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全国エリアマネジメントシンポジウム

2023年9月4日、全国エリアマネジメントシンポジウム2023を福岡・天神にて開催しました。今回は「これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える」をテーマに、福岡を拠点にあらゆる分野で活躍されるステークホルダーの方に登壇いただき、議論を交わしていただきました。

文化・クリエイティブを切り口に二部構成で、多様なトピックが展開した3時間に渡る【開催レポート_その2】です。

▷▷▷【開催レポート_その1】はこちら。

 

SESSION2:エリアマネジメントはどうする【エリアマネジメント団体の方々によるディスカッション】

続いての第二部では、第一部でのトークを踏まえて、街にあるさまざまな空間やコンテンツを扱うエリマネは、都市に多様な文化的・創造的アクティビティを展開していくために、どのような役割を担うべきか、文化芸術といった要素をどう受け止めていくべきかを考えていきます。

このセッションのコーディネーターを担当する東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授の出口敦氏は次のように切り出しました。

東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 出口敦氏

 

「シンポジウムに参加されている皆さんは普段エリマネの実務に携わられていて、さまざまな業務に追われていると思います。ただ、目の前のことに精一杯になっていると、何のためにまちづくりをしているのか俯瞰して考える時間がなかなかないのではないでしょうか。そういった点で、年に一度実務者が集まって原点に立ち返り、自分たちの取り組みの意味を考え直す機会は非常に重要だと思います。ここからはまさにエリマネの役割について議論を深めていきますので、皆さんのお考えにも繋がっていければと思います」(出口氏)

第二部でも、まずは各登壇者の方より現在の活動をご紹介いただきました。

<登壇者>
須賀大介氏|福岡移住計画 代表
三好剛平氏|三声舎 代表
内野豊臣氏|博多まちづくり推進協議会
兼子慎一郎氏|博多まちづくり推進協議会
荒牧正道氏|We Love天神協議会
黒川文香氏|We Love天神協議会
吉田宏幸氏|福岡市経済観光文化局

●須賀大介氏|福岡移住計画 代表

須賀大介氏は、福岡移住サポートプロジェクトである「福岡移住計画」を立ち上げて、移住者のサポートやコミュニティ情報の発信を行っています。

「福岡移住計画では、居場所、食べていくための仕事、理想的な住まいの『居食住』に関する情報を提供し、移住者の暮らしを広くサポートする活動を行っています。元々は東京で起業していたのですが、3.11の震災後に生きる場所を改めて考えるようになり、10年前に福岡に移りました。福岡の空気感や人の優しさに魅力を感じ、ゆかりのないまま飛び込んだのですが、地域の方に非常に支えいただいて今に至っています」(須賀氏)

その他にも、コワーキングスペースや宿泊施設といった場の運営を広く手掛けられています。

「自分自身、プレイヤー同士が繋がる場を作っていますが、その重要性を今日改めて感じました。やはり近いところで活動していてもまだまだ繋がれていないですし、まちづくりに関わる人たちが集まるような場がないことに気づかされ、これは一つの課題と言えるかもしれません」(須賀氏)

 

●三好剛平氏|三声舎 代表

三好剛平氏は、福岡を拠点に文化芸術にかかわるプロジェクトの企画・制作を手掛けられており、アジアの映画上映・交流プロジェクト『Asian Film Joint』の主宰や九州のアート・カルチャーシーンを発信するラジオ番組への出演など幅広く活動されています。

活動のきっかけとなったのが、2010年から5年間開催された『まちなかアートギャラリー福岡』というアートプロジェクトです。福岡市とも主催側として、アーティストと関係を深めながら、アートを街に根付かせるようと奔走していたものの、最終的には予算がストップしたことで時間をかけて育ててきたものを終えなければならないことがあったそうです。

「先程のセッションにもあったように、アーカイブ化や活動を蓄積することを強く意識するようになったきっかけでもありました」と話します。

そうした経験から、福岡市が30年間実施していた『アジアフォーカス・福岡国際映画祭』の終了を受けて、その後継となるプロジェクトとして『Asian Film Joint』を助成金を集めて2021年に立ち上げ、福岡に蓄積されてきたアジアの映画監督たちとのネットワークを、財産として引き続き活かしていくために取り組まれています。

「地域にすでにあるものにもう一度血を送り直すことで、いくらでも活用のしようがありますし、そうした活動はその街や人が積み重ねてきた文化に対する自分たちなりの回答であり、未来に繋いでいくことだと思っています」(三好氏)

 

●内野豊臣氏・兼子慎一郎氏|博多まちづくり推進協議会
博多まちづくり推進協議会 事務局長 内野 豊臣 氏
博多まちづくり推進協議会 兼子 慎一郎氏

博多まちづくり推進協議会は、博多駅を中心に近隣の企業や学校、行政など180団体によって組織されています。これまでのセッションを受けて、博多まちづくり推進協議会の内野氏、兼子氏からそれぞれコメントをいただきました。

「福岡市内でもWe Love天神協議会と博多まちづくり推進協議会の二つのエリマネ団体があります。博多のエリマネというのは、1km程度の範囲で取り組んでいるんです。福岡という広いエリアではなく、敢えて博多と天神といった狭いエリアを対象にしてお互い活動してるということが、街の個性を失わないことに繋がっているのではと思います」(内野氏)

「エリマネの役割は建物に血を流し込むことが大事なのではと考えています。ただ、協議会の事務局スタッフも人数が限られているため、自分たちですべて主催すると考えるのではなく、恒常的にやるためにはさまざまな分野のプレイヤーの方と連携を取って進めていくべきだと改めて思いました」(兼子氏)

 

●荒牧正道氏・黒川文香氏|We Love天神協議会
We Love天神協議会 事務局長 荒牧 正道氏
We Love天神協議会 黒川 文香氏

We Love天神協議会は、134の会員とともに天神の価値向上や来街促進を目的に活動しています。We Love天神協議会の荒牧氏、黒川氏からコメントいただきました。

「協議会の会員さまと毎月天神の将来について議論を行っておりまして、その中で、多様な方々と連動しながら街の課題解決に挑んでいき、新たな価値を生み出していくことがこの街の魅力を引き出す上で重要なことだと話し合っています。そうしたことを積み上げて、世界にも届くような福岡の魅力を引き出していきたいと思っています」(荒牧氏)

「エリマネはイベント関連の取り組みが印象として強いですが、交通施策や防災など本当に多様な分野を包括しています。やはりエリアを豊かにするためには、さまざまな人にとって恒常的に楽しめるものであるべきですので、長期かつ広域を見据えて天神がどうあるべきかをじっくり考えながら一つ一つ物事を進めていきたいと思っています」(黒川氏)

 

●吉田宏幸氏|福岡市経済観光文化局

最後に福岡市経済観光文化局の吉田宏幸氏より、全体を受けての感想をいただきました。

「コロナを経て、観光はすでに以前の状態に回復していますが、文化芸術活動は8割程度に留まっています。やはりコロナ禍で文化芸術に触れられなかった層や、あるいはそうした場所に行く機会を失われたまま習慣が戻らないような人たちがいるんじゃないかと考えています。そうした状況を踏まえると、新しい層へアプローチやインバウンドなど観光施策の中に文化的要素を取り込んで、コロナ禍以前を超えるくらいの状況を目指していかなければならないのではと思っています」(吉田氏)

続いてフリーディスカッションへ移ります。文化芸術に関わる立場としてエリマネに求めること、どういった姿勢で取り組むべきか議論が交わされました。

 

出口 コロナ禍の3年間の影響は大きかったと思いますが、その後にエリマネがやるべきことはさまざまあると思います。三好さんにお伺いしたいのですが、文化芸術に関わる取り組みをされる立場としてエリマネに求めることはありますか?

 

三好 文化芸術にまつわるプレイヤーの方、エリマネ団体の方それぞれとお話ししていると、共通テーマとして持っているはずの「文化」に対する解像度が結構違うなと感じます。

エリマネの議論において、「文化をまちづくりに活用する」といった表現を耳にすることがありますが、アーティストは無償だとしても、自分たちが納得する作品を届けたいと一番に考えているんですね。そういった大事にしているものへの理解が必要ですし、ちゃんと理解できるまでとことん付き合って、一緒に汗をかくということをしないといけないんです。

彼らが育ててきた文化を表面だけさらって利用してもやはり持続性がないですし、こうした姿勢が非常に重要だと思います。

 

出口 アートを消費の対象として捉えてはいけないということですね。街は基本的にものを買ったり食事をしたり消費をする場所ですが、その対象の一つとしてアートも捉えてしまうと、次に繋がっていきません。好循環を生み出していくためには、アートを育てていくという意識を持つ必要がありますね。

須賀さんはいかがでしょうか。

 

須賀 私はHOOD天神というコミュニティスペースも運営しておりまして、移住者同士が繋がり、さまざまな活動が生み出される場所になっています。福岡にゆかりがない人も一歩入り込める、街の余白みたいなものを提供させてもらっているのかなと思います。

先程のセッションでも話にありましたが、多様な世代や分野の人が混ざる場が必要だと思うので、エリマネに関わる皆さんにはそういった視点で場を作っていただけるといいのではと思います。

 

出口 人が集まり交流する場としての街の屋外空間や公共空間の意義はコロナ以降で変わってきたと思います。コロナ前までは賑わいづくりを盛んにやっていましたが、そうしたことができなくなり、屋外でくつろぎを提供することが重視されるようになりましたね。同時に、オンライン化が進んだことでリアル空間の価値が問われるようにもなりました。

そうした現状を踏まえて、エリマネ団体の方々は現在どういった取り組みをされているのでしょうか。

 

兼子 道路や公開空地の利活用が、コロナ以降に制度含めて変わってきています。例えばコロナによって喫煙所が閉鎖になり公園での喫煙者が増えたのですが、子どもが遊べなくなってしまったことを受けて、仮設喫煙所を設置して本来の緑のスペースを取り戻す社会実験を実施しました。実験のため現在は元の状態に戻ってしまったのですが、今後Park-PFIが採択される予定でして、事業者の方と常設の喫煙所の設置や文化的な役割についても検討していきたいと思っています。

