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沢山の皆様のご尽力のもと、2021年7月10日 オンライン開催にて「エリアマネジメント研究交流会 第1回」を実施致しました。

15件の応募、内14件の発表をもって、第1回の発表会が終了致しました。
5時間30分にも及ぶ長丁場に付き合いいただきました皆様、ありがとうございました。
学識の方々の発表から、実践者の方々まで多岐に渡るエリアマネジメントに関わる皆様の発表を伺うことができ、大変有意義な会となりました。
ご尽力いただきました皆様、ありがとうございます。

アワード受賞者
第1回のアワードは以下の方々が受賞されました。

【調査研究部門】
◇景観マネジメントの担い手としてのエリアマネジメント団体の可能性
-エリアマネジメント団体による景観形成に関するルールの策定状況とその運用実態に着目して-
◎高木悠里、嘉名光市、蕭閎偉
【実践報告部門】
◇エリアマネジメント組織による街区公園のミニ改修
◎宇山穂、天野佑介
◇エコディストリクト研究会の活動報告
◎久保夏樹、村山顕人、真鍋陸太郎、山崎潤也、深谷麻衣、日下田伸、諸隈紅花、堤遼、小松航樹
◇横浜市金沢シーサイドタウンにおける活性化の取り組み 「あしたタウンプロジェクト」
-既成住宅市街地におけるエリアマネジメント体制構築の要点と課題-
◎中西正彦、三輪律江、太田祐輔
【ベストプレゼンテーション部門】
◇「まちからベンチ」と「インターネットシェアスペースサービス」を通じたまちづくりにおける
狭小空間の柔軟な利用について
◎西山徹

受賞者の方々には、御名前とタイトルを記載したトロフィーを贈呈しました。
記念すべき第1回目のトロフィーは、大丸有中通の舗装財でおなじみ『アルゼンチン斑岩トロフィー』でした。

「エリアマネジメント研究交流会 第1回」梗概集 作成しました
下記よりダウンロードください。(※ファイル容量が大きいためダウンロード時はご注意ください)
☞ ダウンロード 【梗概集2021】エリアマネジメント研究交流会_第1回

 

▲第1回選考委員▲
○実行委員長:嘉名 光市(大阪市立大学 教授)
○各セッション担当委員
【セッション1 調査・研究報告】
司会:村山 顕人(東京大学 准教授)サポート:丹羽 由佳理(東京都市大学 准教授)
【セッション2 事例報告_ Group 1:空間活用】
司会:野原  卓(横浜国立大学 准教授)サポート:三牧 浩也(UDCネットワーク)
【セッション3 事例報告_ Group 2:計画・ビジョン形成】
司会:籔谷 祐介(富山大学 講師)サポート:宋 俊煥(山口大学 准教授)
【セッション4 事例報告_ Group 3:コミュニティ形成】
司会:要藤 正任(京都大学 特定教授) サポート:上野 美咲(和歌山大学 講師)
○上記役割外審査会参加実行委員:
堀 裕典(岡山大学 准教授)/保井 美樹(全国エリアマネジメントネットワーク副会長/法政大学 教授)
○全体司会・運営:全国エリアマネジメントネットワーク事務局

2021年9月17日(金)、全国エリアマネジメントシンポジウム2021が開催されました。

今なお世界中のあらゆる産業に甚大な打撃を与えている新型コロナウイルス感染症。エリアマネジメントの領域も例外ではなく大きな影響を受けており、まちづくりやコミュニティに対するアプローチの見直しが求められています。

エリアマネジメントのあり方が大きな転換期を迎える中、本年のシンポジウムはSDGsにも大きく関わってくる「グリーン」「コミュニティ」「クリエイティビティ」の3つをキーワードに掲げて開催。各キーワードをエリアマネジメントに落し込んでいくには何が必要になるのか、そしてafterコロナ/withコロナ時代のエリアマネジメントはどのような姿になっていくのかといったことを、有識者の皆さまのプレゼンテーションやトークセッションから探っていきました。当日の要旨をレポートします。

なお本シンポジウムは感染状況を考慮してオンラインでの開催となりました。


パンデミック下における国内と北米のエリマネ組織の動向変化

冒頭、国土交通省都市局局長の宇野善昌氏より開会のご挨拶をいただきました。

国土交通省都市局局長の宇野善昌氏

 

「様々な要因で社会情勢が大きく変化している中で、都市における一番の課題は『持続可能性をどう身につけるか』だと思っています。その中で我々がまちづくりに関わっていくに3つの観点が必要です。ひとつは『ハードとソフトの整備の仕方』です。人口拡大に伴って都市が拡大している時代では何らかのモノをつくれば目的通りに使われる、つまりハードがソフトを伴っていました。しかし高齢化により人口減少が進む社会では、どのようにハードを使ってもらいたいかということから考えていかなくてはなりません。それと並行する話ですが、官主導のまちづくりから『民主導、あるいは官民連携』がこれまで以上に重要になってくる世界が訪れています。そして3つ目が『既存ストックの活用』です。現在、街にはストックが十分に整っているので、新たにつくるよりも今あるストックをどのように使い倒していくかという発想が必要になります。これらはいずれもエリアマネジメントにつながる考え方であり、この3つの観点を持ちながら我々も必要な支援をしていきたいと考えています」(宇野氏)

続いてプレゼンテーションへと移ります。まずはエリアマネジメント組織の実態把握及び発展に向けた基礎資料とすることを目的に、エリアマネジメント会員と一部法人会員計45団体を対象に実施したアンケート調査の報告です。このアンケートは、エリアマネジメント組織の形態やスタッフ構成、資金などの「組織の概要」、活動対象地域における課題や具体的なエリアマネジメント活動内容などの「活動概要」、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した取り組み状況などの「SDGsとエリアマネジメント」という3つのセクションに分けて調査したもので、全国エリアマネジメントネットワーク事務局の長谷川隆三、並びに京都大学経営管理大学院特定教授の要藤正任氏より報告が行われました。

長谷川より報告したセクション1とセクション2においては、6割以上の団体が「住民やワーカー、企業同士のネットワークが弱い」という課題を感じていることや、コロナ禍の中で半数近くの団体が屋外空間活用への取り組みを実施したこと、また半数以上の団体が新型コロナの影響で収入が減少したことなどが報告されました。また要藤氏より報告いただいたセクション3に関しては、約4割の団体が「SDGsを意識し、それに沿った取り組みを実施している」こと、その中ではまちづくりに関する取り組みだけにとどまらず、中水を利用した打ち水イベント、干潟・海・河川に関するなど環境教育に関するものも多いことなどが報告されました。

