくり推進協議会
兼子慎一郎氏|博多まちづくり推進協議会
荒牧正道氏|We Love天神協議会
黒川文香氏|We Love天神協議会
吉田宏幸氏|福岡市経済観光文化局

●須賀大介氏|福岡移住計画 代表

須賀大介氏は、福岡移住サポートプロジェクトである「福岡移住計画」を立ち上げて、移住者のサポートやコミュニティ情報の発信を行っています。

「福岡移住計画では、居場所、食べていくための仕事、理想的な住まいの『居食住』に関する情報を提供し、移住者の暮らしを広くサポートする活動を行っています。元々は東京で起業していたのですが、3.11の震災後に生きる場所を改めて考えるようになり、10年前に福岡に移りました。福岡の空気感や人の優しさに魅力を感じ、ゆかりのないまま飛び込んだのですが、地域の方に非常に支えいただいて今に至っています」(須賀氏)

その他にも、コワーキングスペースや宿泊施設といった場の運営を広く手掛けられています。

「自分自身、プレイヤー同士が繋がる場を作っていますが、その重要性を今日改めて感じました。やはり近いところで活動していてもまだまだ繋がれていないですし、まちづくりに関わる人たちが集まるような場がないことに気づかされ、これは一つの課題と言えるかもしれません」(須賀氏)

 

●三好剛平氏|三声舎 代表

三好剛平氏は、福岡を拠点に文化芸術にかかわるプロジェクトの企画・制作を手掛けられており、アジアの映画上映・交流プロジェクト『Asian Film Joint』の主宰や九州のアート・カルチャーシーンを発信するラジオ番組への出演など幅広く活動されています。

活動のきっかけとなったのが、2010年から5年間開催された『まちなかアートギャラリー福岡』というアートプロジェクトです。福岡市とも主催側として、アーティストと関係を深めながら、アートを街に根付かせるようと奔走していたものの、最終的には予算がストップしたことで時間をかけて育ててきたものを終えなければならないことがあったそうです。

「先程のセッションにもあったように、アーカイブ化や活動を蓄積することを強く意識するようになったきっかけでもありました」と話します。

そうした経験から、福岡市が30年間実施していた『アジアフォーカス・福岡国際映画祭』の終了を受けて、その後継となるプロジェクトとして『Asian Film Joint』を助成金を集めて2021年に立ち上げ、福岡に蓄積されてきたアジアの映画監督たちとのネットワークを、財産として引き続き活かしていくために取り組まれています。

「地域にすでにあるものにもう一度血を送り直すことで、いくらでも活用のしようがありますし、そうした活動はその街や人が積み重ねてきた文化に対する自分たちなりの回答であり、未来に繋いでいくことだと思っています」(三好氏)

 

●内野豊臣氏・兼子慎一郎氏|博多まちづくり推進協議会
博多まちづくり推進協議会 事務局長 内野 豊臣 氏
博多まちづくり推進協議会 兼子 慎一郎氏

博多まちづくり推進協議会は、博多駅を中心に近隣の企業や学校、行政など180団体によって組織されています。これまでのセッションを受けて、博多まちづくり推進協議会の内野氏、兼子氏からそれぞれコメントをいただきました。

「福岡市内でもWe Love天神協議会と博多まちづくり推進協議会の二つのエリマネ団体があります。博多のエリマネというのは、1km程度の範囲で取り組んでいるんです。福岡という広いエリアではなく、敢えて博多と天神といった狭いエリアを対象にしてお互い活動してるということが、街の個性を失わないことに繋がっているのではと思います」(内野氏)

「エリマネの役割は建物に血を流し込むことが大事なのではと考えています。ただ、協議会の事務局スタッフも人数が限られているため、自分たちですべて主催すると考えるのではなく、恒常的にやるためにはさまざまな分野のプレイヤーの方と連携を取って進めていくべきだと改めて思いました」(兼子氏)

 

●荒牧正道氏・黒川文香氏|We Love天神協議会
We Love天神協議会 事務局長 荒牧 正道氏
We Love天神協議会 黒川 文香氏

We Love天神協議会は、134の会員とともに天神の価値向上や来街促進を目的に活動しています。We Love天神協議会の荒牧氏、黒川氏からコメントいただきました。

「協議会の会員さまと毎月天神の将来について議論を行っておりまして、その中で、多様な方々と連動しながら街の課題解決に挑んでいき、新たな価値を生み出していくことがこの街の魅力を引き出す上で重要なことだと話し合っています。そうしたことを積み上げて、世界にも届くような福岡の魅力を引き出していきたいと思っています」(荒牧氏)

「エリマネはイベント関連の取り組みが印象として強いですが、交通施策や防災など本当に多様な分野を包括しています。やはりエリアを豊かにするためには、さまざまな人にとって恒常的に楽しめるものであるべきですので、長期かつ広域を見据えて天神がどうあるべきかをじっくり考えながら一つ一つ物事を進めていきたいと思っています」(黒川氏)

 

●吉田宏幸氏|福岡市経済観光文化局

最後に福岡市経済観光文化局の吉田宏幸氏より、全体を受けての感想をいただきました。

「コロナを経て、観光はすでに以前の状態に回復していますが、文化芸術活動は8割程度に留まっています。やはりコロナ禍で文化芸術に触れられなかった層や、あるいはそうした場所に行く機会を失われたまま習慣が戻らないような人たちがいるんじゃないかと考えています。そうした状況を踏まえると、新しい層へアプローチやインバウンドなど観光施策の中に文化的要素を取り込んで、コロナ禍以前を超えるくらいの状況を目指していかなければならないのではと思っています」(吉田氏)

続いてフリーディスカッションへ移ります。文化芸術に関わる立場としてエリマネに求めること、どういった姿勢で取り組むべきか議論が交わされました。

 

出口 コロナ禍の3年間の影響は大きかったと思いますが、その後にエリマネがやるべきことはさまざまあると思います。三好さんにお伺いしたいのですが、文化芸術に関わる取り組みをされる立場としてエリマネに求めることはありますか?