 

出口 We Love 天神協議会さんはどうでしょうか。

 

荒牧 天神には広場がたくさんあるので、先程のセッションにあったような2時5時の間を潰せるものが日常的に展開されているといいのではと思いました。また、天神は地下ネットワークが発達していますので、地下空間のあり方についても有効に活用していきたいと考えています。

 

出口 日常的な場面も含めて、2時5時の間をどう過ごせるかをしっかり編集してアーカイブすることは、観光客にとって有益なだけでなく、地域の人が街の個性を認識することに繋がると感じます。そういったことを主導することこそ、エリマネ団体の役割ではないのでしょうか。

今日エリマネの役割がいろいろと出てきましたが、文化芸術に寄与していくためにはどういったことを心掛けていけば良いでしょうか。

 

三好 街一体でみんなが同じ目標を持って達成に向かうと考えるのではなく、数十〜数百人の多様なコミュニティそれぞれが、いいねと思える状態を集積していくことが理想的だと思います。まずは見渡せる範囲の人たちを楽しませるにはどうしたらいいのか、これからそういったことが問われるんじゃないでしょうか。

2時5時問題も、人それぞれの感性や価値観に合わせて情報を提供できるよう解像度を高められると、さまざまな分野に寄与するものになると思います。やはり小さなことを積み上げていくことが大事ですよね。

 

出口 集団として平均化された楽しさを追求することも重要ですが、やはり多様な一人一人が参加して楽しんでもらい個人のQOLを高めていくことも重要だと思います。エリマネ団体の方には、定性的なものでもいいので、一人一人のQOLを高めるような評価にもっと目を向けてもいいかもしれません。

 

須賀 価値観の多様化でいくと、クリエイターがどこの街で創造性を発揮したいと思うかという視点も大事です。そこでやる意義を見出してもらえるよう、街の文脈や強みをどう編集して見せていくのかをエリマネの方や各プレイヤーがともに考えながら、場を生み出すことが重要だと思います。

また、場を運営して持続させることも非常に難しいところですので、我々が連携しながら持続させる仕組みを提供させていただきたいなと思いました。

 

出口 エリマネ団体の皆さんはいかがでしょうか。

 

内野 まずは皆さんが活躍できて、多様な方が繋がれる場を作ることとが重要だと思いました。あとは街の魅力に気づいてもらうきっかけ作りも我々の役割ですね。地域の人も見落としているような魅力をエリマネがしっかり掬い上げて、発信していくことを考えていきたいです。

 

吉田 The New York Timesが発表している2025年に世界で訪れるべき都市に、日本では盛岡市と福岡市が選ばれました。今年世界水泳選手権が開催され、実際にそのような状況になってきているように感じます。

そうした中で、短期的ですがまずは2025年に向けて、文化振興をどう図っていくか考えるべき時期なのではないでしょうか。2025年には新しい文化施設ができ、その後も福岡市が発展を遂げてきたものがまた新たに生まれ変わるタイミングが次々とやってきます。そういった動きと足並みを揃えて、皆さんと文化芸術を進めていくことができればと考えています。

 

出口 エリマネの役割は、時間と場と人の繋がりを提供することだと松岡さんがおっしゃっていましたが、「時間」というものが非常に印象深いキーワードだと思いました。

都市開発は空間をつくり出すことと言えますが、公開空地をつくり出したからといって、必ずしも刺激的な時間を提供することまではできません。空間を提供して、空間をマネジメントして、さらに刺激的な時間を提供していく、ということがコロナ以降のエリマネの役割ではないかと思います。ビジネスや産業ではなく文化的なもののパワーによって、知性や心に訴えかけるような時間をどうつくり出すかを考えるべきではないでしょうか。

今日ご登壇いただいた二つの協議会は、駐輪場の問題や交通渋滞といった地域の課題解決を使命として始まりましたが、現在のエリマネの役割は課題解決から、街の価値を問う価値創造が求められる時代になってきていると思います。そういった気概を持って今後取り組んでいただければと思います。

 

最後に、本会副会長である一般社団法人大手町丸の有楽町地区まちづくり協議会事務局長 金城敦彦氏より閉会のご挨拶がありました。

「この団体名にもあるネットワークという言葉は、各地のまちづくり団体だけでなく、社会を作るような文化活動をされている方々とのネットワークもしっかり築いていかなければならないと改めて感じました。今日さまざまな分野で活動される方々のリアルなお話を伺って、エリマネを担う立場としてはやはり現場の声や営みを大切にして、引き続き皆さんと支え合いながらまちづくりに取り組んでいきたいと思っています」(金城氏)

全国エリアマネジメントネットワーク副会長/一般社団法人大手町丸の有楽町地区まちづくり協議会事務局長  金城 敦彦氏

2023年9月4日、全国エリアマネジメントシンポジウム2023を福岡・天神にて開催しました。今回は「これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える」をテーマに、福岡を拠点にあらゆる分野で活躍されるステークホルダーの方に登壇いただき、議論を交わしていただきました。

文化・クリエイティブを切り口に二部構成で、多様なトピックが展開した3時間に渡る内容を、【開催レポート_その1】と【開催レポート_その2】に分けてレポートします。

 

冒頭にWe Love天神協議会事務局長の荒牧正道氏、国土交通省 都市局まちづくり推進課 官民連携推進室企画 専門官の乃口智栄氏より開会のご挨拶をいただきました。

We Love天神協議会 事務局長 荒牧正道氏

「コロナが5類に移行して、皆さんの活動も活発に動き始めていると思います。福岡市中心部では『天神ビッグバン』『博多コネクティッド』といった大規模開発の真っただ中にあり、街の新たな変化に向けて今は力を蓄える時期だと思って取り組んでいます。
今回のテーマである『文化・クリエイティブ』をどう街に実装させるかにつきましても、まさに今議論すべき重要なテーマです。やはり街に出て気づきを得たり、何か自分をアップデートするものに出会うことが街の魅力につながりますので、皆さまとともに考えをより深めたいと思っています」(荒牧氏)

国土交通省 都市局まちづくり推進課 官民連携推進室企画 専門官 乃口智栄氏

「国土交通省では8月に来年度の予算要求方針を発表しまして、都市局の取り組みとしてはグリーンや子育て支援のまちづくり、地方都市の再生を重点な柱として新たに掲げております。 本日のテーマである文化やクリエイティブは、地方都市の再生に欠かせない要素の一つですので、皆さんのご意見や議論を今後の施策検討に繋げていきたいと考えています。また、エリマネに関しては、 その活動や空間の評価を新しい指標で考えていく取り組みも行っておりますので、引き続き全国エリアマネジメントネットワークの皆さまとともに検討させていただきたく考えています」(乃口氏)

 

SESSION1:街の個性をつくりだす創造的・文化的アクティビティ
           【福岡で活動する多様な領域の方々によるクロストーク】

続いて、トークセッションへと移ります。第一部のセッションでは、「街の個性をつくりだす創造的・文化的アクティビティ」をテーマに、音楽やアート、工芸、福祉等、福岡で活動する多様な担い手の方々にお集まりいただき、その活動内容や福岡に対する課題感と可能性について語っていただきました。

最初にコーディネーターである、株式会社大央 代表取締役社長、福岡建築ファウンデーション 理事長の松岡恭子氏より投げかけがなされました。

株式会社大央 代表取締役社長、福岡建築ファウンデーション 理事長 松岡恭子氏

「先日久しぶりにニューヨークとシカゴへ行きまして、街の様相が非常に変わったと感じました。例えば、ニューヨーク市にあるハイラインは、廃虚だった高架鉄道が公園へと生まれ変わった場所ですが、公園を作ったことで人が訪れるようになり、周辺に高級コンドミニアムやオフィス、ミュージアムが集まってきています。一見経済的合理性の乏しい公園が、文化芸術の力を巻き込んでお金を生み出す場所になっているんです。文化的なものをどう街に根付かせるかという点は今後のエリマネにおいて非常に重要なテーマですので、皆さんの取り組みやお考えを伺ってヒントを得たいと思います」

続いて、各登壇者の方より現在の活動について紹介いただきました。

<登壇者>
深町健二郎氏|音楽プロデューサー、ミュージックマンス福岡 総合プロデューサー
中村弘峰氏|中村人形 四代目人形師
樋口龍二氏|NPO法人まる 代表理事、株式会社ふくしごと 取締役副社長
西高辻信宏氏|太宰府天満宮 宮司
ニック・サーズ氏|有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役

 

●深町健二郎氏|音楽プロデューサー、ミュージックマンス福岡 総合プロデューサー

音楽プロデューサーの深町健二郎氏は、福岡の5つの音楽イベントが集結した「Fukuoka Music Month」のプロデュースや福岡を日本・アジアを代表する音楽都市にすることを目標とした「福岡音楽都市協議会」の立ち上げなど、音楽を関連産業の振興だけでなく、観光や教育、まちづくりといった場面で活用する取り組みをされています。

そのきっかけには、9月の毎週末にさまざまな主催者が音楽のフェスを開催していたことにあると話します。

「さまざまな主催者がそれぞれに音楽イベントを開催しているのを見て、音楽というのはひとつの重要な福岡らしさだと気が付いたんです。福岡の人は祭り好きな気質もありますね。それで各イベントに横串しを刺してみたらこの福岡という都市が国内外に対して音楽都市としてPRできるんじゃないかと考えました」(深町氏)

そうして10年ほど前から『Fukuoka Music Month』として称して、5つの音楽イベントを集結させたものとして開催。活動を続ける中で、世界の多数ある音楽都市が一堂に集まるコンベンションである国際会議へ、福岡に参加オファーの声がかかるほどになりました。

「世界には名だたる音楽都市がありますが、まさに世界中では音楽がいろいろな場面で活用されていることを知りました。『福岡音楽都市協議会』を立ち上げたのはそれがきっかけで、福岡も音楽を活用したことができるんじゃないかと考えて取り組みを広げています」(深町氏)