次に、International Downtown Association(IDA)のPresident & CEOであるデーヴィッド・ダウニー氏による「COVID-19の時代における北米のエリアマネジメント」についてのプレゼンテーションが行われました。ダウニー氏らの調査研究では、北米の多くのビジネスパーソンがフルタイムでオフィスでの労働を避けたいと考えていること、それに伴ってハイブリッドワークモデルの働き方がなくなることはないという予測が報じられました。また、パンデミック下において屋外スペースの活用などを実施したBID組織に対する市民の信頼度が向上しているという意見が増えていることも紹介。そして今後エリアマネジメント業界が取っていく戦略として、(1)積極的に信頼できるリーダーの役割を果たすこと、(2)パブリックスペースの恒久的活用、(3)住民の少ない都心での活動レベルの向上、(4)社会的公正に基づいたリカバリー、(5)パンデミックは今後10年の都市変革の機会と認識すること、という5つが紹介されました。最後にダウニー氏は次のように述べてプレゼンテーションを締めくくりました。

「このパンデミックで、献身的なエリアマネジメントのプロフェッショナルの人たちの素晴らしい仕事を自覚しました。彼らは、自分たちの都心がパンデミック下を生き残るように努めつつ、その都心のさらなる発展と活性化を図るための新たなビジョンを作り出しています」

IDAのロバート・ダウニー氏

 


グリーンインフラとエリアマネジメントの相互連携への期待

東京農業大学地域環境科学部准教授の福岡孝則氏

 

続いて東京農業大学地域環境科学部准教授の福岡孝則氏より「グリーンインフラとエリマネへの期待」という題で、「リバブルシティ(住みやすい都市)」のあり方とグリーンインフラの可能性についてプレゼンテーションが行われました。

リバブルシティとは、経済成長や利便性だけでなく、その街で働き生活をする多世代の人々が、文化・社会、健康、環境など多様なライフスタイルを選択しながら快適に住み続けられることを重視する考え方で、コロナ禍で多くの人の生活スタイルに変化が生じたことも相まってこれまで以上に重要視されています。リバブルシティに関連して注目度が高まっているのが「グリーンインフラ」です。自然の力を通じて生物多様性や減災の実現、あるいは質の高いライフスタイルを演出するグリーンインフラとリバブルシティの関係性について、福岡氏は次のように整理してからプレゼンをスタートさせました。

「エリアマネジメントでは、エリア全体をどうオーガナイズするかも大事ですが、一つひとつの場所に介入してベストな選択をして都市を変えていくアクションも重要です。都市のビジョンやガイドライン、方向性など上位に位置するものに対して個別の場所がどう呼応していくのか、個々の場所と緑をどうつなげていくのか、そして緑の場所に介入していくことでそのエリアにどのような可能性が広がっていくかということは、エリアマネジメントに関わる方も興味があるのではないでしょうか」

エリアマネジメントとプレイスメイキングの概念図

 

こう述べた上で福岡氏は、プレイスメイキングとグリーンがクロスした5つの事例を紹介していきました。

(1)民間の敷地で展開するプレイスメイキング(東京都港区・コートヤードHIROO

旧厚生省の官舎、駐車場を一体的にフルリノベーションし、住宅・飲食など多用途の施設に再生させた事例。施設内には健康や食、アートを取り扱う事業者が入り、定期的に施設内のスペースを開放したイベントを開催。各イベントはディベロッパー自らが企画しており、「こうした小さくてクリエイティブなディベロッパーのあり方は今後問われてくるのでは」と福岡氏は説明しました。

(2)公園の社会実験からマチの戦略へ(兵庫県神戸市・東遊園地)

2014年に市民有志が既存の公園に芝生を敷き、カフェやアウトドアライブラリーなどを設置する「アーバンピクニック」という社会実験を実施したところ、翌年以降神戸市や多様な市民が関わり始めた事例。社会実験の結果、公園の再整備、主体組織の都市再生推進法人指定や、パビリオンの再活用などの展開が進みました。社会実験とシンクロするように、神戸市都心部でLiving Nature Kobeという自然を中心にした都市のビジョンづくりが進行中です。福岡氏は、小さな公園からスタートした活動に色々な市民が主体的に関わり、徐々に街全体に広がっていった点が特徴的と述べました。

(3)公民連携で公園のようなマチをつくる(東京都町田市・南町田グランベリーパーク)

公民連携で既存の公園や商業施設、さらには駅、道路の再編集・再整備という一体的なプロジェクト。隣り合っていながらも分断されていた公園と商業施設を、道路の再配置などによりオープンスペースを通じてつなげ「すべてが公園のような街」を作り上げていきました。商業施設にもふんだんに緑を配し、特に施設の屋上には多年草を植えることで1年中植物を楽しめる空間を創成。一方で公園については市民も含めたワークショップを開催して課題や問題を洗い出していった末、人々が自然に身体を動かしたくなるように「アクティブデザイン」の考えを取り入れて再整備を実施。商業施設、公園、また隣接するスヌーピーミュージアムやまちライブラリー等はそれぞれ別の組織がマネジメントしていますが、各組織を取りまとめる「みなみまちだをみんなのまちへ」という一般財団法人が官民連携で設立されている点も特徴です。

(4)BIZとグリーン・プレイスメイキング(アメリカ・デトロイト)

デトロイトの都市中心部の高速道路とデトロイト川に囲まれた140ブロック、約2.8平方kmをBusiness Improvement Zone(BIZ)に設定し、公開空地の改修やプレイスメイキングに取り組んでいる事例。この取り組みには550の民間企業が参加しており、各企業からの年間約4億円に上る会費収入の一部を活用しているといいます。デトロイトは自動車産業で有名な都市ですが、BIZを通じて都心部で戦略的に緑の場所を中心にした取り組みが展開されていることなども説明されました。

(5)エリマネとグリーンインフラ(イギリス・ロンドン)

ロンドンのヴィクトリア駅周辺におけるVictoria BIDによるグリーンインフラの取り組み事例。「清掃・緑化」「安全・治安」「持続可能な発展」「観光誘致」「公共空間」の5分野で活動を展開しています。同BIDは単に街に緑を設置するだけではなく、緑化のための潅水システムや水害抑制効果の試算などにも取り組んでいる点がポイントであり、中でもキングスクロスで展開されている化学薬品を一切使用していないスイミングプールは「自然と水と緑の関わりを通じて人間の奥底に触れるものとして重要になってくる気がする」と、福岡氏は述べました。

各事例を紹介した上で福岡氏は、グリーン×プレイスメイキングの取り組みを進める上で、(1)場所(グリーンプレイス)から始める、(2)時間と場所のマネジメント、(3)グリーンインフラに育てる、という3つがポイントになると説明しました。

