「エリアマネジメントネットワークシンポジウム ㏌ 竹芝 〜地域経済の再興とエリアの力〜」開催レポート

9月25日(金)に東京ポートシティ竹芝でエリアマネジメントネットワークシンポジウムが開催されました。
コロナ禍により、都心のビジネス街から郊外の駅前商店街に至るまで、都市活動そのものに大きな変化が求められています。エリアマネジメント組織が経済の再生・再興、またその下支えとなることはできるのか? またそのためには何をすべきか? ウイズコロナ、アフターコロナの中でエリアマネジメント組織が果たすべき役割とその活動方法について議論が繰り広げられました。


インプットトーク①
先の見えないコロナ禍で実験区の試み

ゲストスピーカーである梅澤高明氏はA.T.カーニー日本法人会長、CIC JAPAN会長、ナイトタイムエコノミー推進協議会理事、クールジャパン機構社外取締役の4役を兼務。大企業のイノベーションとスタートアップの成長支援、ナイトタイムエコノミー、街づくり、観光まで、非常に幅広く活躍されています。
総論として「クリエイティブ・イノベーティブな街づくり」を、各論で「ナイトタイムエコノミー推進協議会の取り組み」について紹介していただきました。

コロナ禍で人々の暮らし方や価値観が大きく変わり、人々の関心は仕事だけでなく健康、食、趣味などに向けられ、柔軟な働き方が求められるようになりました。一方で、企業は本社機能を見直し、サテライトオフィスの活用やテレワークを進めていったことにより、郊外居住やマルチハビテーションが増加しています。梅澤氏は、今後、都心部の不動産の優勝劣敗が劇的に進み、東京など大都市の都市開発は今まさに転換を迫られていると分析しています。

「ニューノーマルが進む中、バックトゥノーマルの力も働き、解決点を見極めるには、まだ数カ月、あるいは1年かけて探っていかなければならない状況です。こういう時にこそ、どんどん実験ができる街づくりをしていくべきです」(梅澤氏)

梅澤氏の提案は、起業家、クリエイター、などの先端的な生活者が集まるような都心の実験区で異才・異能の人達が新しい実験を行い、それを起爆材として、東京の産業革新につなげるというもの。

また、クリエイティブ&イノベーティブなエリアづくりに必要な要件として、以下のような方向を示しました。
1. リアルとデジタルがもっと融合した都市
2. 空間と時間が滑らかに繋がる都市(職・住・遊が融合している都市、昼間と夜が境目なくつながっていく都市)
3. 豊かな風景を大切にした都市

日経ビジネスの特集記事は、「仮想空間創造師(VRクリエイター)」「サイボーグ技術者」などの新しい職種が増えると予想しています。このようなイノベーターたちが活躍するためには「ソフトウェア、ハードウェア、素材、ユースケースを持つ様々な産業が触発し合える場、さらに行政とも協働してルールメイキングを行える場が必要である」と梅澤氏は強調しました。

エリアの価値を高める新しい取り組み

2019年春に設立されたナイトタイムエコノミー推進協議会については、大きく3つの取り組みが紹介されました。
1つは、観光庁のナイトタイムエコノミー事業の選定とコーチング支援事業。2つ目は、夜間の文化的価値を定量的・定性的に調査する取り組みであるCreative Footprint(CFP)。3つ目は、ナイトタイムエコノミー関連産業に関するロビー活動。

コーチング支援事業では、募集選定した事業にコーチを派遣し、企画から運営オペレーションまでをサポートする取り組みを行っています。次年度以降も事業として自走できるように具体的なノウハウ作りを徹底して行うほか、「そのエリアの本質的な価値」を見出し磨き上げることが重要であると強調しました。

Creative Footprintの調査では、都市のナイトシーンは経済的、文化的、そして社会的な価値を生み出し、クリエイティブシティの発展に欠かせないことが強調されています。その一方で、エリアの魅力が高まると地価・賃料が高騰し、その結果、若いクリエイターなどがそのコミュニティで活動できなくなってしまう現象(ジェントリフィケーション)が問題視されています。ナイトタイムエコノミーを支えるクリエイティブ・コミュニティの価値を正しく理解し、都市に留まらせる策が必要です。
もう一つ重要な視点は、文化と観光の接続です。例えば台場の「teamLab Borderless」は、メディアアートを生かして日本らしい文化拠点を作り、海外のセレブやインフレンサーの影響力も活用しながら世界中の観光客を呼び込むことに成功しています。