 

●中村弘峰氏|中村人形 四代目人形師

中村弘峰氏は、博多人形を作る中村人形 四代目人形師として活動されています。事業は100年以上の歴史を持ち、福岡で7月に開催される伝統的なお祭り「博多祇園山笠」では、山車に乗せる人形の制作も手掛けています。代々受け継がれる仕事がベースにありながらも、伝統工芸をアートとしてどう未来に残すか、という想いがあるようです。

「これまで工芸作家にとって百貨店が主戦場で、まちづくりの中でも百貨店は主要な位置付けを持ってきたと思いますが、客足が減ってきていて、地方の百貨店なんかはだんだん潰れてしまったりと状況が変わってきています。そういった危機感もありつつ、SNSを通じてお客様から直接お問い合わせがあることも増え、百貨店だけでなくコマーシャルギャラリーでも展示をおこなったり今年から自分でもギャラリーを構えるようになりました。そうした背中を示すことで、他の工芸作家やアーティストの参考になればいいなっていう気持ちもあります」(中村氏)

 

●樋口龍二氏|NPO法人まる 代表理事、株式会社ふくしごと 取締役副社長

樋口龍二氏は、2007年に障害者支援施設を運営するNPO法人まるを設立し、その後「FACT(福岡県障がい者芸術文化活動支援センター)を立ち上げ、福岡を中心に障害のある人たちの表現を社会にアウトプットする企画運営や、表現活動をサポートする人材育成を各地で開催しています。

現在の活動に至った背景に、障害のある人たちと初めて出会った時になぜ施設の中だけに固まっているのだろうと疑問を抱いたことがあると話します。

「現在障害のある人は1,000万人近くいて、本来であれば皆さんと働いたり暮らしたり、 いろいろな場を共有するということがもっと身近にあるはずなんです。多様性という言葉がよく使われますが、彼らがいる社会を当たり前に作っていかなくていけない。分断を生んでいる社会の方に障害があると思って活動に取り組んでいます」(樋口氏)

そのために福祉の分野にとどまらずに他分野の方とともに繋がりながら、社会にアプローチすることが大事だと話します。

「我々は別に福祉を変えようとは思ってなくて、福岡という街を変えていきたいんです。行政の福祉課の方たちにも、障害者、高齢者、子育てなど範囲を限定するのではなく、社会全体を見据えた考え方で取り組んでもらうよう話しています。

弱い立場の人が暮らしやすい街は、僕らも暮らしやすい街だと思っているので、そういった社会を実現できるよう徐々に発展させたいと思っています」(樋口氏)

 

●西高辻信宏氏|太宰府天満宮 宮司

西高辻信宏氏は、太宰府天満宮の権宮司を務められており、現在124年ぶりの御本殿の大改修を進められている他、継承者不在の古民家のホテルへの改装、太宰府天満宮でのアートプログラムの開催等、長い歴史を積み重ねてきた街の拠点として幅広い取り組みを展開されています。

文化的な取り組みの始まりは、明治に入った頃に実施した『太宰府博覧会』に遡ります。当時神社のものはほぼ非公開だったところを一般に公開して知識を示すことを目的としたもので、世界で博覧会の潮流を受けて、日本でも初期に行われました。そうした取り組みを経て、文化が御祭神と非常に親和性が高く、まちづくりの中でも大事だという意識が歴代宮司に受け継がれているそうです。

「2006年から『太宰府天満宮アートプログラム』という現代アートのプロジェクトを行っており、アーティストの方のオリジナル作品を、境内の中に点在させて境内全体を博物館とするといったものです。作品とともに境内を広く歩いて楽しんでいただくような工夫を施しています。アートの非常にいいところは、国内外の多様な方と関わることができるということで、そうしたご縁をいただいた方と時間をかけて関係性を深め、共同作業をしながら日々取り組んでいます」(西高辻氏)

こうした境内を広く楽しんでもらう仕掛けを展開しながら、次の課題として神社を日常的に訪れる場所にするということがあるようです。

「すでにあるものの歴史を紐解いて、光の当て方を変えることによって、違う展示の仕方をするなど検討しています。今ある資源をどう継承してどのように活かすのか考えて、神社づくり、まちづくりに取り組む必要があると思っています」(西高辻氏)

 

●ニック・サーズ氏|有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役

ニック・サーズ氏は30年以上前に来日して福岡に住み始め、1998年にインターナショナルメディア「Fukuoka Now」を立ち上げ、2021年からライブ動画配信サービス「Kyushu Live」をスタートさせています。こうした発信は多言語で展開されており、メディアを通して福岡への移住者も引き寄せているようです。長く福岡を見てきたニック氏が考える福岡の魅力を語ってくださいました。

「福岡はスケールがそこまで大きくなく歩きやすいので、インバウンド旅行客にとっても快適な街です。また、音楽やアートが屋外空間に充実していて外にいるだけで楽しめることも特徴だと思います。再開発を通して期待している変化としては、建物の上層階や屋上にパブリックスペースができてほしいですね。上からの景色をみんなのものにするということは大事だと思います」(ニック氏)

屋外空間や景色をいかに誰もが楽しめるようにするか。こうした考えは、ニック氏が配信する動画コンテンツでも、ローカルな日常的風景が反響が大きいという点があるようです。今人々はどういったことに関心があり、何を求めているのか、エリマネに取り組む上でもそういった点を捉えることは重要になると投げかけました。

その後はフリーディスカッションへ。松岡氏からの投げかけを受けて、登壇者同士で議論を深め合います。

 

松岡 今日のお話を伺って改めて感じたことは、時間、場所、人の繋がりがエリマネの充実に繋がっていくのではということです。

時間というのは、この先も残るハードをどう使い続けるか、時間の蓄積の先に何があるのかを考えることがエリマネの目標のように思います。次に場所は、エリマネには必ず物理的な場所が必要になりますが、何かを行う場とはどうあるべきかを皆さんと考えたいです。最後に人の繋がりというのは、一過性のものではなく、人間一人一人の生活の中に溶け込むような、なだらかな動きみたいなものを作って人を繋ぐことが必要なんじゃないかということです。この3つをキーワードに皆さんのお話をもう少し伺いたいと思います。

 

深町 開発において公開空地を作ることが条件のようになっていますが、ただ作ってもどういった活用をするか前提にいないと機能しないので工夫が必要です。他方で、福岡には街を象徴するランドマークが意外となかったので、そこを逆手に取れるのではと考えています。

例えば、すでに音楽都市協議会の取り組みとして、市内7ヶ所程度をストリートライブができる場所を認定していますが、日本はどの街でも許可されている場所が少ないので、環境を作れば音楽都市としてのひとつの象徴になり得るかもしれません。

経済的合理性でまちづくりをするとやはりコモディティ化が起きてしまうので、その街の個性を大事にしようと思ったら文化しかないんです。文化でどれだけその街を表せるのかがポイントかと思います。

 

松岡 警察や自治体とうまく協働体制を作ることがまずは必要になりますが、その間に入る立場としてエリマネ団体の役割が重要になりそうですね。

樋口さんも行政や障害のある方を媒介する立場で活動されていらっしゃいますが、中間体としてのエリマネ団体に対する課題感や期待はございますか?

 

樋口 イベントや施設など、街で盛り上がっている場所はある一定数の行ける人だけで成り立っている傾向にあり、障害のある人も不自由なく楽しめることも考える必要があると思います。少数とされる障害のある人のニーズにまでリソースが回らないという課題もあると思いますが、行政が予算化して対応すればいいという話でもないんです。トップダウンで事務的に対応するのではなく、そうしたニーズに応えることが企業や団体にとってもメリットになっているべきで、そこを解決するアイデアが絶対あるはずなんです。

ただ、現状はやはり障害のある人との接点が乏しいので、そうした人がコミットしていける社会構造を、まずエリマネから働きかけていくべきではないでしょうか。時間はかかると思いますが、地域として取り組むべき課題だと思っています。

 

松岡 障害のある人も含めた日常のクオリティをどう作っていくか考えなければいけませんね。

西高辻さんは、太宰府天満宮である種エリマネ的な取り組みをすでにされていらっしゃいますがいかがでしょうか。

 

西高辻 日常や恒常的な話でいくと、太宰府天満宮では季節を非常に大事にしてまして、お祭りは多くありますが、歳時的なものが少ないんです。そこを新たに打ち出せると、非日常以外の魅力として伝わっていくのではないかと考えています。

また、文化を消費するのではなく、どう生み出すか考えることも重要なテーマにあると思います。その点において中村くんが提唱されていることはとても面白いですよね。

 

中村 ありがとうございます、福岡の「2時5時問題」ですね。これはつまり、福岡って2時から5時の間やることがないんです。県外から友人が遊びに来た際も、昼食と夜飲みにいく場所だけ決まっていて、その間に何をするか非常に悩むんですね。この課題は福岡の方は共感してくださると思いますが、解決方法を考えてみまして。自分がやっているお店やサービスを「ここでは◯◯分、時間を潰せます」と定義してみる、というものです。

例えば、「中村人形のギャラリーは15分、時間を潰せます」といった形で時間を設定して、非飲食系サービスで2時から5時の3時間を繋げる仕組みを作るんです。特に観光に来る人はできるだけ多くの場所を回りたいので、短めに時間を提示しておいて、「いざ回ったけど時間が足りなかったから次は2泊で来よう」と思ってもらうことも狙いです。

シンプルなアイデアですが、みんなで3時間を繋ぐということはいろいろな解決につながると思っています。

 

松岡 福岡には音楽やアート作品が街中にたくさんありますが、情報としてアーカイブされていないのでそこを充実させることは大事ですね。

 