 

三好 文化芸術にまつわるプレイヤーの方、エリマネ団体の方それぞれとお話ししていると、共通テーマとして持っているはずの「文化」に対する解像度が結構違うなと感じます。

エリマネの議論において、「文化をまちづくりに活用する」といった表現を耳にすることがありますが、アーティストは無償だとしても、自分たちが納得する作品を届けたいと一番に考えているんですね。そういった大事にしているものへの理解が必要ですし、ちゃんと理解できるまでとことん付き合って、一緒に汗をかくということをしないといけないんです。

彼らが育ててきた文化を表面だけさらって利用してもやはり持続性がないですし、こうした姿勢が非常に重要だと思います。

 

出口 アートを消費の対象として捉えてはいけないということですね。街は基本的にものを買ったり食事をしたり消費をする場所ですが、その対象の一つとしてアートも捉えてしまうと、次に繋がっていきません。好循環を生み出していくためには、アートを育てていくという意識を持つ必要がありますね。

須賀さんはいかがでしょうか。

 

須賀 私はHOOD天神というコミュニティスペースも運営しておりまして、移住者同士が繋がり、さまざまな活動が生み出される場所になっています。福岡にゆかりがない人も一歩入り込める、街の余白みたいなものを提供させてもらっているのかなと思います。

先程のセッションでも話にありましたが、多様な世代や分野の人が混ざる場が必要だと思うので、エリマネに関わる皆さんにはそういった視点で場を作っていただけるといいのではと思います。

 

出口 人が集まり交流する場としての街の屋外空間や公共空間の意義はコロナ以降で変わってきたと思います。コロナ前までは賑わいづくりを盛んにやっていましたが、そうしたことができなくなり、屋外でくつろぎを提供することが重視されるようになりましたね。同時に、オンライン化が進んだことでリアル空間の価値が問われるようにもなりました。

そうした現状を踏まえて、エリマネ団体の方々は現在どういった取り組みをされているのでしょうか。

 

兼子 道路や公開空地の利活用が、コロナ以降に制度含めて変わってきています。例えばコロナによって喫煙所が閉鎖になり公園での喫煙者が増えたのですが、子どもが遊べなくなってしまったことを受けて、仮設喫煙所を設置して本来の緑のスペースを取り戻す社会実験を実施しました。実験のため現在は元の状態に戻ってしまったのですが、今後Park-PFIが採択される予定でして、事業者の方と常設の喫煙所の設置や文化的な役割についても検討していきたいと思っています。

 

出口 We Love 天神協議会さんはどうでしょうか。

 

荒牧 天神には広場がたくさんあるので、先程のセッションにあったような2時5時の間を潰せるものが日常的に展開されているといいのではと思いました。また、天神は地下ネットワークが発達していますので、地下空間のあり方についても有効に活用していきたいと考えています。

 

出口 日常的な場面も含めて、2時5時の間をどう過ごせるかをしっかり編集してアーカイブすることは、観光客にとって有益なだけでなく、地域の人が街の個性を認識することに繋がると感じます。そういったことを主導することこそ、エリマネ団体の役割ではないのでしょうか。

今日エリマネの役割がいろいろと出てきましたが、文化芸術に寄与していくためにはどういったことを心掛けていけば良いでしょうか。

 

三好 街一体でみんなが同じ目標を持って達成に向かうと考えるのではなく、数十〜数百人の多様なコミュニティそれぞれが、いいねと思える状態を集積していくことが理想的だと思います。まずは見渡せる範囲の人たちを楽しませるにはどうしたらいいのか、これからそういったことが問われるんじゃないでしょうか。

2時5時問題も、人それぞれの感性や価値観に合わせて情報を提供できるよう解像度を高められると、さまざまな分野に寄与するものになると思います。やはり小さなことを積み上げていくことが大事ですよね。

 

出口 集団として平均化された楽しさを追求することも重要ですが、やはり多様な一人一人が参加して楽しんでもらい個人のQOLを高めていくことも重要だと思います。エリマネ団体の方には、定性的なものでもいいので、一人一人のQOLを高めるような評価にもっと目を向けてもいいかもしれません。

 

須賀 価値観の多様化でいくと、クリエイターがどこの街で創造性を発揮したいと思うかという視点も大事です。そこでやる意義を見出してもらえるよう、街の文脈や強みをどう編集して見せていくのかをエリマネの方や各プレイヤーがともに考えながら、場を生み出すことが重要だと思います。

また、場を運営して持続させることも非常に難しいところですので、我々が連携しながら持続させる仕組みを提供させていただきたいなと思いました。

 

出口 エリマネ団体の皆さんはいかがでしょうか。

 

内野 まずは皆さんが活躍できて、多様な方が繋がれる場を作ることとが重要だと思いました。あとは街の魅力に気づいてもらうきっかけ作りも我々の役割ですね。地域の人も見落としているような魅力をエリマネがしっかり掬い上げて、発信していくことを考えていきたいです。

 

吉田 The New York Timesが発表している2025年に世界で訪れるべき都市に、日本では盛岡市と福岡市が選ばれました。今年世界水泳選手権が開催され、実際にそのような状況になってきているように感じます。

そうした中で、短期的ですがまずは2025年に向けて、文化振興をどう図っていくか考えるべき時期なのではないでしょうか。2025年には新しい文化施設ができ、その後も福岡市が発展を遂げてきたものがまた新たに生まれ変わるタイミングが次々とやってきます。そういった動きと足並みを揃えて、皆さんと文化芸術を進めていくことができればと考えています。