「それぞれの場所だけで取り組むのではなく、公民、民と民、公と公など様々な形での連携が必要ですし、それをつなぐ中間支援組織のあり方も考えていくべきだと思っています。またランドスケープ空間は時間と共に変化していくものなので、それが媒介となって化学反応を起こす感覚も重要ですし、緑と既存のアセットを絡めながらマネジメントやキュレーションしていくことがディベロッパーには求められるでしょう。そして表層的な施設や植物だけを考えるのではなく、『読む(調査)』『書く・描く(計画・設計)』『動かす(施工)』『育てる(管理運営・マネジメント)』という4つを意識し、その場所をグリーンインフラに育てるという観点も非常に大切になります」

最後に次のような言葉で講演を締めくくりました。

「現在は公園や緑分野と街とでは管理者が異なる場合が多いですが、両者が相互に絡み合い、学び合いできるようになっていくともっと楽しいですし、街も変わってくるのではないかと考えています」

グリーンインフラに必要な4つのキーワード

 


エリアマネジメント側から緑の専門家に働きかけを

福岡氏のプレゼンを終えるとトークセッションへと移ります。トークセッションには福岡氏と事務局の長谷川に加え、全国エリアマネジメントネットワーク会長の小林重敬氏、Groove Designs代表の三谷繭子氏が参加。次のような質疑応答がなされました。

全国エリアマネジメントネットワーク会長の小林重敬氏

 

Groove Designs代表の三谷繭子氏

 

Q. 今後日本でのエリアマネジメントが緑を意識していく上で、クリエイティブな要素を入れることが鍵になると思っています。またカリフォルニアでは郊外に行って緑を楽しむのではなく、都心で緑を楽しむような風潮が出てきています。こうした点についてどのように考えていますか?(小林氏)

A. コロナの影響で都心に人が集まらなくなったことで、オフィスとは何か、人が都心で働く意味は何かということを考えました。オフィスやその周辺に緑が溢れる空間があることでできる役割もあると思っていますが、それが何なのかは今は簡単にはお答えできません。ただ、クリエイティブな人々が自分たちで参加したいと思って集う街になるにはそのような視点も必要な気がしています。また事例紹介で挙げたキングスクロスのプールのように、自然と人との新しい関係が作れる都市空間についても考えていく必要があると思っています。

ただ、民間企業が美しい公共空間をつくるのはいいのですが、一方で私の立場としては、どうやってそこに公共性を持たせるかという観点を持つことも大事にしています。ですから、民間と公共がお互いの力を引き出し合うことも頑張らなくてはいけないんじゃないかと感じています。(福岡氏)

Q. 神戸市のアーバンピクニックの事例では、グリーンプレイスを中心にクリエイティビティを創発し、色々な団体が協力し合い新しい活動が生まれていったということですが、その流れはどのように起こっていったのでしょうか。(三谷氏)

A. 東遊園地の場合、アーバンピクニックと同時にEAT LOCAL KOBEという地産地消を推進する社会実験も他主体によって同時に行われていました。同じ公園の中で2つの社会実験が生まれたように、神戸には様々な組織がありますので、それぞれの力の良さをどう引き出していくかが大事になります。

新たに再開発してできた地域の組織の場合は、企業の協力もあって人手も資金も安定していますが、そうではないローカルな場所でのエリアマネジメントがどう発展していくのか、どう地域に活きていくのかを見ていくことも勉強になると思っています。(福岡氏)

Q. 周囲の人々に緑の空間の必要性や価値を伝えていく上でのコツがあれば教えて下さい。(三谷氏)

A. 緑の重要性や、サステナブルな取り組みが大事だと訴えることで付いてきてくれる層もいます。しかしより多くの方に参加してもらうには、例えば緑×健康・スポーツというように異なる分野のものと掛け合わせることが有効になります。緑と何を組み合わせることで両者の価値を上げていくことができるかを考え、企画を立てていけるといいなと思っています。もちろんすべてをコントロールできるわけではありませんが、そこがランドスケープや屋外空間に携わる面白さでもあると思っています。

最後に福岡氏は次のようなコメントでディスカッションを締めくくりました。

「地域には、造園屋や庭師など、植物に詳しい方は実はたくさんいるのですが、そういった方々はエリアマネジメント側との接点があまりないんです。しかし地域によっては共に活動している例もありますので、エリアマネジメントの方々からも緑や植物の専門の方に声を掛け、誘ってもらえると、色々な可能性が開けると考えています」(福岡氏)


虎ノ門・麻布台エリアで進むグリーンコミュニティの実践事例

森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部の中裕樹氏

 

続いて、森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部の中裕樹氏より、「グリーンコミュニティの実践」というタイトルでプレゼンテーションが行われました。森ビルは、建物を高層化することによって活用できる空間を増やして公園や緑をつくり、人々に開放していく「Vertical Garden City」というコンセプトを掲げてまちづくりを展開している企業です。中氏は同社において虎ノ門ヒルズの運営や新虎通りのエリアマネジメントを担当しつつ、個人としても居住する港区の地域活動や他地域でのマルシェのボランティア、ゴミ拾いボランティアを行うNPO法人グリーンバードの活動など、公私に渡ってまちづくりに携わっています。こうした精力的な行動は「エリアマネジメントには『その街の圧倒的な当事者であること』が必要」という考えを持っているからだと中氏は説明しました。

森ビルのコンセプトである「Vertical Garden City」のイメージ図

 

そんな中氏は、現在進行系でグリーンコミュニティ構築を実践している事例として2023年竣工予定の「虎ノ門ヒルズプロジェクト」と「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を取り上げました。前者は、虎ノ門ヒルズエリアの7.5ha、延床面積80万平方メートルの区域に、商業施設やホテル、新たなビジネスの創出拠点となるイノベーションセンターなどを備えるプロジェクトです。東京大学生産技術研究所(IIS)と英国王立美術大学院大学ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)が連携して開催する教育プログラムや、ビジネスタワー内に国内最大級のスタートアップ集積拠点CIC Tokyo、日本版イノベーション創出拠点ARCHといった施設を設けるなど、現時点でも様々な取り組みが展開されています。また後者は、虎ノ門から赤坂や六本木を含めた麻布台エリアの道路や公園などのインフラを整備し、防犯防災面における都市機能の更新を実現するもので、1989年のまちづくり協議会設立後、30年以上に渡って地元住民を含めて議論を重ねながら進めてきたものです。いずれも東京都港区という都心を舞台としたプロジェクトですが、「緑」が重要なキーとなっていると中氏は説明しました。

「従来の虎ノ門は実は人が集まりづらいところがありました。そこで虎ノ門ヒルズプロジェクトでは、4つの高層ビル(うち1つの(仮称)ステーションタワーは2023年竣工予定)を緑とデッキでつなげることでネットワークを構築し、各エリアを結びつけていきたいと思っています。各施設にはイノベーションやクリエイティブの拠点ができ始めているので、緑を通じて各要素をうまく噛み合わせていきたいです。さらには、虎ノ門ヒルズの南側にある愛宕神社や北側にある日比谷公園なども緑でつないでいくことで、虎ノ門ヒルズをこの地区の拠点にしていきたいと思っています」

