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3月 3, 2022

2021年9月17日(金)、全国エリアマネジメントシンポジウム2021が開催されました。

今なお世界中のあらゆる産業に甚大な打撃を与えている新型コロナウイルス感染症。エリアマネジメントの領域も例外ではなく大きな影響を受けており、まちづくりやコミュニティに対するアプローチの見直しが求められています。

エリアマネジメントのあり方が大きな転換期を迎える中、本年のシンポジウムはSDGsにも大きく関わってくる「グリーン」「コミュニティ」「クリエイティビティ」の3つをキーワードに掲げて開催。各キーワードをエリアマネジメントに落し込んでいくには何が必要になるのか、そしてafterコロナ/withコロナ時代のエリアマネジメントはどのような姿になっていくのかといったことを、有識者の皆さまのプレゼンテーションやトークセッションから探っていきました。当日の要旨をレポートします。

なお本シンポジウムは感染状況を考慮してオンラインでの開催となりました。


パンデミック下における国内と北米のエリマネ組織の動向変化

冒頭、国土交通省都市局局長の宇野善昌氏より開会のご挨拶をいただきました。

国土交通省都市局局長の宇野善昌氏

 

「様々な要因で社会情勢が大きく変化している中で、都市における一番の課題は『持続可能性をどう身につけるか』だと思っています。その中で我々がまちづくりに関わっていくに3つの観点が必要です。ひとつは『ハードとソフトの整備の仕方』です。人口拡大に伴って都市が拡大している時代では何らかのモノをつくれば目的通りに使われる、つまりハードがソフトを伴っていました。しかし高齢化により人口減少が進む社会では、どのようにハードを使ってもらいたいかということから考えていかなくてはなりません。それと並行する話ですが、官主導のまちづくりから『民主導、あるいは官民連携』がこれまで以上に重要になってくる世界が訪れています。そして3つ目が『既存ストックの活用』です。現在、街にはストックが十分に整っているので、新たにつくるよりも今あるストックをどのように使い倒していくかという発想が必要になります。これらはいずれもエリアマネジメントにつながる考え方であり、この3つの観点を持ちながら我々も必要な支援をしていきたいと考えています」(宇野氏)

続いてプレゼンテーションへと移ります。まずはエリアマネジメント組織の実態把握及び発展に向けた基礎資料とすることを目的に、エリアマネジメント会員と一部法人会員計45団体を対象に実施したアンケート調査の報告です。このアンケートは、エリアマネジメント組織の形態やスタッフ構成、資金などの「組織の概要」、活動対象地域における課題や具体的なエリアマネジメント活動内容などの「活動概要」、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した取り組み状況などの「SDGsとエリアマネジメント」という3つのセクションに分けて調査したもので、全国エリアマネジメントネットワーク事務局の長谷川隆三、並びに京都大学経営管理大学院特定教授の要藤正任氏より報告が行われました。

長谷川より報告したセクション1とセクション2においては、6割以上の団体が「住民やワーカー、企業同士のネットワークが弱い」という課題を感じていることや、コロナ禍の中で半数近くの団体が屋外空間活用への取り組みを実施したこと、また半数以上の団体が新型コロナの影響で収入が減少したことなどが報告されました。また要藤氏より報告いただいたセクション3に関しては、約4割の団体が「SDGsを意識し、それに沿った取り組みを実施している」こと、その中ではまちづくりに関する取り組みだけにとどまらず、中水を利用した打ち水イベント、干潟・海・河川に関するなど環境教育に関するものも多いことなどが報告されました。

次に、International Downtown Association(IDA)のPresident & CEOであるデーヴィッド・ダウニー氏による「COVID-19の時代における北米のエリアマネジメント」についてのプレゼンテーションが行われました。ダウニー氏らの調査研究では、北米の多くのビジネスパーソンがフルタイムでオフィスでの労働を避けたいと考えていること、それに伴ってハイブリッドワークモデルの働き方がなくなることはないという予測が報じられました。また、パンデミック下において屋外スペースの活用などを実施したBID組織に対する市民の信頼度が向上しているという意見が増えていることも紹介。そして今後エリアマネジメント業界が取っていく戦略として、(1)積極的に信頼できるリーダーの役割を果たすこと、(2)パブリックスペースの恒久的活用、(3)住民の少ない都心での活動レベルの向上、(4)社会的公正に基づいたリカバリー、(5)パンデミックは今後10年の都市変革の機会と認識すること、という5つが紹介されました。最後にダウニー氏は次のように述べてプレゼンテーションを締めくくりました。