 

出口 エリマネの役割は、時間と場と人の繋がりを提供することだと松岡さんがおっしゃっていましたが、「時間」というものが非常に印象深いキーワードだと思いました。

都市開発は空間をつくり出すことと言えますが、公開空地をつくり出したからといって、必ずしも刺激的な時間を提供することまではできません。空間を提供して、空間をマネジメントして、さらに刺激的な時間を提供していく、ということがコロナ以降のエリマネの役割ではないかと思います。ビジネスや産業ではなく文化的なもののパワーによって、知性や心に訴えかけるような時間をどうつくり出すかを考えるべきではないでしょうか。

今日ご登壇いただいた二つの協議会は、駐輪場の問題や交通渋滞といった地域の課題解決を使命として始まりましたが、現在のエリマネの役割は課題解決から、街の価値を問う価値創造が求められる時代になってきていると思います。そういった気概を持って今後取り組んでいただければと思います。

 

最後に、本会副会長である一般社団法人大手町丸の有楽町地区まちづくり協議会事務局長 金城敦彦氏より閉会のご挨拶がありました。

「この団体名にもあるネットワークという言葉は、各地のまちづくり団体だけでなく、社会を作るような文化活動をされている方々とのネットワークもしっかり築いていかなければならないと改めて感じました。今日さまざまな分野で活動される方々のリアルなお話を伺って、エリマネを担う立場としてはやはり現場の声や営みを大切にして、引き続き皆さんと支え合いながらまちづくりに取り組んでいきたいと思っています」(金城氏)

全国エリアマネジメントネットワーク副会長/一般社団法人大手町丸の有楽町地区まちづくり協議会事務局長  金城 敦彦氏

2023年9月4日、全国エリアマネジメントシンポジウム2023を福岡・天神にて開催しました。今回は「これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える」をテーマに、福岡を拠点にあらゆる分野で活躍されるステークホルダーの方に登壇いただき、議論を交わしていただきました。

文化・クリエイティブを切り口に二部構成で、多様なトピックが展開した3時間に渡る内容を、【開催レポート_その1】と【開催レポート_その2】に分けてレポートします。

 

冒頭にWe Love天神協議会事務局長の荒牧正道氏、国土交通省 都市局まちづくり推進課 官民連携推進室企画 専門官の乃口智栄氏より開会のご挨拶をいただきました。

We Love天神協議会 事務局長 荒牧正道氏

「コロナが5類に移行して、皆さんの活動も活発に動き始めていると思います。福岡市中心部では『天神ビッグバン』『博多コネクティッド』といった大規模開発の真っただ中にあり、街の新たな変化に向けて今は力を蓄える時期だと思って取り組んでいます。
今回のテーマである『文化・クリエイティブ』をどう街に実装させるかにつきましても、まさに今議論すべき重要なテーマです。やはり街に出て気づきを得たり、何か自分をアップデートするものに出会うことが街の魅力につながりますので、皆さまとともに考えをより深めたいと思っています」(荒牧氏)

国土交通省 都市局まちづくり推進課 官民連携推進室企画 専門官 乃口智栄氏

「国土交通省では8月に来年度の予算要求方針を発表しまして、都市局の取り組みとしてはグリーンや子育て支援のまちづくり、地方都市の再生を重点な柱として新たに掲げております。 本日のテーマである文化やクリエイティブは、地方都市の再生に欠かせない要素の一つですので、皆さんのご意見や議論を今後の施策検討に繋げていきたいと考えています。また、エリマネに関しては、 その活動や空間の評価を新しい指標で考えていく取り組みも行っておりますので、引き続き全国エリアマネジメントネットワークの皆さまとともに検討させていただきたく考えています」(乃口氏)

 

SESSION1:街の個性をつくりだす創造的・文化的アクティビティ
           【福岡で活動する多様な領域の方々によるクロストーク】

続いて、トークセッションへと移ります。第一部のセッションでは、「街の個性をつくりだす創造的・文化的アクティビティ」をテーマに、音楽やアート、工芸、福祉等、福岡で活動する多様な担い手の方々にお集まりいただき、その活動内容や福岡に対する課題感と可能性について語っていただきました。

最初にコーディネーターである、株式会社大央 代表取締役社長、福岡建築ファウンデーション 理事長の松岡恭子氏より投げかけがなされました。

株式会社大央 代表取締役社長、福岡建築ファウンデーション 理事長 松岡恭子氏

「先日久しぶりにニューヨークとシカゴへ行きまして、街の様相が非常に変わったと感じました。例えば、ニューヨーク市にあるハイラインは、廃虚だった高架鉄道が公園へと生まれ変わった場所ですが、公園を作ったことで人が訪れるようになり、周辺に高級コンドミニアムやオフィス、ミュージアムが集まってきています。一見経済的合理性の乏しい公園が、文化芸術の力を巻き込んでお金を生み出す場所になっているんです。文化的なものをどう街に根付かせるかという点は今後のエリマネにおいて非常に重要なテーマですので、皆さんの取り組みやお考えを伺ってヒントを得たいと思います」

続いて、各登壇者の方より現在の活動について紹介いただきました。

<登壇者>
深町健二郎氏|音楽プロデューサー、ミュージックマンス福岡 総合プロデューサー
中村弘峰氏|中村人形 四代目人形師
樋口龍二氏|NPO法人まる 代表理事、株式会社ふくしごと 取締役副社長
西高辻信宏氏|太宰府天満宮 宮司
ニック・サーズ氏|有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役

 