「虎ノ門・麻布台プロジェクトは、『MODERN URBAN VILLAGE 緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街』というコンセプトを掲げています。『GREEN』と『WELLNESS』を軸に、自然と調和した環境と人間らしく生きられるコミュニティをつくろうというものです。建物を高層化して足元を緑化するという基本的な考え方は同じですが、街の中心に緑の広場を置くことで、人の流れがシームレスになるランドスケープを計画していますし、建設予定の建物もすべて緑化していく予定なので、生活と緑が一体化した環境をつくろうとしています」

虎ノ門・麻布台プロジェクトは、実際に国内外の環境認証を取得した上で進められています。またWELLNESSの観点では医療施設を核として、フィットネスクラブやスパなどもつくられる予定であり、「健やかに過ごし、働きながら、様々なイベントを通じて新しいアイディアや楽しみが生まれる街」を目指しているそうです。そして中氏は、最後にこのプロジェクトの意義と今後の展望を次のように話して講演を締めくくりました。

「これまで森ビルは都市に緑をつくってきましたが、今回紹介した事例はその象徴的なプロジェクトになるはずです。森ビルの社長であった森稔は、緑を通じて虎ノ門や麻布台、さらにはより広い範囲をつなげるグランドデザインを描いていましたが、まさにそのようなイメージの大街区ができると考えています。今後も我々はこの地域のエリアマネジメントを通じて、どのような価値を付けられるか考えていくつもりです」

各エリアを緑でつなぐ虎ノ門ヒルズプロジェクトのイメージ

 

街やビルを緑化する虎ノ門・麻布台プロジェクトのイメージ

 


パークマネジメントとエリアマネジメントの連携が今後の鍵

中氏のプレゼンを終えると、小林氏、三谷氏、福岡氏、長谷川を交えたトークセッションに移ります。その冒頭、小林氏から緑とクリエイティブにどのような関係についてインプットがありました。

近年、エリアやコミュニティに存在する緑や自然が人間の創造性にどのように寄与するかという点に関しては科学的なアプローチがなされるようになっています。例えば日本医科大学医学部教授の李卿氏は『森林浴』(まむかいブックスギャラリー)の中で、森林浴は人間の免疫力を高めてメンタルを整えることや、人の創造性を高め、思考をポジティブな方向に変える力があることを科学的根拠と共に紹介しています。また千葉大学環境健康フィールド科学センター特任研究員の宮崎良文氏も『森林浴 Shinrin-Yoku』(創元社)の中で、ここ15年ほどの間に自然セラピーの生理的評価システムが確立されつつあり、新規データが提供されていることを紹介した上で、かつては自然を捨てた都市空間において自然を取り戻す重要性や、緑が街の価値を高めることに触れている点は「エリアマネジメントにつながる発想」と小林氏は説明します。

また、創造性を高めるという点では、緑が発する音などが人間の脳や身体に与える影響についての研究も進められていることも紹介。例えば脳科学者の大橋力氏は『音と文明—音の環境学ことはじめ』(岩波書店)で機能主義的な都市計画によって身近な空間から緑が引き離されてしまった時代において、如何にして植栽や昆虫を含む小動物などの自然生命系を生活空間に組み込み、人間の脳に刺激を与えるとされる「ハイパーソニック・エフェクト」を生み出せるかが喫緊の課題であると指摘しています。また慶應義塾大学環境情報学部教授の諏訪正樹氏は『身体が生み出すクリエイティブ』(ちくま新書)でクリエイティブ=身体知と定義した上で、森の中を散歩したり、街路樹がある空間を散歩したりすることで人の身体は刺激を受け、クリエイティビティを高められると考えていることに触れていきました。

「大丸有エリアでも、大阪駅周辺のうめきた2期開発においても、緑の空間を増やす試みが行われています。私もそれらに関わっていますが、こうした取り組みは、グリーンとクリエイティビティが深いところでつながっていると考えているからです」(小林氏)

次に、各参加者からのコメントもふまえて質疑応答がなされました。

Q. 森ビルは様々な形で緑を展開していますが、これはクリエイティブを生み出し、人材を育てることにつながると考えています。緑とクリエイティブの関係性について、森ビルとしてはどう考えているのでしょうか。(小林氏)

A. 今回紹介した虎ノ門・麻布台プロジェクトは各施設の真ん中に緑があるので、すべてが何らかの形で緑に関わってきます。エリアで働く人が新しいビジネスを起こしたとするとそのベースには緑がありますから、その意味で緑がクリエイティブにつながっていくと考えています。(中氏)

Q. 中さんは現在「パークマネジメント推進部」に属しているとお聞きします。今回ご紹介いただいたプロジェクトは単なるタウンマネジメントではないので、パークマネジメントという名前の部署が動いていることは非常に重要なことだと思っています。パークマネジメントに携わる人とエリアマネジメントに携わる人はそれぞれ異なるスキルセットがあるのでいい形で連携できるとお互いにいい影響が出てくると思っていますが、現実にはまだまだうまく連携できていませんし、そのための中間支援組織が少ないとも感じています。こうした点についてどのように考えていますか。(福岡氏)

A. 立ち上げ当初は右も左も分からないような状態でしたが、カーボンニュートラル宣言を始め社会情勢が大きく変わっている中で、とても重要な仕事に関われていると思っています。これまで見えていなかったものを緑という軸を通すことで見えるようにしたり、違った見方を生み出したりできていますし、緑を通じて色々な企業や人がつながっていくことで、前向きな取り組みがさらに増えていくとも感じています。実際にやっていることはいわゆるパークマネジメントという言葉とは少し違うかもしれませんが、都市ならではでできることを実現したいですし、現在取り組んでいるプロジェクトを通じて、2023年までに実現していくつもりです。ただ、やはり難しい部分はたくさんありますので、植物と向き合ってきた方々とどうつなぎ合わせていくかは重要です。そうやって、今まさにグリーンコミュニティを実践している状況です。(中氏)

Q. エリアマネジメントにおいては緑があることの価値を利用者にいかに感じてもらうかが重要です。エリアとしてサステナビリティ向上に取り組む意義や認知を広げるためのアプローチをどうお考えでしょうか。(三谷氏)

A.森ビルが運営する各ヒルズを中心にコロナ禍において感染症対策のために様々なルールを作りましたが、関係者一人ひとりが自分ごととして捉えることで自然と浸透していきました。そういったことができるのであれば、緑に関しても落ち葉を清掃しよう、植栽を整えようといったことができるのではないかと感じました。人々の意識を高める取り組みは、今後街を作っていく上で必要だと思いますし、街を一体的に運営していく立場だからこそできることもあると感じています。例えばデジタルアプリの活用などは有効だと考えていますが、実際にどのように仕組み化するかは悩んでいるところでもあります。(中氏)