「このパンデミックで、献身的なエリアマネジメントのプロフェッショナルの人たちの素晴らしい仕事を自覚しました。彼らは、自分たちの都心がパンデミック下を生き残るように努めつつ、その都心のさらなる発展と活性化を図るための新たなビジョンを作り出しています」

IDAのロバート・ダウニー氏

 


グリーンインフラとエリアマネジメントの相互連携への期待

東京農業大学地域環境科学部准教授の福岡孝則氏

 

続いて東京農業大学地域環境科学部准教授の福岡孝則氏より「グリーンインフラとエリマネへの期待」という題で、「リバブルシティ(住みやすい都市)」のあり方とグリーンインフラの可能性についてプレゼンテーションが行われました。

リバブルシティとは、経済成長や利便性だけでなく、その街で働き生活をする多世代の人々が、文化・社会、健康、環境など多様なライフスタイルを選択しながら快適に住み続けられることを重視する考え方で、コロナ禍で多くの人の生活スタイルに変化が生じたことも相まってこれまで以上に重要視されています。リバブルシティに関連して注目度が高まっているのが「グリーンインフラ」です。自然の力を通じて生物多様性や減災の実現、あるいは質の高いライフスタイルを演出するグリーンインフラとリバブルシティの関係性について、福岡氏は次のように整理してからプレゼンをスタートさせました。

「エリアマネジメントでは、エリア全体をどうオーガナイズするかも大事ですが、一つひとつの場所に介入してベストな選択をして都市を変えていくアクションも重要です。都市のビジョンやガイドライン、方向性など上位に位置するものに対して個別の場所がどう呼応していくのか、個々の場所と緑をどうつなげていくのか、そして緑の場所に介入していくことでそのエリアにどのような可能性が広がっていくかということは、エリアマネジメントに関わる方も興味があるのではないでしょうか」

エリアマネジメントとプレイスメイキングの概念図

 

こう述べた上で福岡氏は、プレイスメイキングとグリーンがクロスした5つの事例を紹介していきました。

(1)民間の敷地で展開するプレイスメイキング(東京都港区・コートヤードHIROO

旧厚生省の官舎、駐車場を一体的にフルリノベーションし、住宅・飲食など多用途の施設に再生させた事例。施設内には健康や食、アートを取り扱う事業者が入り、定期的に施設内のスペースを開放したイベントを開催。各イベントはディベロッパー自らが企画しており、「こうした小さくてクリエイティブなディベロッパーのあり方は今後問われてくるのでは」と福岡氏は説明しました。

(2)公園の社会実験からマチの戦略へ(兵庫県神戸市・東遊園地)

2014年に市民有志が既存の公園に芝生を敷き、カフェやアウトドアライブラリーなどを設置する「アーバンピクニック」という社会実験を実施したところ、翌年以降神戸市や多様な市民が関わり始めた事例。社会実験の結果、公園の再整備、主体組織の都市再生推進法人指定や、パビリオンの再活用などの展開が進みました。社会実験とシンクロするように、神戸市都心部でLiving Nature Kobeという自然を中心にした都市のビジョンづくりが進行中です。福岡氏は、小さな公園からスタートした活動に色々な市民が主体的に関わり、徐々に街全体に広がっていった点が特徴的と述べました。

(3)公民連携で公園のようなマチをつくる(東京都町田市・南町田グランベリーパーク)

公民連携で既存の公園や商業施設、さらには駅、道路の再編集・再整備という一体的なプロジェクト。隣り合っていながらも分断されていた公園と商業施設を、道路の再配置などによりオープンスペースを通じてつなげ「すべてが公園のような街」を作り上げていきました。商業施設にもふんだんに緑を配し、特に施設の屋上には多年草を植えることで1年中植物を楽しめる空間を創成。一方で公園については市民も含めたワークショップを開催して課題や問題を洗い出していった末、人々が自然に身体を動かしたくなるように「アクティブデザイン」の考えを取り入れて再整備を実施。商業施設、公園、また隣接するスヌーピーミュージアムやまちライブラリー等はそれぞれ別の組織がマネジメントしていますが、各組織を取りまとめる「みなみまちだをみんなのまちへ」という一般財団法人が官民連携で設立されている点も特徴です。