●深町健二郎氏|音楽プロデューサー、ミュージックマンス福岡 総合プロデューサー

音楽プロデューサーの深町健二郎氏は、福岡の5つの音楽イベントが集結した「Fukuoka Music Month」のプロデュースや福岡を日本・アジアを代表する音楽都市にすることを目標とした「福岡音楽都市協議会」の立ち上げなど、音楽を関連産業の振興だけでなく、観光や教育、まちづくりといった場面で活用する取り組みをされています。

そのきっかけには、9月の毎週末にさまざまな主催者が音楽のフェスを開催していたことにあると話します。

「さまざまな主催者がそれぞれに音楽イベントを開催しているのを見て、音楽というのはひとつの重要な福岡らしさだと気が付いたんです。福岡の人は祭り好きな気質もありますね。それで各イベントに横串しを刺してみたらこの福岡という都市が国内外に対して音楽都市としてPRできるんじゃないかと考えました」(深町氏)

そうして10年ほど前から『Fukuoka Music Month』として称して、5つの音楽イベントを集結させたものとして開催。活動を続ける中で、世界の多数ある音楽都市が一堂に集まるコンベンションである国際会議へ、福岡に参加オファーの声がかかるほどになりました。

「世界には名だたる音楽都市がありますが、まさに世界中では音楽がいろいろな場面で活用されていることを知りました。『福岡音楽都市協議会』を立ち上げたのはそれがきっかけで、福岡も音楽を活用したことができるんじゃないかと考えて取り組みを広げています」(深町氏)

 

●中村弘峰氏|中村人形 四代目人形師

中村弘峰氏は、博多人形を作る中村人形 四代目人形師として活動されています。事業は100年以上の歴史を持ち、福岡で7月に開催される伝統的なお祭り「博多祇園山笠」では、山車に乗せる人形の制作も手掛けています。代々受け継がれる仕事がベースにありながらも、伝統工芸をアートとしてどう未来に残すか、という想いがあるようです。

「これまで工芸作家にとって百貨店が主戦場で、まちづくりの中でも百貨店は主要な位置付けを持ってきたと思いますが、客足が減ってきていて、地方の百貨店なんかはだんだん潰れてしまったりと状況が変わってきています。そういった危機感もありつつ、SNSを通じてお客様から直接お問い合わせがあることも増え、百貨店だけでなくコマーシャルギャラリーでも展示をおこなったり今年から自分でもギャラリーを構えるようになりました。そうした背中を示すことで、他の工芸作家やアーティストの参考になればいいなっていう気持ちもあります」(中村氏)

 

●樋口龍二氏|NPO法人まる 代表理事、株式会社ふくしごと 取締役副社長

樋口龍二氏は、2007年に障害者支援施設を運営するNPO法人まるを設立し、その後「FACT(福岡県障がい者芸術文化活動支援センター)を立ち上げ、福岡を中心に障害のある人たちの表現を社会にアウトプットする企画運営や、表現活動をサポートする人材育成を各地で開催しています。

現在の活動に至った背景に、障害のある人たちと初めて出会った時になぜ施設の中だけに固まっているのだろうと疑問を抱いたことがあると話します。

「現在障害のある人は1,000万人近くいて、本来であれば皆さんと働いたり暮らしたり、 いろいろな場を共有するということがもっと身近にあるはずなんです。多様性という言葉がよく使われますが、彼らがいる社会を当たり前に作っていかなくていけない。分断を生んでいる社会の方に障害があると思って活動に取り組んでいます」(樋口氏)

そのために福祉の分野にとどまらずに他分野の方とともに繋がりながら、社会にアプローチすることが大事だと話します。

「我々は別に福祉を変えようとは思ってなくて、福岡という街を変えていきたいんです。行政の福祉課の方たちにも、障害者、高齢者、子育てなど範囲を限定するのではなく、社会全体を見据えた考え方で取り組んでもらうよう話しています。

弱い立場の人が暮らしやすい街は、僕らも暮らしやすい街だと思っているので、そういった社会を実現できるよう徐々に発展させたいと思っています」(樋口氏)

 

●西高辻信宏氏|太宰府天満宮 宮司

西高辻信宏氏は、太宰府天満宮の権宮司を務められており、現在124年ぶりの御本殿の大改修を進められている他、継承者不在の古民家のホテルへの改装、太宰府天満宮でのアートプログラムの開催等、長い歴史を積み重ねてきた街の拠点として幅広い取り組みを展開されています。

文化的な取り組みの始まりは、明治に入った頃に実施した『太宰府博覧会』に遡ります。当時神社のものはほぼ非公開だったところを一般に公開して知識を示すことを目的としたもので、世界で博覧会の潮流を受けて、日本でも初期に行われました。そうした取り組みを経て、文化が御祭神と非常に親和性が高く、まちづくりの中でも大事だという意識が歴代宮司に受け継がれているそうです。

「2006年から『太宰府天満宮アートプログラム』という現代アートのプロジェクトを行っており、アーティストの方のオリジナル作品を、境内の中に点在させて境内全体を博物館とするといったものです。作品とともに境内を広く歩いて楽しんでいただくような工夫を施しています。アートの非常にいいところは、国内外の多様な方と関わることができるということで、そうしたご縁をいただいた方と時間をかけて関係性を深め、共同作業をしながら日々取り組んでいます」(西高辻氏)

こうした境内を広く楽しんでもらう仕掛けを展開しながら、次の課題として神社を日常的に訪れる場所にするということがあるようです。

「すでにあるものの歴史を紐解いて、光の当て方を変えることによって、違う展示の仕方をするなど検討しています。今ある資源をどう継承してどのように活かすのか考えて、神社づくり、まちづくりに取り組む必要があると思っています」(西高辻氏)

 

●ニック・サーズ氏|有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役

ニック・サーズ氏は30年以上前に来日して福岡に住み始め、1998年にインターナショナルメディア「Fukuoka Now」を立ち上げ、2021年からライブ動画配信サービス「Kyushu Live」をスタートさせています。こうした発信は多言語で展開されており、メディアを通して福岡への移住者も引き寄せているようです。長く福岡を見てきたニック氏が考える福岡の魅力を語ってくださいました。