質疑応答を終えると、福岡氏からグリーンインフラとエリアマネジメントに対する期待のメッセージが送られました。

「何度か触れさせていただきましたが、パークマネジメント側とエリアマネジメント側がどれだけ力を合わせられるかが重要だと思いますし、そこにはもちろん行政の協力も必要です。そのためのシナリオやネットワークのつくり方は無限にあるはずです。そのような関係性ができれば、気候変動やサステナビリティに関する課題にも向き合っていけるでしょう。そのためにも、今回のシンポジウムのような形で色々な組織や人が刺激を与え合う機会をもっと設けていければと思っています」(福岡氏)

グリーン×コミュニティ×クリエイティビティ

       ~これからのエリアマネジメントの可能性を探る~

昨年からのCovid-19による地域経済への打撃は収まることなく続いており、私たちの暮らし方、働き方も大きな変化を受けている。そのような中で、エリアベースで街の魅力や価値を考え実践するエリアマネジメントには何が出来るのか、また、エリアマネジメントの実践によって地域経済の再興や人々の生活の質の向上、更には環境問題等のグローバルリスクへの対応にどのように貢献できるのかは、全国のエリアマネジメントに取り組む主体にとっても大きなテーマとなっている。
本年のシンポジウムでは、“グリーン”、“コミュニティ”、“クリエイティビティ”をキーワードに、エリアマネジメントというエリアベースの取組みが、人や企業が街で活動することに対する満足度を高めるだけでなく、経済や社会、環境と言ったSDGsへの対応にもつながっていくのではないかということを世界的な動きやコミュニティレベルでの実践を話題にしつつ、議論を行う。

 

◆全国エリアマネジメントシンポジウム 2021 開催概要◆
日  時:2021年9月17日(金) 14:30 - 18:00
開催形式:オンライン開催(zoom webinar)
参  加  費:2,000円
               ※全国エリアマネジメントネットワーク会員及びオブザーバーは、チケット購入の際に、
                 事務局よりお送りする「割引コード」を入力すると会員価格1,000円で購入できます。
申込方法:Peatixのみ。下記URLよりお申込みください
               →https://amn-symposium-GCC.peatix.com
               ※後段の注意事項及びPeatix内の説明も必ずお読みください。
申込締切:2021年9月17日(金)13:30まで(当日、開始1時間前まで購入できます。)
主  催:全国エリアマネジメントネットワーク
共  催:京都大学経営管理大学院

 

◆プログラム◆

14:30 – 14:45  開会 主催者挨拶・ゲスト挨拶 国土交通省都市局局長 宇野善昌氏

14:45 – 15:20  プレゼンテーション①:エリアマネジメントアンケート調査の報告

全国エリアマネジメントネットワーク事務局 長谷川隆三

京都大学経営管理大学院特定教授 要藤正任 氏

15:20~16:00  プレゼンテーション② :アメリカBIDの現在(※VTR出演)

President & CEO International Downtown Association David Downey 氏

16:00~16:10  休憩

16:10~16:50  プレゼンテーション③ :グリーン*プレイスメイキング

東京農業大学地域環境科学部准教授 福岡孝則 氏

16:50~17:05  トーク① :プレゼンへの質問と議論

全国エリアマネジメントネットワーク会長 小林重敬

Groove Designs代表 三谷繭子 氏

全国エリアマネジメントネットワーク事務局 長谷川隆三

17:05~17:45  プレゼンテーション④ :グリーンコミュニティの実践

森ビル株式会社タウンマネジメント事業部 中裕樹 氏

17:45~18:00  トーク② :プレゼンへの質問と議論

※登壇者はtalk1と同様

18:00      閉会挨拶:京都大学経営管理大学院院長 戸田圭一氏

 

▼ご案内は以下をダウンロードください▼

【ご案内】全国エリマネ エリアマネジメントシンポジウム2021

◆注意事項◆必ずご確認ください

1. チケット購入とzoom視聴URLの取得方法について
===要事前登録!Peatixの購入だけではzoom試聴URLは取得できません。===
チケット購入後、Peatixより「ウェビナー登録」URLが配信されます。
登録をしないと、視聴URLは届きませんので、必ずお手続きください。
【「エリマネウェビナー」ウェビナー参加URL取得方法】
❶. Peatixにてチケットを購入後、「チケットお申し込み詳細」というメール(tickets@peatix.comより)届きます。
❷. メールに記載の「イベント試聴ページ」に移動をクリック。
❸. 「イベントに参加」をクリックするか、【主催者からのお知らせ】に記載の「このウェビナーに事前登録する」のURLをクリック。
❹. zoom「ウェビナー登録画面」に進みますので、必要事項を入力し、「登録」をクリック。
❺. zoomから試聴URLが届きます。

2. オンライン参加について
・操作方法等は、事前にご自身でご確認ください。
・配信内容の録画/録音、無断で複製、転載、改変、配布、販売することは固く禁止します。
・配信用URLのSNS等への投稿、他人へのシェアによる拡散はご遠慮ください
(専用URLとなりますので、他者との共有はご遠慮ください)。
・ ウェビナー開催時は、アクセスが集中するとスムーズに視聴できない場合がございます。接続状況が不安定な場合は、一度ログアウトをし、時間をおいてから再度アクセスをお願いします。

 

◆問い合わせ◆
全国エリアマネジメント ネットワーク事務局
株式会社フロントヤード 担当:長谷川・関口
E-mail:info●fyard.co.jp (※送信時は●を@に変える)

※「Peatix」及び「zoom」のご登録・操作方法等に関するご質問はお受けできません。ヘルプ等をご参照の上、ご自身で確認ください。

エリアマネジメント研究の深化、すそ野の拡大、研究者と実務者の意見交換・交流の場の提供を目的に立ち上げた「エリアマネジメント研究交流会 第1回」が下記日程にて開催いたします。

 

【 エリアマネジメント研究交流会 第1回】
開催 日時:2021年7月10日(土)13:00 – 18:30
開催 場所:zoomウェビナー(オンライン開催)
参 加 費:無料(zoom事前登録制)
プログラム:下記よりダウンロードください
      ☛ ダウンロード_【プログラム】エリアマネジメント研究交流会0710

第1回は、15件の応募がありました。どの研究・報告も、大変興味深い内容ばかりです。
また、本研究会では『調査研究部門』『実践報告部門』他、実行委員会よりアワードも選考致します。
エリアマネジメントに関わる実践者や研究者の方々の発表を、是非ご覧ください。

 