(4)BIZとグリーン・プレイスメイキング(アメリカ・デトロイト)

デトロイトの都市中心部の高速道路とデトロイト川に囲まれた140ブロック、約2.8平方kmをBusiness Improvement Zone(BIZ)に設定し、公開空地の改修やプレイスメイキングに取り組んでいる事例。この取り組みには550の民間企業が参加しており、各企業からの年間約4億円に上る会費収入の一部を活用しているといいます。デトロイトは自動車産業で有名な都市ですが、BIZを通じて都心部で戦略的に緑の場所を中心にした取り組みが展開されていることなども説明されました。

(5)エリマネとグリーンインフラ(イギリス・ロンドン)

ロンドンのヴィクトリア駅周辺におけるVictoria BIDによるグリーンインフラの取り組み事例。「清掃・緑化」「安全・治安」「持続可能な発展」「観光誘致」「公共空間」の5分野で活動を展開しています。同BIDは単に街に緑を設置するだけではなく、緑化のための潅水システムや水害抑制効果の試算などにも取り組んでいる点がポイントであり、中でもキングスクロスで展開されている化学薬品を一切使用していないスイミングプールは「自然と水と緑の関わりを通じて人間の奥底に触れるものとして重要になってくる気がする」と、福岡氏は述べました。

各事例を紹介した上で福岡氏は、グリーン×プレイスメイキングの取り組みを進める上で、(1)場所(グリーンプレイス)から始める、(2)時間と場所のマネジメント、(3)グリーンインフラに育てる、という3つがポイントになると説明しました。

「それぞれの場所だけで取り組むのではなく、公民、民と民、公と公など様々な形での連携が必要ですし、それをつなぐ中間支援組織のあり方も考えていくべきだと思っています。またランドスケープ空間は時間と共に変化していくものなので、それが媒介となって化学反応を起こす感覚も重要ですし、緑と既存のアセットを絡めながらマネジメントやキュレーションしていくことがディベロッパーには求められるでしょう。そして表層的な施設や植物だけを考えるのではなく、『読む(調査)』『書く・描く(計画・設計)』『動かす(施工)』『育てる(管理運営・マネジメント)』という4つを意識し、その場所をグリーンインフラに育てるという観点も非常に大切になります」

最後に次のような言葉で講演を締めくくりました。

「現在は公園や緑分野と街とでは管理者が異なる場合が多いですが、両者が相互に絡み合い、学び合いできるようになっていくともっと楽しいですし、街も変わってくるのではないかと考えています」

グリーンインフラに必要な4つのキーワード

 


エリアマネジメント側から緑の専門家に働きかけを

福岡氏のプレゼンを終えるとトークセッションへと移ります。トークセッションには福岡氏と事務局の長谷川に加え、全国エリアマネジメントネットワーク会長の小林重敬氏、Groove Designs代表の三谷繭子氏が参加。次のような質疑応答がなされました。

全国エリアマネジメントネットワーク会長の小林重敬氏

 

Groove Designs代表の三谷繭子氏

 

Q. 今後日本でのエリアマネジメントが緑を意識していく上で、クリエイティブな要素を入れることが鍵になると思っています。またカリフォルニアでは郊外に行って緑を楽しむのではなく、都心で緑を楽しむような風潮が出てきています。こうした点についてどのように考えていますか?(小林氏)

A. コロナの影響で都心に人が集まらなくなったことで、オフィスとは何か、人が都心で働く意味は何かということを考えました。オフィスやその周辺に緑が溢れる空間があることでできる役割もあると思っていますが、それが何なのかは今は簡単にはお答えできません。ただ、クリエイティブな人々が自分たちで参加したいと思って集う街になるにはそのような視点も必要な気がしています。また事例紹介で挙げたキングスクロスのプールのように、自然と人との新しい関係が作れる都市空間についても考えていく必要があると思っています。