「福岡はスケールがそこまで大きくなく歩きやすいので、インバウンド旅行客にとっても快適な街です。また、音楽やアートが屋外空間に充実していて外にいるだけで楽しめることも特徴だと思います。再開発を通して期待している変化としては、建物の上層階や屋上にパブリックスペースができてほしいですね。上からの景色をみんなのものにするということは大事だと思います」(ニック氏)

屋外空間や景色をいかに誰もが楽しめるようにするか。こうした考えは、ニック氏が配信する動画コンテンツでも、ローカルな日常的風景が反響が大きいという点があるようです。今人々はどういったことに関心があり、何を求めているのか、エリマネに取り組む上でもそういった点を捉えることは重要になると投げかけました。

その後はフリーディスカッションへ。松岡氏からの投げかけを受けて、登壇者同士で議論を深め合います。

 

松岡 今日のお話を伺って改めて感じたことは、時間、場所、人の繋がりがエリマネの充実に繋がっていくのではということです。

時間というのは、この先も残るハードをどう使い続けるか、時間の蓄積の先に何があるのかを考えることがエリマネの目標のように思います。次に場所は、エリマネには必ず物理的な場所が必要になりますが、何かを行う場とはどうあるべきかを皆さんと考えたいです。最後に人の繋がりというのは、一過性のものではなく、人間一人一人の生活の中に溶け込むような、なだらかな動きみたいなものを作って人を繋ぐことが必要なんじゃないかということです。この3つをキーワードに皆さんのお話をもう少し伺いたいと思います。

 

深町 開発において公開空地を作ることが条件のようになっていますが、ただ作ってもどういった活用をするか前提にいないと機能しないので工夫が必要です。他方で、福岡には街を象徴するランドマークが意外となかったので、そこを逆手に取れるのではと考えています。

例えば、すでに音楽都市協議会の取り組みとして、市内7ヶ所程度をストリートライブができる場所を認定していますが、日本はどの街でも許可されている場所が少ないので、環境を作れば音楽都市としてのひとつの象徴になり得るかもしれません。

経済的合理性でまちづくりをするとやはりコモディティ化が起きてしまうので、その街の個性を大事にしようと思ったら文化しかないんです。文化でどれだけその街を表せるのかがポイントかと思います。

 

松岡 警察や自治体とうまく協働体制を作ることがまずは必要になりますが、その間に入る立場としてエリマネ団体の役割が重要になりそうですね。

樋口さんも行政や障害のある方を媒介する立場で活動されていらっしゃいますが、中間体としてのエリマネ団体に対する課題感や期待はございますか?

 

樋口 イベントや施設など、街で盛り上がっている場所はある一定数の行ける人だけで成り立っている傾向にあり、障害のある人も不自由なく楽しめることも考える必要があると思います。少数とされる障害のある人のニーズにまでリソースが回らないという課題もあると思いますが、行政が予算化して対応すればいいという話でもないんです。トップダウンで事務的に対応するのではなく、そうしたニーズに応えることが企業や団体にとってもメリットになっているべきで、そこを解決するアイデアが絶対あるはずなんです。

ただ、現状はやはり障害のある人との接点が乏しいので、そうした人がコミットしていける社会構造を、まずエリマネから働きかけていくべきではないでしょうか。時間はかかると思いますが、地域として取り組むべき課題だと思っています。

 

松岡 障害のある人も含めた日常のクオリティをどう作っていくか考えなければいけませんね。

西高辻さんは、太宰府天満宮である種エリマネ的な取り組みをすでにされていらっしゃいますがいかがでしょうか。

 

西高辻 日常や恒常的な話でいくと、太宰府天満宮では季節を非常に大事にしてまして、お祭りは多くありますが、歳時的なものが少ないんです。そこを新たに打ち出せると、非日常以外の魅力として伝わっていくのではないかと考えています。

また、文化を消費するのではなく、どう生み出すか考えることも重要なテーマにあると思います。その点において中村くんが提唱されていることはとても面白いですよね。

 

中村 ありがとうございます、福岡の「2時5時問題」ですね。これはつまり、福岡って2時から5時の間やることがないんです。県外から友人が遊びに来た際も、昼食と夜飲みにいく場所だけ決まっていて、その間に何をするか非常に悩むんですね。この課題は福岡の方は共感してくださると思いますが、解決方法を考えてみまして。自分がやっているお店やサービスを「ここでは◯◯分、時間を潰せます」と定義してみる、というものです。

例えば、「中村人形のギャラリーは15分、時間を潰せます」といった形で時間を設定して、非飲食系サービスで2時から5時の3時間を繋げる仕組みを作るんです。特に観光に来る人はできるだけ多くの場所を回りたいので、短めに時間を提示しておいて、「いざ回ったけど時間が足りなかったから次は2泊で来よう」と思ってもらうことも狙いです。

シンプルなアイデアですが、みんなで3時間を繋ぐということはいろいろな解決につながると思っています。

 

松岡 福岡には音楽やアート作品が街中にたくさんありますが、情報としてアーカイブされていないのでそこを充実させることは大事ですね。

 

中村 みんなで時間を繋ぐということで言うと、今まで街のプレイヤーとなる人たちのレイヤーが分野や世代で分かれ過ぎていて、全然混ざってなかったんですよね。そういった課題感もあり、かつてあった素晴らしい活動を当事者の方にお話しいただく「FACT/Fukuoka Art Culture Talk 」というトークイベントを実施したのですが、街で起きたことを蓄積することを目的に、トークの内容はすべて記録して誰でもアクセスできるようにしています。そうすることは、長い目で見たら後世にも残る街の財産になると思っています。