【参加登録】
参加を御希望の方は、下記zoom URLにアクセスし、『ウェビナー事前登録』を行ってください。
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※本研究交流会は、全国エリアマネジメントネットワーク、公益社団法人日本都市計画学会エリアマネジメント人材育成研究会、UDC ネットワークの3者によって構成する「エリアマネジメント研究交流会実行委員会」による運営します。

全国エリアマネジメントネットワークでは、公益社団法人日本都市計画学会エリアマネジメント人材育成研究会、 UDC ネットワークの3者にて、エリアマネジメント研究の深化、すそ野の拡大、研究者と実務者の意見交換・交流の場の提供を目的に「エリアマネジメント研究交流会」を立ち上げました。
この研究交流会では、エリアマネジメントに関する調査、研究や実践について広く発表者を募り、研究者同士、研究者と実務者での議論を通じて、エリアマネジメントの役割や価値・評価、実践知等についての知見を深め、共有していきたいと考えております。

まずは第 1 回として本年の夏に開催することとし、5月より、第1回研究会の発表者募集を開始致します。
本研究交流会は、出来るだけ多くの発表が行われるよう厳格な審査等は行いません。また、一定の結論や独創性、先駆性を求めるものでもありません。着手したばかりの調査、研究でも広く受け付けますので、奮ってご応募ください。

研究会に関する詳細及び研究交流会へのエントリーについては、下記資料をダウンロードください。
  ☛ ダウンロード 【ご案内】エリアマネジメント研究交流会について

  ☛ ダウンロード 【ES】エリアマネジメント研究交流会エントリーシート

※本研究交流会は前述の 3 者によって構成する「エリアマネジメント研究交流会実行委員会(以下、実行委員会)」によって運営します。

9月25日(金)に東京ポートシティ竹芝でエリアマネジメントネットワークシンポジウムが開催されました。
コロナ禍により、都心のビジネス街から郊外の駅前商店街に至るまで、都市活動そのものに大きな変化が求められています。エリアマネジメント組織が経済の再生・再興、またその下支えとなることはできるのか? またそのためには何をすべきか? ウイズコロナ、アフターコロナの中でエリアマネジメント組織が果たすべき役割とその活動方法について議論が繰り広げられました。


インプットトーク①
先の見えないコロナ禍で実験区の試み

ゲストスピーカーである梅澤高明氏はA.T.カーニー日本法人会長、CIC JAPAN会長、ナイトタイムエコノミー推進協議会理事、クールジャパン機構社外取締役の4役を兼務。大企業のイノベーションとスタートアップの成長支援、ナイトタイムエコノミー、街づくり、観光まで、非常に幅広く活躍されています。
総論として「クリエイティブ・イノベーティブな街づくり」を、各論で「ナイトタイムエコノミー推進協議会の取り組み」について紹介していただきました。

コロナ禍で人々の暮らし方や価値観が大きく変わり、人々の関心は仕事だけでなく健康、食、趣味などに向けられ、柔軟な働き方が求められるようになりました。一方で、企業は本社機能を見直し、サテライトオフィスの活用やテレワークを進めていったことにより、郊外居住やマルチハビテーションが増加しています。梅澤氏は、今後、都心部の不動産の優勝劣敗が劇的に進み、東京など大都市の都市開発は今まさに転換を迫られていると分析しています。

「ニューノーマルが進む中、バックトゥノーマルの力も働き、解決点を見極めるには、まだ数カ月、あるいは1年かけて探っていかなければならない状況です。こういう時にこそ、どんどん実験ができる街づくりをしていくべきです」(梅澤氏)

梅澤氏の提案は、起業家、クリエイター、などの先端的な生活者が集まるような都心の実験区で異才・異能の人達が新しい実験を行い、それを起爆材として、東京の産業革新につなげるというもの。

また、クリエイティブ&イノベーティブなエリアづくりに必要な要件として、以下のような方向を示しました。
1. リアルとデジタルがもっと融合した都市
2. 空間と時間が滑らかに繋がる都市(職・住・遊が融合している都市、昼間と夜が境目なくつながっていく都市)
3. 豊かな風景を大切にした都市

日経ビジネスの特集記事は、「仮想空間創造師(VRクリエイター)」「サイボーグ技術者」などの新しい職種が増えると予想しています。このようなイノベーターたちが活躍するためには「ソフトウェア、ハードウェア、素材、ユースケースを持つ様々な産業が触発し合える場、さらに行政とも協働してルールメイキングを行える場が必要である」と梅澤氏は強調しました。

エリアの価値を高める新しい取り組み

2019年春に設立されたナイトタイムエコノミー推進協議会については、大きく3つの取り組みが紹介されました。
1つは、観光庁のナイトタイムエコノミー事業の選定とコーチング支援事業。2つ目は、夜間の文化的価値を定量的・定性的に調査する取り組みであるCreative Footprint(CFP)。3つ目は、ナイトタイムエコノミー関連産業に関するロビー活動。

コーチング支援事業では、募集選定した事業にコーチを派遣し、企画から運営オペレーションまでをサポートする取り組みを行っています。次年度以降も事業として自走できるように具体的なノウハウ作りを徹底して行うほか、「そのエリアの本質的な価値」を見出し磨き上げることが重要であると強調しました。

Creative Footprintの調査では、都市のナイトシーンは経済的、文化的、そして社会的な価値を生み出し、クリエイティブシティの発展に欠かせないことが強調されています。その一方で、エリアの魅力が高まると地価・賃料が高騰し、その結果、若いクリエイターなどがそのコミュニティで活動できなくなってしまう現象(ジェントリフィケーション)が問題視されています。ナイトタイムエコノミーを支えるクリエイティブ・コミュニティの価値を正しく理解し、都市に留まらせる策が必要です。
もう一つ重要な視点は、文化と観光の接続です。例えば台場の「teamLab Borderless」は、メディアアートを生かして日本らしい文化拠点を作り、海外のセレブやインフレンサーの影響力も活用しながら世界中の観光客を呼び込むことに成功しています。

「文化資源に対して積極的に投資しつつ、観光で回収するというアプローチは日本全体でもっと取り組むべきです。Creative Footprintの活動を通じて、文化・観光・都市開発のクラスタが緊密に協働することができれば、日本の都市のポテンシャルをもっと引き出せると感じました」(梅澤氏)