ただ、民間企業が美しい公共空間をつくるのはいいのですが、一方で私の立場としては、どうやってそこに公共性を持たせるかという観点を持つことも大事にしています。ですから、民間と公共がお互いの力を引き出し合うことも頑張らなくてはいけないんじゃないかと感じています。(福岡氏)

Q. 神戸市のアーバンピクニックの事例では、グリーンプレイスを中心にクリエイティビティを創発し、色々な団体が協力し合い新しい活動が生まれていったということですが、その流れはどのように起こっていったのでしょうか。(三谷氏)

A. 東遊園地の場合、アーバンピクニックと同時にEAT LOCAL KOBEという地産地消を推進する社会実験も他主体によって同時に行われていました。同じ公園の中で2つの社会実験が生まれたように、神戸には様々な組織がありますので、それぞれの力の良さをどう引き出していくかが大事になります。

新たに再開発してできた地域の組織の場合は、企業の協力もあって人手も資金も安定していますが、そうではないローカルな場所でのエリアマネジメントがどう発展していくのか、どう地域に活きていくのかを見ていくことも勉強になると思っています。(福岡氏)

Q. 周囲の人々に緑の空間の必要性や価値を伝えていく上でのコツがあれば教えて下さい。(三谷氏)

A. 緑の重要性や、サステナブルな取り組みが大事だと訴えることで付いてきてくれる層もいます。しかしより多くの方に参加してもらうには、例えば緑×健康・スポーツというように異なる分野のものと掛け合わせることが有効になります。緑と何を組み合わせることで両者の価値を上げていくことができるかを考え、企画を立てていけるといいなと思っています。もちろんすべてをコントロールできるわけではありませんが、そこがランドスケープや屋外空間に携わる面白さでもあると思っています。

最後に福岡氏は次のようなコメントでディスカッションを締めくくりました。

「地域には、造園屋や庭師など、植物に詳しい方は実はたくさんいるのですが、そういった方々はエリアマネジメント側との接点があまりないんです。しかし地域によっては共に活動している例もありますので、エリアマネジメントの方々からも緑や植物の専門の方に声を掛け、誘ってもらえると、色々な可能性が開けると考えています」(福岡氏)


虎ノ門・麻布台エリアで進むグリーンコミュニティの実践事例

森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部の中裕樹氏

 

続いて、森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部の中裕樹氏より、「グリーンコミュニティの実践」というタイトルでプレゼンテーションが行われました。森ビルは、建物を高層化することによって活用できる空間を増やして公園や緑をつくり、人々に開放していく「Vertical Garden City」というコンセプトを掲げてまちづくりを展開している企業です。中氏は同社において虎ノ門ヒルズの運営や新虎通りのエリアマネジメントを担当しつつ、個人としても居住する港区の地域活動や他地域でのマルシェのボランティア、ゴミ拾いボランティアを行うNPO法人グリーンバードの活動など、公私に渡ってまちづくりに携わっています。こうした精力的な行動は「エリアマネジメントには『その街の圧倒的な当事者であること』が必要」という考えを持っているからだと中氏は説明しました。

森ビルのコンセプトである「Vertical Garden City」のイメージ図

 

そんな中氏は、現在進行系でグリーンコミュニティ構築を実践している事例として2023年竣工予定の「虎ノ門ヒルズプロジェクト」と「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を取り上げました。前者は、虎ノ門ヒルズエリアの7.5ha、延床面積80万平方メートルの区域に、商業施設やホテル、新たなビジネスの創出拠点となるイノベーションセンターなどを備えるプロジェクトです。東京大学生産技術研究所(IIS)と英国王立美術大学院大学ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)が連携して開催する教育プログラムや、ビジネスタワー内に国内最大級のスタートアップ集積拠点CIC Tokyo、日本版イノベーション創出拠点ARCHといった施設を設けるなど、現時点でも様々な取り組みが展開されています。また後者は、虎ノ門から赤坂や六本木を含めた麻布台エリアの道路や公園などのインフラを整備し、防犯防災面における都市機能の更新を実現するもので、1989年のまちづくり協議会設立後、30年以上に渡って地元住民を含めて議論を重ねながら進めてきたものです。いずれも東京都港区という都心を舞台としたプロジェクトですが、「緑」が重要なキーとなっていると中氏は説明しました。