 

ニック 将来のためのことを考える場に、若い方を巻き込むことは大事ですね。今日も若い方が少ないですが、どういった人とともに考えていくかも重要な気がします。

 

松岡 そうですね。皆さんそれぞれ長く活動されて蓄積があるものの、意外と横が繋がっていないという驚きがありましたが、そこが一つの課題であると思いました。そこに対してエリマネは何ができるかというと、継続的かつ長期的に議論や計画する場を作ることなんじゃないでしょうか。年次の報告だけでなく、5年、10年の蓄積が何を生んだのかを振り返り、検証することも必要です。姿勢としては、今ここに石を積み上げつつ、なるべく遠くにも石を投げておく、ということが求められるのではないかと思います。

 

▷▷▷ 【開催レポート_その2】に続きます。

2023年9月4日、全国エリアマネジメントネットワークの第7期の活動振り返りと、第8期の活動方針を発表する総会を開催しました。今回は福岡を会場に、リアルとオンラインでのハイブリット開催とし、多くの会員の皆さまにご参加いただきました。
また、今回の総会では2021年に発足した若手実務者会議AMU35の活動についても報告を実施。報告がなされた主な内容をレポートいたします。

 

第7期事業報告

前半は、第7期の主な活動と現在の状況について報告を行いました。
総括としては「ナイトタイムエコノミー研究会発足」、「実務的なテーマでのエリマネウェビナー開催」、「エリアマネジメント研究交流会開催」、「人材育成プログラムの実施」が主な活動となりました。それぞれの詳細は以下の通りです。

活動の総括
(1)「ナイトタイムエコノミー研究会」発足

「都市にダイバーシティ&インクルージョンを 〜ナイトタイムエコノミーとエリアマネジメント〜」をテーマに、札幌にて全国エリアマネジメントネットワークシンポジウムを開催し、その後さらに研究・議論を深めるべく、「ナイトタイムエコノミー研究会」を発足しました。研究会・コミュニティ活動としては、すでに活動している「スマートシティ・DX研究会」「グリーン×エリアマネジメント研究会」に続く新たなテーマ。ナイトタイムにおける規制緩和等のルールメイキングや都市のストック活用策などさまざまな切り口で議論を進めています。今後の展開としては、研究会を公開形式で開催することで、より発展的な議論の創出を検討しています。

(2)実務的なテーマでのエリマネウェビナー開催

「ランチタイムラーニング」と称し、エリアマネジメントの展開を支える技術やシステム、サービスを学ぶプログラムを継続して開催。第7期では、SIB(Social Impact Bond)等の新たな財源の可能性について行ったアンケート調査の結果報告や大阪・梅田地区で開始した「地域再生エリアマネジメント負担金制度」の紹介を行うなど、より実務面でのヒントとなるような企画を実施しました。

(3)エリアマネジメント研究交流会開催

第3回の開催となった今年は、第1回が14件、第2回が9件といった発表数に対して、21件と大幅に増加。京橋にある「シティラボ東京」を会場に初めて対面での開催となり、研究者や実践者の交流の場を創出しました。

(4)人材育成プログラムの実施

エリアマネジメント実務者向け研修プログラム「プレイスメイキング講座」や若手実務者会議「AMU35」を継続的に開催し、若手同士の議論や交流機会の充実化を図りました。プレイスメイキング講座では、3名の専門家を講師に招き大丸有地区にて実施し、2日間に渡るフィールドワークやディスカッションを通して多くの方々がプレイスメイキングへの考えや学びを深めました。

その他では、国土交通省と共催のシンポジウム「官民連携まちづくりDay」にて「経済とまちづくり」をテーマにした議論や渋谷エリアマネジメント開催のイベント協力等を実施。
一方で、当初の計画していたより包括的な人材育成プログラムの実施やアンケート等のリサーチ関係も着手に至らなかったため、この点は第8期に引き継ぐこととしました。

 

第8期事業計画

続いて第8期事業計画について、全国エリアマネジメントネットワークの活動方針である「交わる/広める/深める/支える」を軸にした具体的な活動内容の説明を行いました。

第8期の主な活動内容

第8期は「エリアマネジメントの領域展開と実務能力向上に向けて」をコンセプトとして以下の活動を計画しています。

  •  ワークライフスタイルの変化に応じた、今後の社会・都市におけるエリアマネジメントの役割の再考と発信
  •  各研究会やAMU35などのコミュニティ活動の推進を通じた、エリアマネジメントの実務者育成および更なるネットワーク構築
  •  日本各地のエリアマネジメント組織をつなぐ中間支援組織として、今後本ネットワークをどのようにバージョンアップさせていくべきか検討
  •  エリアマネジメントに関するリサーチや理論化、各地のエリマネ組織へのフィードバックの実施とともに、行政との対話の充実化の図り、エリアマネジメントの活動の基盤を構築
  •  アメリカのIDA(International Downtown Association)との継続的な連携推進、海外諸国でのBID等の情報収集やアジア都市との連携活動の展開

これらを方針とし、特に注力したい事業内容について説明を行いました。

(1)情報交換・連携【交わる】

国土交通省との連携による「官民連携まちづくりDay」の開催や、ニュースレター発行を通して、ネットワーク会員間の情報交換・議論の機会を創出します。
また、海外の各組織とリアルで交流できる状態になってきたことを受け、アメリカのIDAとの連携について対話を進めていく予定です。アジアに関しては、BID(Business Improvement District)が法制化するシンガポールとの連携に今後注力していきます。