中村 みんなで時間を繋ぐということで言うと、今まで街のプレイヤーとなる人たちのレイヤーが分野や世代で分かれ過ぎていて、全然混ざってなかったんですよね。そういった課題感もあり、かつてあった素晴らしい活動を当事者の方にお話しいただく「FACT/Fukuoka Art Culture Talk 」というトークイベントを実施したのですが、街で起きたことを蓄積することを目的に、トークの内容はすべて記録して誰でもアクセスできるようにしています。そうすることは、長い目で見たら後世にも残る街の財産になると思っています。

 

ニック 将来のためのことを考える場に、若い方を巻き込むことは大事ですね。今日も若い方が少ないですが、どういった人とともに考えていくかも重要な気がします。

 

松岡 そうですね。皆さんそれぞれ長く活動されて蓄積があるものの、意外と横が繋がっていないという驚きがありましたが、そこが一つの課題であると思いました。そこに対してエリマネは何ができるかというと、継続的かつ長期的に議論や計画する場を作ることなんじゃないでしょうか。年次の報告だけでなく、5年、10年の蓄積が何を生んだのかを振り返り、検証することも必要です。姿勢としては、今ここに石を積み上げつつ、なるべく遠くにも石を投げておく、ということが求められるのではないかと思います。

 

▷▷▷ 【開催レポート_その2】に続きます。

都市にダイバーシティ&インクルージョンを
〜ナイトタイムエコノミーとエリアマネジメント〜

 ここ数年Covid-19によって大きな変化を余儀なくされた都心地区であるが、行動制限も徐々に緩和され、都心地区の活動を如何に再起動していくのか、経済再生を進めていくかが問われている。
 Covid-19を経験し、これまで以上に多様な働き方、暮らし方を意識して、それを受け止める都市活動を展開していくことが求められている。また、今後の経済再生を図っていくためには、これまでの延長線上ではないイノベーションを如何に起こしていくかが問われている。つまり、社会の多様性や包摂性を如何に高めていくかが重要となってくる。
 この多様性や包摂性を考えていく上で、多様な人々を街に呼び込み、交流を促進するナイトタイムエコノミーがある。ナイトタイムエコノミーもCovid-19によって大きな打撃を受けた領域であるが、都心地区の活動の再起動及び多様性、包摂性を生み出す存在としてナイトタイムエコノミーがあるのでは無いかと考える。
 本年のシンポジウムでは、“ナイトタイムエコノミー”をキーワードに、エリアマネジメントというエリアベースの取組みによってエリアの多様性や包摂性を高め、多様な経済活動、イノベーションが起こっていく環境を如何に創造していけるのかを考える。

 

◆全国エリアマネジメントシンポジウム 2022 開催概要◆

日  時:2022年9月8日(木) 15:00 – 18:10
開催形式:オンライン開催(zoom webinar) ※登壇者及び一部関係者は現地参加
参  加  費:2,000円(会員は割引あり)
申込方法:Peatixのみ。 ⇒https://amn-sympo-nespk.peatix.com
            ※後段の注意事項及びPeatix内の説明も必ずお読みください。
申込締切:2022年9月8日(木)14:00まで(当日、開始1時間前まで購入可能。)
主  催:全国エリアマネジメントネットワーク
共  催:京都大学経営管理大学院官民協働まちづくり実践講座
     一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会 (https://j-nea.org/)

 

◆プログラム◆
15:00 – 15:10  開会 主催者挨拶・ゲスト挨拶

15:10 – 15:40  プレゼンテーション①:これからのナイトタイムエコノミー。夜から街をひらいていく
         ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事/Field-R法律事務所 弁護士 齋藤 貴弘 氏

15:40~16:10  プレゼンテーション②:夜の可能性とまちづくり~エリアマネジメントの役割~
         ナイトタイムエコノミー推進協議会/森ビル株式会社 伊藤 佳菜 氏

16:10~16:30  「夜」に関わる各地域のまちづくり活動事例の紹介
         Case-1. 博多・天神の事例紹介
         博多まちづくり推進協議会 郷原 裕季 氏
         We Love天神協議会 荒牧 正道 氏
         Case-2. 大丸有の事例
         三菱地所株式会社/NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会 森  晃子 氏

16:30~16:40  休憩

16:40~18:00  ナイトタイムエコノミーと都市の多様性
           モデレーター:
         A.T.カーニー日本法人会長/CIC Japan 会長/ナイトタイムエコノミー推進協議会 理事
                                             梅澤 高明 氏

         パネリスト:
         ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事/Field-R法律事務所 弁護士 齋藤 貴弘 氏
         ナイトタイムエコノミー推進協議会/森ビル株式会社 伊藤 佳菜 氏
         クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 服部 亮太 氏
         札幌駅前通まちづくり株式会社 今村 育子 氏
         全国エリアマネジメントネットワーク事務局 長谷川 隆三

18:00~18:10  閉会挨拶

 

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2021年9月17日(金)、全国エリアマネジメントシンポジウム2021が開催されました。

今なお世界中のあらゆる産業に甚大な打撃を与えている新型コロナウイルス感染症。エリアマネジメントの領域も例外ではなく大きな影響を受けており、まちづくりやコミュニティに対するアプローチの見直しが求められています。

エリアマネジメントのあり方が大きな転換期を迎える中、本年のシンポジウムはSDGsにも大きく関わってくる「グリーン」「コミュニティ」「クリエイティビティ」の3つをキーワードに掲げて開催。各キーワードをエリアマネジメントに落し込んでいくには何が必要になるのか、そしてafterコロナ/withコロナ時代のエリアマネジメントはどのような姿になっていくのかといったことを、有識者の皆さまのプレゼンテーションやトークセッションから探っていきました。当日の要旨をレポートします。

なお本シンポジウムは感染状況を考慮してオンラインでの開催となりました。


パンデミック下における国内と北米のエリマネ組織の動向変化

冒頭、国土交通省都市局局長の宇野善昌氏より開会のご挨拶をいただきました。

国土交通省都市局局長の宇野善昌氏

 

「様々な要因で社会情勢が大きく変化している中で、都市における一番の課題は『持続可能性をどう身につけるか』だと思っています。その中で我々がまちづくりに関わっていくに3つの観点が必要です。ひとつは『ハードとソフトの整備の仕方』です。人口拡大に伴って都市が拡大している時代では何らかのモノをつくれば目的通りに使われる、つまりハードがソフトを伴っていました。しかし高齢化により人口減少が進む社会では、どのようにハードを使ってもらいたいかということから考えていかなくてはなりません。それと並行する話ですが、官主導のまちづくりから『民主導、あるいは官民連携』がこれまで以上に重要になってくる世界が訪れています。そして3つ目が『既存ストックの活用』です。現在、街にはストックが十分に整っているので、新たにつくるよりも今あるストックをどのように使い倒していくかという発想が必要になります。これらはいずれもエリアマネジメントにつながる考え方であり、この3つの観点を持ちながら我々も必要な支援をしていきたいと考えています」(宇野氏)

続いてプレゼンテーションへと移ります。まずはエリアマネジメント組織の実態把握及び発展に向けた基礎資料とすることを目的に、エリアマネジメント会員と一部法人会員計45団体を対象に実施したアンケート調査の報告です。このアンケートは、エリアマネジメント組織の形態やスタッフ構成、資金などの「組織の概要」、活動対象地域における課題や具体的なエリアマネジメント活動内容などの「活動概要」、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した取り組み状況などの「SDGsとエリアマネジメント」という3つのセクションに分けて調査したもので、全国エリアマネジメントネットワーク事務局の長谷川隆三、並びに京都大学経営管理大学院特定教授の要藤正任氏より報告が行われました。

長谷川より報告したセクション1とセクション2においては、6割以上の団体が「住民やワーカー、企業同士のネットワークが弱い」という課題を感じていることや、コロナ禍の中で半数近くの団体が屋外空間活用への取り組みを実施したこと、また半数以上の団体が新型コロナの影響で収入が減少したことなどが報告されました。また要藤氏より報告いただいたセクション3に関しては、約4割の団体が「SDGsを意識し、それに沿った取り組みを実施している」こと、その中ではまちづくりに関する取り組みだけにとどまらず、中水を利用した打ち水イベント、干潟・海・河川に関するなど環境教育に関するものも多いことなどが報告されました。

次に、International Downtown Association(IDA)のPresident & CEOであるデーヴィッド・ダウニー氏による「COVID-19の時代における北米のエリアマネジメント」についてのプレゼンテーションが行われました。ダウニー氏らの調査研究では、北米の多くのビジネスパーソンがフルタイムでオフィスでの労働を避けたいと考えていること、それに伴ってハイブリッドワークモデルの働き方がなくなることはないという予測が報じられました。また、パンデミック下において屋外スペースの活用などを実施したBID組織に対する市民の信頼度が向上しているという意見が増えていることも紹介。そして今後エリアマネジメント業界が取っていく戦略として、(1)積極的に信頼できるリーダーの役割を果たすこと、(2)パブリックスペースの恒久的活用、(3)住民の少ない都心での活動レベルの向上、(4)社会的公正に基づいたリカバリー、(5)パンデミックは今後10年の都市変革の機会と認識すること、という5つが紹介されました。最後にダウニー氏は次のように述べてプレゼンテーションを締めくくりました。

「このパンデミックで、献身的なエリアマネジメントのプロフェッショナルの人たちの素晴らしい仕事を自覚しました。彼らは、自分たちの都心がパンデミック下を生き残るように努めつつ、その都心のさらなる発展と活性化を図るための新たなビジョンを作り出しています」

IDAのロバート・ダウニー氏

 


グリーンインフラとエリアマネジメントの相互連携への期待

東京農業大学地域環境科学部准教授の福岡孝則氏

 

続いて東京農業大学地域環境科学部准教授の福岡孝則氏より「グリーンインフラとエリマネへの期待」という題で、「リバブルシティ(住みやすい都市)」のあり方とグリーンインフラの可能性についてプレゼンテーションが行われました。