クリエイティブ、イノベーティブな街づくりへの提言

ナイトタイムエコノミー推進協議会での取り組みを踏まえて、梅澤氏は以下の提言を発表しました。

1. ステ-クホルダーの分野横断での協働
文化・観光・街づくりセクターの協働の促進、文化庁・観光庁・国交省など関連省庁間での政策の連携強化。

2. 街の中に「余白」を作る
ストリート・公開空地の活用に関する規制緩和、ポップアップ店舗の活用、小箱や実験的ベニューに対する政策的な賃料抑制など。

3.人材育成・人材交流の促進
クリエイティブな分野でのビジネス・プロデューサーの育成。新しい文化を生み出すための多様な人材の交流促進。

最後に、今後のエリアマネジメントへの期待を述べてインプットトークを締めくくりました。
「新規の再開発の余地が減少する中で、街づくりの重点は運営にシフトしています。私たちの立場からは、エリアマネジメントを見据えた開発の取り組みをお願いしたいと考えています。
クリエイティブ&イノベーティブなエリアの創生には、ビジョン、ステークホルダー横断のチーム、そして現場での活動を継続する軍資金が不可欠です。エリマネは本来、「独立採算事業」ではなく、街の価値を上げる「投資」のはずです。その点で、不動産会社や自治体の発想の転換を期待します」(梅澤氏)


インプットトーク②
期待されるエリマネ活動の知的創造、新機能

続いてのインプットトークでは、全国エリアマネジメントネットワーク会長小林重敬氏より「期待されるエリマネ活動の知的創造、新機能」をテーマに語っていただきました。

今後のエリマネ活動を考えるにあたり、全国エリアマネジメントネットワークでは、京都大学のエリマネ研究会の諸富徹教授を招いて、今年8月にオンラインでエリマネサロンを2回にわたり開催しました。その中で、諸富教授は「日本の製造業は、今後人的資本投資と組織構築をして、イノベーション、クリエイティブな要素を持ち込むべきである」と示しました。

「諸富先生のお話をエリマネの立場から考えると、ソフトとハードの両面でエリア環境整備をしていくことが必要で、大都市を中心に都心実験区の動きを加速していかなければなりません。大都市において大企業のイノベーション・クリエイティブについては、多くの工業地域で展開する試作工場、研究開発機能によって創り出してきました。しかし、これからは無形資産投資で地域を再生させるためにはどうするかと迫られています。それをエリアマネジメントサイドで解決するには、コミュニティグリーンとコミュニティクリエイティブが鍵となると考えています」(小林氏)

「コミュニティグリーン」とは、コミュニティに存在するグリーンを中心とする物的な構成要素であり、多様な人材が集まりイノベーションを起こすエリアが「コミュニティクリエイティブ」。
エリアのクリエイティブを高めていくためには、コミュニティグリーンの持続可能性を実現する仕組みと仕掛けの存在が必要不可欠であると小林氏は強調します。

具体的なエリアづくりとして、東京・大阪の大都市都心部での取り組みが紹介されました。
東京の大丸有地区では行政と共同し、仲通りをはじめ様々な工夫をして空間をつくりだし、多くの通りで緑づくりが進められています。同じく、コミュニティグリーン・コミュニティクリエイティブを取り入れた試みが、虎ノ門エリアや大阪梅北エリア、竹芝エリアで次々と実験的に取り組まれ、新たな出会いや活動を生み出す場となっていることが紹介されました。

様々な発想で利用できる空間が作られることによって、そこに勤務する人々や集う人々に新しい発想と気付きを与え、さらなるクリエイティブにつながっていくことに小林氏は期待を寄せました。


セッション①
エリアマネジメントとこれからの「知の交流・交易」

コロナ禍で様々な制限が必要とされる中、リアルな場での交流活動について都心部のエリアマネジメント団体の三者に語っていただきました。

<参加者>
■一般社団法人竹芝エリアマネジメント事務局長/東急不動産株式会社都市事業ユニット 都市事業本部スマートシティ推進室室長/田中敦典氏
■一般社団法人新虎通りエリアマネジメント/森ビル株式会社タウンマネジメント事業部
虎ノ門ヒルズエリア運営グループ/朝賀繁氏
■エコッツェリア協会事務局次長/三菱地所株式会社エリアマネジメント企画部マネージャー/田口真司氏

田中氏からは、竹芝エリマネのプラットホームの特徴と東京ポートシティ竹芝で開催されたイベントについて紹介がありました。
田中氏が所属する竹芝エリアマネジメントを含め、5つの組織が共同してプロジェクトの提案と運営を行っている竹芝のエリマネ。単一の組織でないからこそ、人の交流や知の交流がより活発となり、力強いプロジェクトの推進が可能となっている点を田中氏は強調しました。
東京ポートシティ竹芝で9月に開催された3日間の音楽ライブでは、単なるオンライン配信だけではなく、オンライン特有の映像技術を加え処理したスペシャル配信を提供し、3日間で約87万人が視聴。竹芝の魅力をオンラインイベントで日本だけでなく、世界へも伝えることに成功しました。
「無観客ライブのオンライン配信によって、会場への問い合わせも増えている状況です。リアルとオンラインを使い分けて両立できる取り組みがこれからは重要になってくると考えています」(田中氏)

朝賀氏からは、新たに掲げた新虎通りのエリアビジョンとその取り組みについての紹介がありました。
まず、虎ノ門が持っているニュートラルなビジネス街の土壌を活かすことを念頭に、地元の方々や企業とともにエリアビジョンを再考して来た経緯が語られました。そこで生まれたのが「グローバルな産官学の交流による、イノベーション創出を目的としたビジネスコミュニティを醸成していく」という大きな指針です。
取り組みとしては、虎ノ門ヒルズのビジネスタワー4階に大企業の新規事業部門を出島として集積し、さらにベンチャー企業も交わるコミュニティの土壌作りが進められています。
また、新虎通りCOREでは、英国の美術大学(RCA)と東京大学生産技術研究所の(IIS)のコラボによるデザインアカデミーが開設され、デザインで新たな産業を興そうという視点での教育が実施されています。
「新虎通りは、通りの沿道にまだまだ余白が多い。今後大きな開発と絡めながら、エリマネとしてどういった余白の利活用ができるかを検討していく予定です」(朝賀氏)

エコッツェリア協会の田口氏は、コロナ禍におけるオンラインのメリットとデメリットから、これからのエリマネの役割について言及しました。
オンラインが普及したことによって、発信者と受信者双方に時間と空間の制限がなくなり利便性が高まりましたが、同時に参加者同士の新たな関係性の構築が困難さを感じていると言います。利便性が高まったからこそ、面倒で時間のかかることの意味や意義が問われているのではないかと田口氏は強調しました。
その中で勇気付けられた体験として、運営しているイベントのオンラインでの取り組みを紹介。制限はあるものの、企画次第では「知の交流・交易」の可能性が大いにあることを示唆しました。
「エリアマネジメントの価値は、良質なコミュニティを持ち、また分野の異なるコミュニティ同士をどのようにつないでいくかにあると思います。エリアを物理的な場所と機能とに分けて考えると、機能の部分はオンラインに変わりつつあるので、物理的な場所としての特徴と機能の特徴を切り分けて明確化する。その上で街づくりをしていくことがこれからのエリマネに必要であると考えています」(田口氏)