(2)パブリックリレーション【広める】

期に一度の総会と合わせたシンポジウムの開催と、イベントレポートの作成や配信、ウェブサイトの英語対応等の広報を強化していきます。

(3)エリアマネジメント活動の新たな展開の議論【深める】

前述の3つの研究会の活動を継続しながら、地方都市のエリアマネジメントコミュニティの立ち上げを目指します。また、研究会の議論の一般公開や普及活動も関係団体と連携しながら進めていく予定です。
また、各所で議論を進める中で、行政との連携・対話の重要性が意見として挙がっていることを受け、エリアマネジメントの実務者と行政がリアルな場で議論をするエリマネサロンの開催を検討しています。

(4)エリマネ関連リサーチ【深める】

第7期で着手に至らなかったエリアマネジメント関連のリサーチを進めていくためにリサーチチームを組成し、本ネットワークにおけるリサーチ事業の実施・監修を行います。
アンケートに関しては、新たな試みとして研究者との共同研究の募集を行い、調査の深化を図ります。

(5)ノウハウ蓄積・人材育成【支える】

AMU35やプレイスメイキング講座を引き続き開催し、学びの機会を創出します。人材育成に関しては、幹事会メンバーを中心に実行委員を立ち上げ、エリアマネジメントを支える人材育成プログラムの企画検討、育成事業パイロット版の実施を新たな取り組みとして検討しています。

(6)組織体制に関する検討【支える】

本ネットワーク10期目に向けて、これまでの活動を振り返りながら中間支援組織としての今後のあり方や事務局体制、活動方針を検討していきます。幹事会メンバーを中心に検討の機会をつくり、議論が充実する体制にすべくニーズの洗い出しやコミットを高める工夫を展開していく予定です。

議長 内川副会長(左)、司会 藤井事務局長(中央)、資料説明 長谷川事務局次長(右)

(※本通常総会は、本来議長である小林会長の会場参加が叶わなかったため、定款第21条2項に則し副会長が議長を務めております。)

 

全国エリマネ若手実務者会議AMU35の活動について

続いて、全国エリアマネジメントネットワーク若手実務者会議「AMU35」の活動内容について、幹事メンバーの梅田地区エリアマネジメント実践連絡会の皆川氏、広島駅周辺地区まちづくり協議会の金井氏、一般社団法人日本橋浜町エリアマネジメントの浅野氏から報告いただきました。

今期のAMU35幹事メンバー 金井氏(左)、皆川氏(中央)、浅野氏(右)

 

AMU35の概要

AMU35は、エリアマネジメントに関わる様々なトピックについて若手の実務者が意見を交わし、具体的なアクションを紡いでいくことを目的とした研究会として、2021年6月に発足しました。対象はエリアマネジメント団体に職務として携わっている、かつ35歳以下の本会員とし、 現在は全国から63名が参加しています。

活動内容は、メンバー間のディスカッションや現地視察を中心に行っており、今後は講師を招いた勉強会や就活生・学生といったより若い層へのアプローチする活動を検討しています。

活動実績|2022年9月〜2023年8月

この1年間の具体的な活動実績は以下の通りです。

(1)今後の活動を考える検討会(1回実施)

グループワークを行い、全国エリアマネジメントネットワークの活動方針である「交わる/深める/広める/支える」の4つの観点から、今後AMU35でどのようなことをしていきたいか、何が適切か、アイデアを出し合い議論しました。

(2)メンバーミーティング(オンライン/4回実施)

3ヶ月に一度、各回でインプットトークの担当者を決めて各エリアマネジメント団体の取り組みを紹介いただき、それに関わるディスカッションをすることで情報共有及び意見交換を行いました。この1年では、広島、福岡、福井といった地方都市におけるエリアマネジメント団体の取り組みについても議論の場を設け、メンバーの知見を深めました。

(3)フィールドワーク(オフライン)

2023年7月24、25日の一泊二日、関西エリアにてフィールドワークを開催。1日目は、難波から中之島までの4エリアを視察し、現在工事中の難波駅の広場や道を活用した御堂筋の再整備、中之島の水辺のエリアマネジメントを見学しました。

2日目は神戸の東遊園地のパークマネジメントの活動や中央通りのほこみち、三宮センター街の見学を行い、梅田エリアでは現在工事が進んでいるうめきた2期のPRセンターを訪問。参加メンバーは北海道から広島まで全33名となりました。

 

このように、定期的なメンバーミーティングやフィールドワークの開催を通してコミュニティ形成を図り、その中で若手実務者の悩みや苦労話などを共有しながら、お互いの理解を深めることに注力してきました。

一方で、議論の場で活動について多くのアイデアや意見が出るものの、具体的なアクションは生じていないため、今後は実務への支障をきたさない範囲で活動や交流の機会を広げ、研究会としての意義を高めていくことに取り組んでいきます。

 

全国エリアマネジメントネットワークの活動は年々多岐に渡っていますが、エリアマネジメントの役割もますます多方面で求められていきます。そうした中で、より知見や意見を深め合い、今後の実務へと繋げられるよう、会員の皆さまのご意見を反映しながら研究や交流の場を創出してまいります。

これからの全国エリアマネジメントネットワークの活動にぜひご期待ください。

☞ 総会資料はこちらからダウンロードできます。
全国エリマネ第8回通常総会資料

全国エリアマネジメントネットワーク事務局

沢山の皆様のご尽力のもと、2023年7月1日 会場発表及びオンライン配信にて「エリアマネジメント研究交流会 第3回」を実施致しました。

 

第3回は21件の発表エントリーがありました。
そのため、発表会場とウェビナーを2つに分けての実施となりました。
▷当日のプログラムはこちら


「左側:◇チャンネル2:事例報告」⇐⇐⇐  ⇒⇒⇒「右側:◇チャンネル1:調査報告/研究報告」

 