リバブルシティとは、経済成長や利便性だけでなく、その街で働き生活をする多世代の人々が、文化・社会、健康、環境など多様なライフスタイルを選択しながら快適に住み続けられることを重視する考え方で、コロナ禍で多くの人の生活スタイルに変化が生じたことも相まってこれまで以上に重要視されています。リバブルシティに関連して注目度が高まっているのが「グリーンインフラ」です。自然の力を通じて生物多様性や減災の実現、あるいは質の高いライフスタイルを演出するグリーンインフラとリバブルシティの関係性について、福岡氏は次のように整理してからプレゼンをスタートさせました。

「エリアマネジメントでは、エリア全体をどうオーガナイズするかも大事ですが、一つひとつの場所に介入してベストな選択をして都市を変えていくアクションも重要です。都市のビジョンやガイドライン、方向性など上位に位置するものに対して個別の場所がどう呼応していくのか、個々の場所と緑をどうつなげていくのか、そして緑の場所に介入していくことでそのエリアにどのような可能性が広がっていくかということは、エリアマネジメントに関わる方も興味があるのではないでしょうか」

エリアマネジメントとプレイスメイキングの概念図

 

こう述べた上で福岡氏は、プレイスメイキングとグリーンがクロスした5つの事例を紹介していきました。

(1)民間の敷地で展開するプレイスメイキング(東京都港区・コートヤードHIROO

旧厚生省の官舎、駐車場を一体的にフルリノベーションし、住宅・飲食など多用途の施設に再生させた事例。施設内には健康や食、アートを取り扱う事業者が入り、定期的に施設内のスペースを開放したイベントを開催。各イベントはディベロッパー自らが企画しており、「こうした小さくてクリエイティブなディベロッパーのあり方は今後問われてくるのでは」と福岡氏は説明しました。

(2)公園の社会実験からマチの戦略へ(兵庫県神戸市・東遊園地)

2014年に市民有志が既存の公園に芝生を敷き、カフェやアウトドアライブラリーなどを設置する「アーバンピクニック」という社会実験を実施したところ、翌年以降神戸市や多様な市民が関わり始めた事例。社会実験の結果、公園の再整備、主体組織の都市再生推進法人指定や、パビリオンの再活用などの展開が進みました。社会実験とシンクロするように、神戸市都心部でLiving Nature Kobeという自然を中心にした都市のビジョンづくりが進行中です。福岡氏は、小さな公園からスタートした活動に色々な市民が主体的に関わり、徐々に街全体に広がっていった点が特徴的と述べました。

(3)公民連携で公園のようなマチをつくる(東京都町田市・南町田グランベリーパーク)

公民連携で既存の公園や商業施設、さらには駅、道路の再編集・再整備という一体的なプロジェクト。隣り合っていながらも分断されていた公園と商業施設を、道路の再配置などによりオープンスペースを通じてつなげ「すべてが公園のような街」を作り上げていきました。商業施設にもふんだんに緑を配し、特に施設の屋上には多年草を植えることで1年中植物を楽しめる空間を創成。一方で公園については市民も含めたワークショップを開催して課題や問題を洗い出していった末、人々が自然に身体を動かしたくなるように「アクティブデザイン」の考えを取り入れて再整備を実施。商業施設、公園、また隣接するスヌーピーミュージアムやまちライブラリー等はそれぞれ別の組織がマネジメントしていますが、各組織を取りまとめる「みなみまちだをみんなのまちへ」という一般財団法人が官民連携で設立されている点も特徴です。

(4)BIZとグリーン・プレイスメイキング(アメリカ・デトロイト)

デトロイトの都市中心部の高速道路とデトロイト川に囲まれた140ブロック、約2.8平方kmをBusiness Improvement Zone(BIZ)に設定し、公開空地の改修やプレイスメイキングに取り組んでいる事例。この取り組みには550の民間企業が参加しており、各企業からの年間約4億円に上る会費収入の一部を活用しているといいます。デトロイトは自動車産業で有名な都市ですが、BIZを通じて都心部で戦略的に緑の場所を中心にした取り組みが展開されていることなども説明されました。

(5)エリマネとグリーンインフラ(イギリス・ロンドン)

ロンドンのヴィクトリア駅周辺におけるVictoria BIDによるグリーンインフラの取り組み事例。「清掃・緑化」「安全・治安」「持続可能な発展」「観光誘致」「公共空間」の5分野で活動を展開しています。同BIDは単に街に緑を設置するだけではなく、緑化のための潅水システムや水害抑制効果の試算などにも取り組んでいる点がポイントであり、中でもキングスクロスで展開されている化学薬品を一切使用していないスイミングプールは「自然と水と緑の関わりを通じて人間の奥底に触れるものとして重要になってくる気がする」と、福岡氏は述べました。

各事例を紹介した上で福岡氏は、グリーン×プレイスメイキングの取り組みを進める上で、(1)場所(グリーンプレイス)から始める、(2)時間と場所のマネジメント、(3)グリーンインフラに育てる、という3つがポイントになると説明しました。

「それぞれの場所だけで取り組むのではなく、公民、民と民、公と公など様々な形での連携が必要ですし、それをつなぐ中間支援組織のあり方も考えていくべきだと思っています。またランドスケープ空間は時間と共に変化していくものなので、それが媒介となって化学反応を起こす感覚も重要ですし、緑と既存のアセットを絡めながらマネジメントやキュレーションしていくことがディベロッパーには求められるでしょう。そして表層的な施設や植物だけを考えるのではなく、『読む(調査)』『書く・描く(計画・設計)』『動かす(施工)』『育てる(管理運営・マネジメント)』という4つを意識し、その場所をグリーンインフラに育てるという観点も非常に大切になります」

最後に次のような言葉で講演を締めくくりました。

「現在は公園や緑分野と街とでは管理者が異なる場合が多いですが、両者が相互に絡み合い、学び合いできるようになっていくともっと楽しいですし、街も変わってくるのではないかと考えています」

グリーンインフラに必要な4つのキーワード

 


エリアマネジメント側から緑の専門家に働きかけを

福岡氏のプレゼンを終えるとトークセッションへと移ります。トークセッションには福岡氏と事務局の長谷川に加え、全国エリアマネジメントネットワーク会長の小林重敬氏、Groove Designs代表の三谷繭子氏が参加。次のような質疑応答がなされました。

全国エリアマネジメントネットワーク会長の小林重敬氏

 

Groove Designs代表の三谷繭子氏

 

Q. 今後日本でのエリアマネジメントが緑を意識していく上で、クリエイティブな要素を入れることが鍵になると思っています。またカリフォルニアでは郊外に行って緑を楽しむのではなく、都心で緑を楽しむような風潮が出てきています。こうした点についてどのように考えていますか?(小林氏)

A. コロナの影響で都心に人が集まらなくなったことで、オフィスとは何か、人が都心で働く意味は何かということを考えました。オフィスやその周辺に緑が溢れる空間があることでできる役割もあると思っていますが、それが何なのかは今は簡単にはお答えできません。ただ、クリエイティブな人々が自分たちで参加したいと思って集う街になるにはそのような視点も必要な気がしています。また事例紹介で挙げたキングスクロスのプールのように、自然と人との新しい関係が作れる都市空間についても考えていく必要があると思っています。

ただ、民間企業が美しい公共空間をつくるのはいいのですが、一方で私の立場としては、どうやってそこに公共性を持たせるかという観点を持つことも大事にしています。ですから、民間と公共がお互いの力を引き出し合うことも頑張らなくてはいけないんじゃないかと感じています。(福岡氏)

Q. 神戸市のアーバンピクニックの事例では、グリーンプレイスを中心にクリエイティビティを創発し、色々な団体が協力し合い新しい活動が生まれていったということですが、その流れはどのように起こっていったのでしょうか。(三谷氏)

A. 東遊園地の場合、アーバンピクニックと同時にEAT LOCAL KOBEという地産地消を推進する社会実験も他主体によって同時に行われていました。同じ公園の中で2つの社会実験が生まれたように、神戸には様々な組織がありますので、それぞれの力の良さをどう引き出していくかが大事になります。

新たに再開発してできた地域の組織の場合は、企業の協力もあって人手も資金も安定していますが、そうではないローカルな場所でのエリアマネジメントがどう発展していくのか、どう地域に活きていくのかを見ていくことも勉強になると思っています。(福岡氏)

Q. 周囲の人々に緑の空間の必要性や価値を伝えていく上でのコツがあれば教えて下さい。(三谷氏)

A. 緑の重要性や、サステナブルな取り組みが大事だと訴えることで付いてきてくれる層もいます。しかしより多くの方に参加してもらうには、例えば緑×健康・スポーツというように異なる分野のものと掛け合わせることが有効になります。緑と何を組み合わせることで両者の価値を上げていくことができるかを考え、企画を立てていけるといいなと思っています。もちろんすべてをコントロールできるわけではありませんが、そこがランドスケープや屋外空間に携わる面白さでもあると思っています。

最後に福岡氏は次のようなコメントでディスカッションを締めくくりました。

「地域には、造園屋や庭師など、植物に詳しい方は実はたくさんいるのですが、そういった方々はエリアマネジメント側との接点があまりないんです。しかし地域によっては共に活動している例もありますので、エリアマネジメントの方々からも緑や植物の専門の方に声を掛け、誘ってもらえると、色々な可能性が開けると考えています」(福岡氏)


虎ノ門・麻布台エリアで進むグリーンコミュニティの実践事例

森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部の中裕樹氏

 

続いて、森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部の中裕樹氏より、「グリーンコミュニティの実践」というタイトルでプレゼンテーションが行われました。森ビルは、建物を高層化することによって活用できる空間を増やして公園や緑をつくり、人々に開放していく「Vertical Garden City」というコンセプトを掲げてまちづくりを展開している企業です。中氏は同社において虎ノ門ヒルズの運営や新虎通りのエリアマネジメントを担当しつつ、個人としても居住する港区の地域活動や他地域でのマルシェのボランティア、ゴミ拾いボランティアを行うNPO法人グリーンバードの活動など、公私に渡ってまちづくりに携わっています。こうした精力的な行動は「エリアマネジメントには『その街の圧倒的な当事者であること』が必要」という考えを持っているからだと中氏は説明しました。