「従来の虎ノ門は実は人が集まりづらいところがありました。そこで虎ノ門ヒルズプロジェクトでは、4つの高層ビル(うち1つの(仮称)ステーションタワーは2023年竣工予定)を緑とデッキでつなげることでネットワークを構築し、各エリアを結びつけていきたいと思っています。各施設にはイノベーションやクリエイティブの拠点ができ始めているので、緑を通じて各要素をうまく噛み合わせていきたいです。さらには、虎ノ門ヒルズの南側にある愛宕神社や北側にある日比谷公園なども緑でつないでいくことで、虎ノ門ヒルズをこの地区の拠点にしていきたいと思っています」

「虎ノ門・麻布台プロジェクトは、『MODERN URBAN VILLAGE 緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街』というコンセプトを掲げています。『GREEN』と『WELLNESS』を軸に、自然と調和した環境と人間らしく生きられるコミュニティをつくろうというものです。建物を高層化して足元を緑化するという基本的な考え方は同じですが、街の中心に緑の広場を置くことで、人の流れがシームレスになるランドスケープを計画していますし、建設予定の建物もすべて緑化していく予定なので、生活と緑が一体化した環境をつくろうとしています」

虎ノ門・麻布台プロジェクトは、実際に国内外の環境認証を取得した上で進められています。またWELLNESSの観点では医療施設を核として、フィットネスクラブやスパなどもつくられる予定であり、「健やかに過ごし、働きながら、様々なイベントを通じて新しいアイディアや楽しみが生まれる街」を目指しているそうです。そして中氏は、最後にこのプロジェクトの意義と今後の展望を次のように話して講演を締めくくりました。

「これまで森ビルは都市に緑をつくってきましたが、今回紹介した事例はその象徴的なプロジェクトになるはずです。森ビルの社長であった森稔は、緑を通じて虎ノ門や麻布台、さらにはより広い範囲をつなげるグランドデザインを描いていましたが、まさにそのようなイメージの大街区ができると考えています。今後も我々はこの地域のエリアマネジメントを通じて、どのような価値を付けられるか考えていくつもりです」

各エリアを緑でつなぐ虎ノ門ヒルズプロジェクトのイメージ

 

街やビルを緑化する虎ノ門・麻布台プロジェクトのイメージ

 


パークマネジメントとエリアマネジメントの連携が今後の鍵

中氏のプレゼンを終えると、小林氏、三谷氏、福岡氏、長谷川を交えたトークセッションに移ります。その冒頭、小林氏から緑とクリエイティブにどのような関係についてインプットがありました。

近年、エリアやコミュニティに存在する緑や自然が人間の創造性にどのように寄与するかという点に関しては科学的なアプローチがなされるようになっています。例えば日本医科大学医学部教授の李卿氏は『森林浴』(まむかいブックスギャラリー)の中で、森林浴は人間の免疫力を高めてメンタルを整えることや、人の創造性を高め、思考をポジティブな方向に変える力があることを科学的根拠と共に紹介しています。また千葉大学環境健康フィールド科学センター特任研究員の宮崎良文氏も『森林浴 Shinrin-Yoku』(創元社)の中で、ここ15年ほどの間に自然セラピーの生理的評価システムが確立されつつあり、新規データが提供されていることを紹介した上で、かつては自然を捨てた都市空間において自然を取り戻す重要性や、緑が街の価値を高めることに触れている点は「エリアマネジメントにつながる発想」と小林氏は説明します。

また、創造性を高めるという点では、緑が発する音などが人間の脳や身体に与える影響についての研究も進められていることも紹介。例えば脳科学者の大橋力氏は『音と文明—音の環境学ことはじめ』(岩波書店)で機能主義的な都市計画によって身近な空間から緑が引き離されてしまった時代において、如何にして植栽や昆虫を含む小動物などの自然生命系を生活空間に組み込み、人間の脳に刺激を与えるとされる「ハイパーソニック・エフェクト」を生み出せるかが喫緊の課題であると指摘しています。また慶應義塾大学環境情報学部教授の諏訪正樹氏は『身体が生み出すクリエイティブ』(ちくま新書)でクリエイティブ=身体知と定義した上で、森の中を散歩したり、街路樹がある空間を散歩したりすることで人の身体は刺激を受け、クリエイティビティを高められると考えていることに触れていきました。