◇チャンネル1:【セッション1】調査報告 及び 【セッション2】研究報告

各セッション4件(計8件)の発表がありました。



エリアマネジメント活動の評価指標や効果検証、収益の観点からの調査、社会課題への対応など、多様な切り口での報告がありました。
調査と研究という比較的アカデミックなテーマですが、サロン形式での実施だったため、大変柔らかい雰囲気の中で活発な議論・意見交換が行われました。

 

◇チャンネル2:【セッション3】事例報告

全13件の発表がありました。


東京、大阪、仙台、広島、富山、前橋、水戸と、全国各地の多様な事例報告でした。
実行委員長の嘉名先生(大阪公立大学大学院)からは、「苦労話をシェアしていただいたのは研究交流会ならでは」とのお言葉を頂いたとおり、成功例だけではなく課題等のお話しも多く挙げられました。

 

参加者及び視聴者からの意見や感想も多数あり、限られた時間ではありましたが、両会場とも充実した情報意見交換・議論ができたと感じております。

 

アワード受賞者

第3回のアワードは以下の方々が受賞されました。 ※「◎」は発表者

【調査研究部門】
◇社会課題に対応する先進的なBID等の事例調査報告
  ◎深谷麻衣(三菱総合研究所)、 山崎 潤也(東京大学)
     吉田 崇紘(東京大学)、 似内 遼一(東京大学)、 真鍋 陸太郎(東京大学)、 村山 顕人(東京大学)

◇地域特性からみたエリアプラットフォームの組織及び活動の特徴
   ー全国98のエリアプラットフォーム団体の実態整理を踏まえてー
  ◎⼩野寺 瑞穂(⽇本⼤学⼤学院理⼯学研究科・院生)、
     ⼀之瀬 ⼤雅(⽇本⼤学⼤学院理⼯学研究科・院生)、 泉⼭ 塁威(⽇本⼤学理⼯学部 准教授)

【研究報告部門】
◇温熱環境調査・解析と模型制作を組み合わせた気候変動適応まちづくりワークショップ手法
   -名古屋市中区錦二丁目地区における実践を通じて-
  ◎山崎 潤也(東京大学)
     森田 紘圭(錦二丁目エリアマネジメント株式会社)、名畑  恵(錦二丁目エリアマネジメント株式会社)
     似内 遼一(東京大学)、 真鍋 陸太郎(東京大学)、 村山 顕人(東京大学)

◇メインストリートに接する横道における歩行者行動に関する研究 ー大阪難波地区を対象としてー
  ◎神田 佳祐(大阪公立大学院・院生)、
     嘉名 光市(大阪公立大学院)、 高木 悠里(大阪公立大学院)

【事例報告部門】
◇河川施設利活用を通したエリアマネジメント組織による収益事業スキームの構築と展開
  ◎末繁 雄一(一般社団法人ナカメエリアマネジメント/東京都市大学)、
     竹内 幹太郎(株式会社富士通総研)

◇住宅用途主体の再開発エリアにおける永続的なエリアマネジメントの実現に向けた活動~
   一般社団法人小岩駅周辺地区エリアマネジメントを事例として~
  ◎安藤  響(野村不動産株式会社開発企画本部)
  ◎都築 敏行(一般社団法人小岩駅周辺地区エリアマネジメント)
     髙村 和明(株式会社 HITOTOWA)

◇前橋市馬場川通りにおける連鎖発展的社会実験による中心市街地活性化の担い手育成と賑わい創出
  ◎日下田 伸(一般社団法人前橋デザインコミッション/宇都宮大学大学院・院生)
     味戸 正徳(一般社団法人前橋デザインコミッション/宇都宮大学大学院・院生)
     本橋  豊(一般社団法人前橋デザインコミッション)、
     加部 雅之(一般社団法人前橋デザインコミッション)、
     高橋 悠香(一般社団法人前橋デザインコミッション)
     奈良 美里(一般社団法人前橋デザインコミッション)

【ベストプレゼンテーション部門】
◇大学がなかった墨田区とiU大学が取り組んだ「プロジェクトによる学生の成長」
  ◎渡慶次 りさ(iU 情報経営イノベーション専門職大学)


第3回 アワード受賞者の皆様

 

本研究交流会恒例となりました“舗装材トロフィーシリーズ”
第3回目のトロフィーは、大阪 御堂筋よりご提供頂きました舗装材『アンゴラブラック』をのトロフィーです。
受賞者の方々には、御名前とタイトルを記載し、制作後に各受賞者に贈呈されます。(受賞者の皆様は楽しみにお待ちください。)

 

トータル5時間という長丁場ではありましたが、学生の方、学識経験の方から、実践者の方々まで多岐に渡るエリアマネジメントに関わる発表を伺うことができ、大変有意義な会となりました。
参加者の皆様、付き合いいただきました視聴者の皆様、ありがとうございました。

 

「エリアマネジメント研究交流会 第3回」梗概集 作成しました
下記よりダウンロードください。(※ファイル容量が大きいためダウンロード時はご注意ください)
☞ ダウンロード 【梗概集2023】エリアマネジメント研究交流会_第3回

 

▲第3回選考委員▲
○実行委員長:嘉名 光市(大阪公立大学院 教授)
○各セッション担当委員
【調査研究部門】
司会:村山 顕人(東京大学 准教授) サポート:籔谷 祐介(富山大学 講師)
【研究報告部門】
司会:宋 俊煥(山口大学 准教授) サポート:堀 裕典(岡山大学 准教授)
【事例報告部門】
司会:要藤 正任(京都大学 特定教授)/丹羽 由佳理(東京都市大学 准教授)/泉⼭ 塁威(⽇本⼤学理⼯学部 准教授) サポート:上野 美咲(和歌山大学 講師)
○全体司会・運営:全国エリアマネジメントネットワーク事務局

会の実施・運営にご尽力いただきました皆様、ありがとうございます。

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