セッション② 地域経済の再興に資するエリアマネジメントを展望する

このセッションでは、2年間活動を行ってきたエリアマネジメント負担金制度部会のメンバーが、新型コロナウイルスによって影響を受けたエリアマネジメントについて議論を行いました。

<参加者>
■エリアマネジメント負担金制度活用部会部会長/リージョン・ワークス合同会社代表社員/後藤太一氏
■三菱地所株式会社/谷川拓氏
■梅田地区エリアマネジメント実践連絡会/阪急阪神不動産株式会社/高田梓氏
■札幌駅前通まちづくり株式会社/内川亜紀氏(リモート参加)

まず、後藤氏から問題提起がありました。
エリマネ活動を投資としてステークホルダーに捉えてもらうために、マニフェスト的な事業計画と活動内容の報告が必要となることをベースに議論を深めてきたところ、コロナ禍によって長期的な見通しが立てられない状況になっている地域が多いこと。また、これから求められるエリマネ活動の推進において、組織の構成を柔軟に変え続けていく必要があるのではないかということが挙げられました。

財源の確保について、高田氏から梅田地区のエリマネの現状が語られました。
「私たちのエリマネ団体では、イベント開催費の一部は協賛金を頂戴していますが、今回のコロナ禍でも協賛してくださった企業が多数ありました。日頃から私たちの活動目的などがきちんと伝わるコミュニケーションを取り続けていたことが、今回の結果につながったと考えています。定量的な成果がこれまでは求められていましたが、定性的な観点も入れたSDGsの考え方が認められてきていることに救いを感じています」(高田氏)

公共空間の貸し出しなどで財源と人材の確保を行なっていた札幌の内川氏は、コロナによって顕在化した課題と、エリアの価値を高める現在の取り組みについて話していただきました。
「これまで公共空間の利活用に財源を頼っていたので厳しい面はありますが、ある意味事業を考え直すチャンスであると前向きに捉えています。また、10年間の活動を通してビジョンが明確となり、今年ガイドラインの策定に至りました。コロナで出てきた課題を価値に転換して、ガイドラインをもとにステークホルダーとの協議を重ねていきたいと考えています」(内川氏)

谷川氏からは、ステークホルダーとのコミュニケーションの課題が挙げられました。
「大丸有では1996年から、東京都と千代田区とJR東日本と一緒に大丸有まちづくり懇談会というテーブルを持っているので、基本的に大きな方針や方向性の共有はできていると思います。しかし、数年毎に人事異動があるなど、どうしてもまちづくり関係者全ての人たちにまで共有しきれていないこともあります。言葉での共有とともに、計画図など、他の方法での共有やコミュニケーション方法が確立される必要があると感じています」(谷川氏)

最後に、コーディネーターを務めた全国エリアマネジメントネットワーク事務局次長の長谷川隆三氏が、今後のエリマネの役割と展望を語りました。
「ビジネス開発に資するエリマネの『つなぐ役割』と、地域内外のステークホルダーを巻き込んで解像度の高い『ビジョンを描く役割』が、エリマネにとってさらに重要になってきています。データ分析に則った事業計画を年次で回していくことを、エリマネ団体としてスキルアップさせていきつつ、エリマネ組織の経営についても今後議論していく予定です」(長谷川氏)

今回、エリマネの本質的なあり方や役割についての認識があらためて示されたことで、コロナ禍による足元の対応だけでなく長期的な視点の重要性が共有されました。
また、リアルとオンラインでのシンポジウム開催となり、今後のエリマネ活動の可能性を広げる新たなスタートを象徴する会となりました。

これまで、全国エリマネでは、シンガポールの都市づくりを担うURA(Urban Redevelopment Authority)と韓国ソウル市でエリアマネジメントの支援を行っている韓国中央大学の李先生と、アジアでのエリアマネジメントの情報共有や人材育成等の連携活動について議論を行ってまいりました。

今回、連携活動の第一弾として3か国のエリアマネジメントの取組みを共有するための情報誌【Asian Place Management Report】の発行を行う事となりました。
第1号では、各国のエリアマネジメントの事例やコロナ禍においてどんな事が行われ、議論されているのかについて、それぞれの国の方が執筆者となり取りまとめました。
今後も年に2~3回の頻度で発行してまいりますのでご期待ください。

レポートはこちら⇒ Asian Place Management Report_VOL1

※レポートを全編お読みいただけるのは会員のみとなります。

新型コロナウィルスによって2020年の夏のイベントは中止を余儀なくされました。開催を心待ちにしてくださっていた皆様をはじめ、準備をされていたエリマネ団体の皆様にとっても、視覚的な楽しさの共有、思い出の一助となればと思い作成したムービーです。


 

コロナ禍により、様々な都市活動が大きく変化した都心のビジネス街や郊外の駅前商業拠点や住宅。多くのビジネスが影響を被っている中、その再生に向けて様々な試行錯誤がなされている所である。我々エリアマネジメント組織は、エリアと言うある一定の範囲で活動する組織であり、そこには多くの事業者が活動しており、これまでも事業者が居続けたい環境づくりを行ってきた。

そういったエリアマネジメント組織がコロナ禍において、より積極的に地域経済の再生、更には経済の成長の下支えを出来ないか?出来るとするとどういった事を行っていくべきなのか?欧米のBID組織は、エリア内の事業者を支援し、そのビジネス再開を支える取組みを迅速に行っている。エリアマネジメント組織もよりエリアのステークホルダーとつながりながら、エリア価値の向上に向けた活動を充実させていく必要があるのではないか。

今回のシンポジウムでは、with/afterコロナの中でエリアマネジメント組織が地域経済の再興に向けて何が出来るのかについて議論を行い、私たちが今後成すべきことについて提起していきたい。


開催日時:2020年9月25日(金) 14時30分~17時30分

開催場所:東京ポートシティ竹芝 ポートホール(東京都港区海岸1-7-1) 及び zoomウェビナー

主  催:全国エリアマネジメントネットワーク

共  催:京都大学経営管理大学院官民協働まちづくり実践講座

特別協力:一般社団法人 竹芝 エリアマネジメント

開催形式:新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためリアル会場とオンラインの両方で開催

(※一般参加者はオンライン参加のみ)


申込方法:Peatixのみ(事前決済、下記URLより申込ください)

https://amn-symposium-takeshiba.peatix.com

※上記URLは「一般参加者用」です。
ネットワーク会員は会員専用URLからお申込みください(事務局より送付済み)

参 加 費:ネットワーク会員 1,000円/人  一般参加者 2,000円/人

定  員:リアル会場_100名、オンライン_200名

締  切:9月18日(金)17時まで ※定員になり次第、申し込みを終了

(会員は16日が締切です)


プログラム:下記PDFからご参照下さい(954KB)

 

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