「大丸有エリアでも、大阪駅周辺のうめきた2期開発においても、緑の空間を増やす試みが行われています。私もそれらに関わっていますが、こうした取り組みは、グリーンとクリエイティビティが深いところでつながっていると考えているからです」(小林氏)

次に、各参加者からのコメントもふまえて質疑応答がなされました。

Q. 森ビルは様々な形で緑を展開していますが、これはクリエイティブを生み出し、人材を育てることにつながると考えています。緑とクリエイティブの関係性について、森ビルとしてはどう考えているのでしょうか。(小林氏)

A. 今回紹介した虎ノ門・麻布台プロジェクトは各施設の真ん中に緑があるので、すべてが何らかの形で緑に関わってきます。エリアで働く人が新しいビジネスを起こしたとするとそのベースには緑がありますから、その意味で緑がクリエイティブにつながっていくと考えています。(中氏)

Q. 中さんは現在「パークマネジメント推進部」に属しているとお聞きします。今回ご紹介いただいたプロジェクトは単なるタウンマネジメントではないので、パークマネジメントという名前の部署が動いていることは非常に重要なことだと思っています。パークマネジメントに携わる人とエリアマネジメントに携わる人はそれぞれ異なるスキルセットがあるのでいい形で連携できるとお互いにいい影響が出てくると思っていますが、現実にはまだまだうまく連携できていませんし、そのための中間支援組織が少ないとも感じています。こうした点についてどのように考えていますか。(福岡氏)

A. 立ち上げ当初は右も左も分からないような状態でしたが、カーボンニュートラル宣言を始め社会情勢が大きく変わっている中で、とても重要な仕事に関われていると思っています。これまで見えていなかったものを緑という軸を通すことで見えるようにしたり、違った見方を生み出したりできていますし、緑を通じて色々な企業や人がつながっていくことで、前向きな取り組みがさらに増えていくとも感じています。実際にやっていることはいわゆるパークマネジメントという言葉とは少し違うかもしれませんが、都市ならではでできることを実現したいですし、現在取り組んでいるプロジェクトを通じて、2023年までに実現していくつもりです。ただ、やはり難しい部分はたくさんありますので、植物と向き合ってきた方々とどうつなぎ合わせていくかは重要です。そうやって、今まさにグリーンコミュニティを実践している状況です。(中氏)

Q. エリアマネジメントにおいては緑があることの価値を利用者にいかに感じてもらうかが重要です。エリアとしてサステナビリティ向上に取り組む意義や認知を広げるためのアプローチをどうお考えでしょうか。(三谷氏)

A.森ビルが運営する各ヒルズを中心にコロナ禍において感染症対策のために様々なルールを作りましたが、関係者一人ひとりが自分ごととして捉えることで自然と浸透していきました。そういったことができるのであれば、緑に関しても落ち葉を清掃しよう、植栽を整えようといったことができるのではないかと感じました。人々の意識を高める取り組みは、今後街を作っていく上で必要だと思いますし、街を一体的に運営していく立場だからこそできることもあると感じています。例えばデジタルアプリの活用などは有効だと考えていますが、実際にどのように仕組み化するかは悩んでいるところでもあります。(中氏)

質疑応答を終えると、福岡氏からグリーンインフラとエリアマネジメントに対する期待のメッセージが送られました。

「何度か触れさせていただきましたが、パークマネジメント側とエリアマネジメント側がどれだけ力を合わせられるかが重要だと思いますし、そこにはもちろん行政の協力も必要です。そのためのシナリオやネットワークのつくり方は無限にあるはずです。そのような関係性ができれば、気候変動やサステナビリティに関する課題にも向き合っていけるでしょう。そのためにも、今回のシンポジウムのような形で色々な組織や人が刺激を与え合う機会をもっと設けていければと思っています」(福岡氏)