森ビルのコンセプトである「Vertical Garden City」のイメージ図

 

そんな中氏は、現在進行系でグリーンコミュニティ構築を実践している事例として2023年竣工予定の「虎ノ門ヒルズプロジェクト」と「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を取り上げました。前者は、虎ノ門ヒルズエリアの7.5ha、延床面積80万平方メートルの区域に、商業施設やホテル、新たなビジネスの創出拠点となるイノベーションセンターなどを備えるプロジェクトです。東京大学生産技術研究所(IIS)と英国王立美術大学院大学ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)が連携して開催する教育プログラムや、ビジネスタワー内に国内最大級のスタートアップ集積拠点CIC Tokyo、日本版イノベーション創出拠点ARCHといった施設を設けるなど、現時点でも様々な取り組みが展開されています。また後者は、虎ノ門から赤坂や六本木を含めた麻布台エリアの道路や公園などのインフラを整備し、防犯防災面における都市機能の更新を実現するもので、1989年のまちづくり協議会設立後、30年以上に渡って地元住民を含めて議論を重ねながら進めてきたものです。いずれも東京都港区という都心を舞台としたプロジェクトですが、「緑」が重要なキーとなっていると中氏は説明しました。

「従来の虎ノ門は実は人が集まりづらいところがありました。そこで虎ノ門ヒルズプロジェクトでは、4つの高層ビル(うち1つの(仮称)ステーションタワーは2023年竣工予定)を緑とデッキでつなげることでネットワークを構築し、各エリアを結びつけていきたいと思っています。各施設にはイノベーションやクリエイティブの拠点ができ始めているので、緑を通じて各要素をうまく噛み合わせていきたいです。さらには、虎ノ門ヒルズの南側にある愛宕神社や北側にある日比谷公園なども緑でつないでいくことで、虎ノ門ヒルズをこの地区の拠点にしていきたいと思っています」

「虎ノ門・麻布台プロジェクトは、『MODERN URBAN VILLAGE 緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街』というコンセプトを掲げています。『GREEN』と『WELLNESS』を軸に、自然と調和した環境と人間らしく生きられるコミュニティをつくろうというものです。建物を高層化して足元を緑化するという基本的な考え方は同じですが、街の中心に緑の広場を置くことで、人の流れがシームレスになるランドスケープを計画していますし、建設予定の建物もすべて緑化していく予定なので、生活と緑が一体化した環境をつくろうとしています」

虎ノ門・麻布台プロジェクトは、実際に国内外の環境認証を取得した上で進められています。またWELLNESSの観点では医療施設を核として、フィットネスクラブやスパなどもつくられる予定であり、「健やかに過ごし、働きながら、様々なイベントを通じて新しいアイディアや楽しみが生まれる街」を目指しているそうです。そして中氏は、最後にこのプロジェクトの意義と今後の展望を次のように話して講演を締めくくりました。

「これまで森ビルは都市に緑をつくってきましたが、今回紹介した事例はその象徴的なプロジェクトになるはずです。森ビルの社長であった森稔は、緑を通じて虎ノ門や麻布台、さらにはより広い範囲をつなげるグランドデザインを描いていましたが、まさにそのようなイメージの大街区ができると考えています。今後も我々はこの地域のエリアマネジメントを通じて、どのような価値を付けられるか考えていくつもりです」

各エリアを緑でつなぐ虎ノ門ヒルズプロジェクトのイメージ

 

街やビルを緑化する虎ノ門・麻布台プロジェクトのイメージ

 


パークマネジメントとエリアマネジメントの連携が今後の鍵

中氏のプレゼンを終えると、小林氏、三谷氏、福岡氏、長谷川を交えたトークセッションに移ります。その冒頭、小林氏から緑とクリエイティブにどのような関係についてインプットがありました。

近年、エリアやコミュニティに存在する緑や自然が人間の創造性にどのように寄与するかという点に関しては科学的なアプローチがなされるようになっています。例えば日本医科大学医学部教授の李卿氏は『森林浴』(まむかいブックスギャラリー)の中で、森林浴は人間の免疫力を高めてメンタルを整えることや、人の創造性を高め、思考をポジティブな方向に変える力があることを科学的根拠と共に紹介しています。また千葉大学環境健康フィールド科学センター特任研究員の宮崎良文氏も『森林浴 Shinrin-Yoku』(創元社)の中で、ここ15年ほどの間に自然セラピーの生理的評価システムが確立されつつあり、新規データが提供されていることを紹介した上で、かつては自然を捨てた都市空間において自然を取り戻す重要性や、緑が街の価値を高めることに触れている点は「エリアマネジメントにつながる発想」と小林氏は説明します。

また、創造性を高めるという点では、緑が発する音などが人間の脳や身体に与える影響についての研究も進められていることも紹介。例えば脳科学者の大橋力氏は『音と文明—音の環境学ことはじめ』(岩波書店)で機能主義的な都市計画によって身近な空間から緑が引き離されてしまった時代において、如何にして植栽や昆虫を含む小動物などの自然生命系を生活空間に組み込み、人間の脳に刺激を与えるとされる「ハイパーソニック・エフェクト」を生み出せるかが喫緊の課題であると指摘しています。また慶應義塾大学環境情報学部教授の諏訪正樹氏は『身体が生み出すクリエイティブ』(ちくま新書)でクリエイティブ=身体知と定義した上で、森の中を散歩したり、街路樹がある空間を散歩したりすることで人の身体は刺激を受け、クリエイティビティを高められると考えていることに触れていきました。

「大丸有エリアでも、大阪駅周辺のうめきた2期開発においても、緑の空間を増やす試みが行われています。私もそれらに関わっていますが、こうした取り組みは、グリーンとクリエイティビティが深いところでつながっていると考えているからです」(小林氏)

次に、各参加者からのコメントもふまえて質疑応答がなされました。

Q. 森ビルは様々な形で緑を展開していますが、これはクリエイティブを生み出し、人材を育てることにつながると考えています。緑とクリエイティブの関係性について、森ビルとしてはどう考えているのでしょうか。(小林氏)

A. 今回紹介した虎ノ門・麻布台プロジェクトは各施設の真ん中に緑があるので、すべてが何らかの形で緑に関わってきます。エリアで働く人が新しいビジネスを起こしたとするとそのベースには緑がありますから、その意味で緑がクリエイティブにつながっていくと考えています。(中氏)

Q. 中さんは現在「パークマネジメント推進部」に属しているとお聞きします。今回ご紹介いただいたプロジェクトは単なるタウンマネジメントではないので、パークマネジメントという名前の部署が動いていることは非常に重要なことだと思っています。パークマネジメントに携わる人とエリアマネジメントに携わる人はそれぞれ異なるスキルセットがあるのでいい形で連携できるとお互いにいい影響が出てくると思っていますが、現実にはまだまだうまく連携できていませんし、そのための中間支援組織が少ないとも感じています。こうした点についてどのように考えていますか。(福岡氏)

A. 立ち上げ当初は右も左も分からないような状態でしたが、カーボンニュートラル宣言を始め社会情勢が大きく変わっている中で、とても重要な仕事に関われていると思っています。これまで見えていなかったものを緑という軸を通すことで見えるようにしたり、違った見方を生み出したりできていますし、緑を通じて色々な企業や人がつながっていくことで、前向きな取り組みがさらに増えていくとも感じています。実際にやっていることはいわゆるパークマネジメントという言葉とは少し違うかもしれませんが、都市ならではでできることを実現したいですし、現在取り組んでいるプロジェクトを通じて、2023年までに実現していくつもりです。ただ、やはり難しい部分はたくさんありますので、植物と向き合ってきた方々とどうつなぎ合わせていくかは重要です。そうやって、今まさにグリーンコミュニティを実践している状況です。(中氏)

Q. エリアマネジメントにおいては緑があることの価値を利用者にいかに感じてもらうかが重要です。エリアとしてサステナビリティ向上に取り組む意義や認知を広げるためのアプローチをどうお考えでしょうか。(三谷氏)

A.森ビルが運営する各ヒルズを中心にコロナ禍において感染症対策のために様々なルールを作りましたが、関係者一人ひとりが自分ごととして捉えることで自然と浸透していきました。そういったことができるのであれば、緑に関しても落ち葉を清掃しよう、植栽を整えようといったことができるのではないかと感じました。人々の意識を高める取り組みは、今後街を作っていく上で必要だと思いますし、街を一体的に運営していく立場だからこそできることもあると感じています。例えばデジタルアプリの活用などは有効だと考えていますが、実際にどのように仕組み化するかは悩んでいるところでもあります。(中氏)

質疑応答を終えると、福岡氏からグリーンインフラとエリアマネジメントに対する期待のメッセージが送られました。

「何度か触れさせていただきましたが、パークマネジメント側とエリアマネジメント側がどれだけ力を合わせられるかが重要だと思いますし、そこにはもちろん行政の協力も必要です。そのためのシナリオやネットワークのつくり方は無限にあるはずです。そのような関係性ができれば、気候変動やサステナビリティに関する課題にも向き合っていけるでしょう。そのためにも、今回のシンポジウムのような形で色々な組織や人が刺激を与え合う機会をもっと設けていければと思っています」(福岡氏)

グリーン×コミュニティ×クリエイティビティ

       ~これからのエリアマネジメントの可能性を探る~

昨年からのCovid-19による地域経済への打撃は収まることなく続いており、私たちの暮らし方、働き方も大きな変化を受けている。そのような中で、エリアベースで街の魅力や価値を考え実践するエリアマネジメントには何が出来るのか、また、エリアマネジメントの実践によって地域経済の再興や人々の生活の質の向上、更には環境問題等のグローバルリスクへの対応にどのように貢献できるのかは、全国のエリアマネジメントに取り組む主体にとっても大きなテーマとなっている。
本年のシンポジウムでは、“グリーン”、“コミュニティ”、“クリエイティビティ”をキーワードに、エリアマネジメントというエリアベースの取組みが、人や企業が街で活動することに対する満足度を高めるだけでなく、経済や社会、環境と言ったSDGsへの対応にもつながっていくのではないかということを世界的な動きやコミュニティレベルでの実践を話題にしつつ、議論を行う。

 

◆全国エリアマネジメントシンポジウム 2021 開催概要◆
日  時:2021年9月17日(金) 14:30 - 18:00
開催形式:オンライン開催(zoom webinar)
参  加  費:2,000円
               ※全国エリアマネジメントネットワーク会員及びオブザーバーは、チケット購入の際に、
                 事務局よりお送りする「割引コード」を入力すると会員価格1,000円で購入できます。
申込方法:Peatixのみ。下記URLよりお申込みください
               →https://amn-symposium-GCC.peatix.com
               ※後段の注意事項及びPeatix内の説明も必ずお読みください。
申込締切:2021年9月17日(金)13:30まで(当日、開始1時間前まで購入できます。)
主  催:全国エリアマネジメントネットワーク
共  催:京都大学経営管理大学院

 

◆プログラム◆

14:30 – 14:45  開会 主催者挨拶・ゲスト挨拶 国土交通省都市局局長 宇野善昌氏

14:45 – 15:20  プレゼンテーション①:エリアマネジメントアンケート調査の報告

全国エリアマネジメントネットワーク事務局 長谷川隆三

京都大学経営管理大学院特定教授 要藤正任 氏

15:20~16:00  プレゼンテーション② :アメリカBIDの現在(※VTR出演)

President & CEO International Downtown Association David Downey 氏

16:00~16:10  休憩

16:10~16:50  プレゼンテーション③ :グリーン*プレイスメイキング

東京農業大学地域環境科学部准教授 福岡孝則 氏

16:50~17:05  トーク① :プレゼンへの質問と議論

全国エリアマネジメントネットワーク会長 小林重敬

Groove Designs代表 三谷繭子 氏

全国エリアマネジメントネットワーク事務局 長谷川隆三

17:05~17:45  プレゼンテーション④ :グリーンコミュニティの実践

森ビル株式会社タウンマネジメント事業部 中裕樹 氏

17:45~18:00  トーク② :プレゼンへの質問と議論

※登壇者はtalk1と同様

18:00      閉会挨拶:京都大学経営管理大学院院長 戸田圭一氏

 

▼ご案内は以下をダウンロードください▼

【ご案内】全国エリマネ エリアマネジメントシンポジウム2021

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9月25日(金)に東京ポートシティ竹芝でエリアマネジメントネットワークシンポジウムが開催されました。
コロナ禍により、都心のビジネス街から郊外の駅前商店街に至るまで、都市活動そのものに大きな変化が求められています。エリアマネジメント組織が経済の再生・再興、またその下支えとなることはできるのか? またそのためには何をすべきか? ウイズコロナ、アフターコロナの中でエリアマネジメント組織が果たすべき役割とその活動方法について議論が繰り広げられました。


インプットトーク①
先の見えないコロナ禍で実験区の試み

ゲストスピーカーである梅澤高明氏はA.T.カーニー日本法人会長、CIC JAPAN会長、ナイトタイムエコノミー推進協議会理事、クールジャパン機構社外取締役の4役を兼務。大企業のイノベーションとスタートアップの成長支援、ナイトタイムエコノミー、街づくり、観光まで、非常に幅広く活躍されています。
総論として「クリエイティブ・イノベーティブな街づくり」を、各論で「ナイトタイムエコノミー推進協議会の取り組み」について紹介していただきました。

コロナ禍で人々の暮らし方や価値観が大きく変わり、人々の関心は仕事だけでなく健康、食、趣味などに向けられ、柔軟な働き方が求められるようになりました。一方で、企業は本社機能を見直し、サテライトオフィスの活用やテレワークを進めていったことにより、郊外居住やマルチハビテーションが増加しています。梅澤氏は、今後、都心部の不動産の優勝劣敗が劇的に進み、東京など大都市の都市開発は今まさに転換を迫られていると分析しています。

「ニューノーマルが進む中、バックトゥノーマルの力も働き、解決点を見極めるには、まだ数カ月、あるいは1年かけて探っていかなければならない状況です。こういう時にこそ、どんどん実験ができる街づくりをしていくべきです」(梅澤氏)

梅澤氏の提案は、起業家、クリエイター、などの先端的な生活者が集まるような都心の実験区で異才・異能の人達が新しい実験を行い、それを起爆材として、東京の産業革新につなげるというもの。

また、クリエイティブ&イノベーティブなエリアづくりに必要な要件として、以下のような方向を示しました。
1. リアルとデジタルがもっと融合した都市
2. 空間と時間が滑らかに繋がる都市(職・住・遊が融合している都市、昼間と夜が境目なくつながっていく都市)
3. 豊かな風景を大切にした都市

日経ビジネスの特集記事は、「仮想空間創造師(VRクリエイター)」「サイボーグ技術者」などの新しい職種が増えると予想しています。このようなイノベーターたちが活躍するためには「ソフトウェア、ハードウェア、素材、ユースケースを持つ様々な産業が触発し合える場、さらに行政とも協働してルールメイキングを行える場が必要である」と梅澤氏は強調しました。

エリアの価値を高める新しい取り組み

2019年春に設立されたナイトタイムエコノミー推進協議会については、大きく3つの取り組みが紹介されました。
1つは、観光庁のナイトタイムエコノミー事業の選定とコーチング支援事業。2つ目は、夜間の文化的価値を定量的・定性的に調査する取り組みであるCreative Footprint(CFP)。3つ目は、ナイトタイムエコノミー関連産業に関するロビー活動。

コーチング支援事業では、募集選定した事業にコーチを派遣し、企画から運営オペレーションまでをサポートする取り組みを行っています。次年度以降も事業として自走できるように具体的なノウハウ作りを徹底して行うほか、「そのエリアの本質的な価値」を見出し磨き上げることが重要であると強調しました。

Creative Footprintの調査では、都市のナイトシーンは経済的、文化的、そして社会的な価値を生み出し、クリエイティブシティの発展に欠かせないことが強調されています。その一方で、エリアの魅力が高まると地価・賃料が高騰し、その結果、若いクリエイターなどがそのコミュニティで活動できなくなってしまう現象(ジェントリフィケーション)が問題視されています。ナイトタイムエコノミーを支えるクリエイティブ・コミュニティの価値を正しく理解し、都市に留まらせる策が必要です。
もう一つ重要な視点は、文化と観光の接続です。例えば台場の「teamLab Borderless」は、メディアアートを生かして日本らしい文化拠点を作り、海外のセレブやインフレンサーの影響力も活用しながら世界中の観光客を呼び込むことに成功しています。

「文化資源に対して積極的に投資しつつ、観光で回収するというアプローチは日本全体でもっと取り組むべきです。Creative Footprintの活動を通じて、文化・観光・都市開発のクラスタが緊密に協働することができれば、日本の都市のポテンシャルをもっと引き出せると感じました」(梅澤氏)

クリエイティブ、イノベーティブな街づくりへの提言

ナイトタイムエコノミー推進協議会での取り組みを踏まえて、梅澤氏は以下の提言を発表しました。

1. ステ-クホルダーの分野横断での協働
文化・観光・街づくりセクターの協働の促進、文化庁・観光庁・国交省など関連省庁間での政策の連携強化。

2. 街の中に「余白」を作る
ストリート・公開空地の活用に関する規制緩和、ポップアップ店舗の活用、小箱や実験的ベニューに対する政策的な賃料抑制など。

3.人材育成・人材交流の促進
クリエイティブな分野でのビジネス・プロデューサーの育成。新しい文化を生み出すための多様な人材の交流促進。

最後に、今後のエリアマネジメントへの期待を述べてインプットトークを締めくくりました。
「新規の再開発の余地が減少する中で、街づくりの重点は運営にシフトしています。私たちの立場からは、エリアマネジメントを見据えた開発の取り組みをお願いしたいと考えています。
クリエイティブ&イノベーティブなエリアの創生には、ビジョン、ステークホルダー横断のチーム、そして現場での活動を継続する軍資金が不可欠です。エリマネは本来、「独立採算事業」ではなく、街の価値を上げる「投資」のはずです。その点で、不動産会社や自治体の発想の転換を期待します」(梅澤氏)


インプットトーク②
期待されるエリマネ活動の知的創造、新機能

続いてのインプットトークでは、全国エリアマネジメントネットワーク会長小林重敬氏より「期待されるエリマネ活動の知的創造、新機能」をテーマに語っていただきました。

今後のエリマネ活動を考えるにあたり、全国エリアマネジメントネットワークでは、京都大学のエリマネ研究会の諸富徹教授を招いて、今年8月にオンラインでエリマネサロンを2回にわたり開催しました。その中で、諸富教授は「日本の製造業は、今後人的資本投資と組織構築をして、イノベーション、クリエイティブな要素を持ち込むべきである」と示しました。

「諸富先生のお話をエリマネの立場から考えると、ソフトとハードの両面でエリア環境整備をしていくことが必要で、大都市を中心に都心実験区の動きを加速していかなければなりません。大都市において大企業のイノベーション・クリエイティブについては、多くの工業地域で展開する試作工場、研究開発機能によって創り出してきました。しかし、これからは無形資産投資で地域を再生させるためにはどうするかと迫られています。それをエリアマネジメントサイドで解決するには、コミュニティグリーンとコミュニティクリエイティブが鍵となると考えています」(小林氏)

「コミュニティグリーン」とは、コミュニティに存在するグリーンを中心とする物的な構成要素であり、多様な人材が集まりイノベーションを起こすエリアが「コミュニティクリエイティブ」。
エリアのクリエイティブを高めていくためには、コミュニティグリーンの持続可能性を実現する仕組みと仕掛けの存在が必要不可欠であると小林氏は強調します。

具体的なエリアづくりとして、東京・大阪の大都市都心部での取り組みが紹介されました。
東京の大丸有地区では行政と共同し、仲通りをはじめ様々な工夫をして空間をつくりだし、多くの通りで緑づくりが進められています。同じく、コミュニティグリーン・コミュニティクリエイティブを取り入れた試みが、虎ノ門エリアや大阪梅北エリア、竹芝エリアで次々と実験的に取り組まれ、新たな出会いや活動を生み出す場となっていることが紹介されました。

様々な発想で利用できる空間が作られることによって、そこに勤務する人々や集う人々に新しい発想と気付きを与え、さらなるクリエイティブにつながっていくことに小林氏は期待を寄せました。


セッション①
エリアマネジメントとこれからの「知の交流・交易」

コロナ禍で様々な制限が必要とされる中、リアルな場での交流活動について都心部のエリアマネジメント団体の三者に語っていただきました。

<参加者>
■一般社団法人竹芝エリアマネジメント事務局長/東急不動産株式会社都市事業ユニット 都市事業本部スマートシティ推進室室長/田中敦典氏
■一般社団法人新虎通りエリアマネジメント/森ビル株式会社タウンマネジメント事業部
虎ノ門ヒルズエリア運営グループ/朝賀繁氏
■エコッツェリア協会事務局次長/三菱地所株式会社エリアマネジメント企画部マネージャー/田口真司氏

田中氏からは、竹芝エリマネのプラットホームの特徴と東京ポートシティ竹芝で開催されたイベントについて紹介がありました。
田中氏が所属する竹芝エリアマネジメントを含め、5つの組織が共同してプロジェクトの提案と運営を行っている竹芝のエリマネ。単一の組織でないからこそ、人の交流や知の交流がより活発となり、力強いプロジェクトの推進が可能となっている点を田中氏は強調しました。
東京ポートシティ竹芝で9月に開催された3日間の音楽ライブでは、単なるオンライン配信だけではなく、オンライン特有の映像技術を加え処理したスペシャル配信を提供し、3日間で約87万人が視聴。竹芝の魅力をオンラインイベントで日本だけでなく、世界へも伝えることに成功しました。
「無観客ライブのオンライン配信によって、会場への問い合わせも増えている状況です。リアルとオンラインを使い分けて両立できる取り組みがこれからは重要になってくると考えています」(田中氏)

朝賀氏からは、新たに掲げた新虎通りのエリアビジョンとその取り組みについての紹介がありました。
まず、虎ノ門が持っているニュートラルなビジネス街の土壌を活かすことを念頭に、地元の方々や企業とともにエリアビジョンを再考して来た経緯が語られました。そこで生まれたのが「グローバルな産官学の交流による、イノベーション創出を目的としたビジネスコミュニティを醸成していく」という大きな指針です。
取り組みとしては、虎ノ門ヒルズのビジネスタワー4階に大企業の新規事業部門を出島として集積し、さらにベンチャー企業も交わるコミュニティの土壌作りが進められています。
また、新虎通りCOREでは、英国の美術大学(RCA)と東京大学生産技術研究所の(IIS)のコラボによるデザインアカデミーが開設され、デザインで新たな産業を興そうという視点での教育が実施されています。
「新虎通りは、通りの沿道にまだまだ余白が多い。今後大きな開発と絡めながら、エリマネとしてどういった余白の利活用ができるかを検討していく予定です」(朝賀氏)

エコッツェリア協会の田口氏は、コロナ禍におけるオンラインのメリットとデメリットから、これからのエリマネの役割について言及しました。
オンラインが普及したことによって、発信者と受信者双方に時間と空間の制限がなくなり利便性が高まりましたが、同時に参加者同士の新たな関係性の構築が困難さを感じていると言います。利便性が高まったからこそ、面倒で時間のかかることの意味や意義が問われているのではないかと田口氏は強調しました。
その中で勇気付けられた体験として、運営しているイベントのオンラインでの取り組みを紹介。制限はあるものの、企画次第では「知の交流・交易」の可能性が大いにあることを示唆しました。
「エリアマネジメントの価値は、良質なコミュニティを持ち、また分野の異なるコミュニティ同士をどのようにつないでいくかにあると思います。エリアを物理的な場所と機能とに分けて考えると、機能の部分はオンラインに変わりつつあるので、物理的な場所としての特徴と機能の特徴を切り分けて明確化する。その上で街づくりをしていくことがこれからのエリマネに必要であると考えています」(田口氏)


セッション② 地域経済の再興に資するエリアマネジメントを展望する

このセッションでは、2年間活動を行ってきたエリアマネジメント負担金制度部会のメンバーが、新型コロナウイルスによって影響を受けたエリアマネジメントについて議論を行いました。

<参加者>
■エリアマネジメント負担金制度活用部会部会長/リージョン・ワークス合同会社代表社員/後藤太一氏
■三菱地所株式会社/谷川拓氏
■梅田地区エリアマネジメント実践連絡会/阪急阪神不動産株式会社/高田梓氏
■札幌駅前通まちづくり株式会社/内川亜紀氏(リモート参加)

まず、後藤氏から問題提起がありました。
エリマネ活動を投資としてステークホルダーに捉えてもらうために、マニフェスト的な事業計画と活動内容の報告が必要となることをベースに議論を深めてきたところ、コロナ禍によって長期的な見通しが立てられない状況になっている地域が多いこと。また、これから求められるエリマネ活動の推進において、組織の構成を柔軟に変え続けていく必要があるのではないかということが挙げられました。

財源の確保について、高田氏から梅田地区のエリマネの現状が語られました。
「私たちのエリマネ団体では、イベント開催費の一部は協賛金を頂戴していますが、今回のコロナ禍でも協賛してくださった企業が多数ありました。日頃から私たちの活動目的などがきちんと伝わるコミュニケーションを取り続けていたことが、今回の結果につながったと考えています。定量的な成果がこれまでは求められていましたが、定性的な観点も入れたSDGsの考え方が認められてきていることに救いを感じています」(高田氏)

公共空間の貸し出しなどで財源と人材の確保を行なっていた札幌の内川氏は、コロナによって顕在化した課題と、エリアの価値を高める現在の取り組みについて話していただきました。
「これまで公共空間の利活用に財源を頼っていたので厳しい面はありますが、ある意味事業を考え直すチャンスであると前向きに捉えています。また、10年間の活動を通してビジョンが明確となり、今年ガイドラインの策定に至りました。コロナで出てきた課題を価値に転換して、ガイドラインをもとにステークホルダーとの協議を重ねていきたいと考えています」(内川氏)

谷川氏からは、ステークホルダーとのコミュニケーションの課題が挙げられました。
「大丸有では1996年から、東京都と千代田区とJR東日本と一緒に大丸有まちづくり懇談会というテーブルを持っているので、基本的に大きな方針や方向性の共有はできていると思います。しかし、数年毎に人事異動があるなど、どうしてもまちづくり関係者全ての人たちにまで共有しきれていないこともあります。言葉での共有とともに、計画図など、他の方法での共有やコミュニケーション方法が確立される必要があると感じています」(谷川氏)

最後に、コーディネーターを務めた全国エリアマネジメントネットワーク事務局次長の長谷川隆三氏が、今後のエリマネの役割と展望を語りました。
「ビジネス開発に資するエリマネの『つなぐ役割』と、地域内外のステークホルダーを巻き込んで解像度の高い『ビジョンを描く役割』が、エリマネにとってさらに重要になってきています。データ分析に則った事業計画を年次で回していくことを、エリマネ団体としてスキルアップさせていきつつ、エリマネ組織の経営についても今後議論していく予定です」(長谷川氏)

今回、エリマネの本質的なあり方や役割についての認識があらためて示されたことで、コロナ禍による足元の対応だけでなく長期的な視点の重要性が共有されました。
また、リアルとオンラインでのシンポジウム開催となり、今後のエリマネ活動の可能性を広げる新たなスタートを象徴する会となりました。

コロナ禍により、様々な都市活動が大きく変化した都心のビジネス街や郊外の駅前商業拠点や住宅。多くのビジネスが影響を被っている中、その再生に向けて様々な試行錯誤がなされている所である。我々エリアマネジメント組織は、エリアと言うある一定の範囲で活動する組織であり、そこには多くの事業者が活動しており、これまでも事業者が居続けたい環境づくりを行ってきた。

そういったエリアマネジメント組織がコロナ禍において、より積極的に地域経済の再生、更には経済の成長の下支えを出来ないか?出来るとするとどういった事を行っていくべきなのか?欧米のBID組織は、エリア内の事業者を支援し、そのビジネス再開を支える取組みを迅速に行っている。エリアマネジメント組織もよりエリアのステークホルダーとつながりながら、エリア価値の向上に向けた活動を充実させていく必要があるのではないか。

今回のシンポジウムでは、with/afterコロナの中でエリアマネジメント組織が地域経済の再興に向けて何が出来るのかについて議論を行い、私たちが今後成すべきことについて提起していきたい。


開催日時:2020年9月25日(金) 14時30分~17時30分

開催場所:東京ポートシティ竹芝 ポートホール(東京都港区海岸1-7-1) 及び zoomウェビナー

主  催:全国エリアマネジメントネットワーク

共  催:京都大学経営管理大学院官民協働まちづくり実践講座

特別協力:一般社団法人 竹芝 エリアマネジメント

開催形式:新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためリアル会場とオンラインの両方で開催

(※一般参加者はオンライン参加のみ)


申込方法:Peatixのみ(事前決済、下記URLより申込ください)

https://amn-symposium-takeshiba.peatix.com

※上記URLは「一般参加者用」です。
ネットワーク会員は会員専用URLからお申込みください(事務局より送付済み)

参 加 費:ネットワーク会員 1,000円/人  一般参加者 2,000円/人

定  員:リアル会場_100名、オンライン_200名

締  切:9月18日(金)17時まで ※定員になり次第、申し込みを終了

(会員は16日が締切です)


プログラム:下記PDFからご参照下さい(954KB)