「文化資源に対して積極的に投資しつつ、観光で回収するというアプローチは日本全体でもっと取り組むべきです。Creative Footprintの活動を通じて、文化・観光・都市開発のクラスタが緊密に協働することができれば、日本の都市のポテンシャルをもっと引き出せると感じました」(梅澤氏)

クリエイティブ、イノベーティブな街づくりへの提言

ナイトタイムエコノミー推進協議会での取り組みを踏まえて、梅澤氏は以下の提言を発表しました。

1. ステ-クホルダーの分野横断での協働
文化・観光・街づくりセクターの協働の促進、文化庁・観光庁・国交省など関連省庁間での政策の連携強化。

2. 街の中に「余白」を作る
ストリート・公開空地の活用に関する規制緩和、ポップアップ店舗の活用、小箱や実験的ベニューに対する政策的な賃料抑制など。

3.人材育成・人材交流の促進
クリエイティブな分野でのビジネス・プロデューサーの育成。新しい文化を生み出すための多様な人材の交流促進。

最後に、今後のエリアマネジメントへの期待を述べてインプットトークを締めくくりました。
「新規の再開発の余地が減少する中で、街づくりの重点は運営にシフトしています。私たちの立場からは、エリアマネジメントを見据えた開発の取り組みをお願いしたいと考えています。
クリエイティブ&イノベーティブなエリアの創生には、ビジョン、ステークホルダー横断のチーム、そして現場での活動を継続する軍資金が不可欠です。エリマネは本来、「独立採算事業」ではなく、街の価値を上げる「投資」のはずです。その点で、不動産会社や自治体の発想の転換を期待します」(梅澤氏)


インプットトーク②
期待されるエリマネ活動の知的創造、新機能

続いてのインプットトークでは、全国エリアマネジメントネットワーク会長小林重敬氏より「期待されるエリマネ活動の知的創造、新機能」をテーマに語っていただきました。

今後のエリマネ活動を考えるにあたり、全国エリアマネジメントネットワークでは、京都大学のエリマネ研究会の諸富徹教授を招いて、今年8月にオンラインでエリマネサロンを2回にわたり開催しました。その中で、諸富教授は「日本の製造業は、今後人的資本投資と組織構築をして、イノベーション、クリエイティブな要素を持ち込むべきである」と示しました。

「諸富先生のお話をエリマネの立場から考えると、ソフトとハードの両面でエリア環境整備をしていくことが必要で、大都市を中心に都心実験区の動きを加速していかなければなりません。大都市において大企業のイノベーション・クリエイティブについては、多くの工業地域で展開する試作工場、研究開発機能によって創り出してきました。しかし、これからは無形資産投資で地域を再生させるためにはどうするかと迫られています。それをエリアマネジメントサイドで解決するには、コミュニティグリーンとコミュニティクリエイティブが鍵となると考えています」(小林氏)

「コミュニティグリーン」とは、コミュニティに存在するグリーンを中心とする物的な構成要素であり、多様な人材が集まりイノベーションを起こすエリアが「コミュニティクリエイティブ」。
エリアのクリエイティブを高めていくためには、コミュニティグリーンの持続可能性を実現する仕組みと仕掛けの存在が必要不可欠であると小林氏は強調します。

具体的なエリアづくりとして、東京・大阪の大都市都心部での取り組みが紹介されました。
東京の大丸有地区では行政と共同し、仲通りをはじめ様々な工夫をして空間をつくりだし、多くの通りで緑づくりが進められています。同じく、コミュニティグリーン・コミュニティクリエイティブを取り入れた試みが、虎ノ門エリアや大阪梅北エリア、竹芝エリアで次々と実験的に取り組まれ、新たな出会いや活動を生み出す場となっていることが紹介されました。

様々な発想で利用できる空間が作られることによって、そこに勤務する人々や集う人々に新しい発想と気付きを与え、さらなるクリエイティブにつながっていくことに小林氏は期待を寄せました。


セッション①
エリアマネジメントとこれからの「知の交流・交易」

コロナ禍で様々な制限が必要とされる中、リアルな場での交流活動について都心部のエリアマネジメント団体の三者に語っていただきました。

<参加者>
■一般社団法人竹芝エリアマネジメント事務局長/東急不動産株式会社都市事業ユニット 都市事業本部スマートシティ推進室室長/田中敦典氏
■一般社団法人新虎通りエリアマネジメント/森ビル株式会社タウンマネジメント事業部
虎ノ門ヒルズエリア運営グループ/朝賀繁氏
■エコッツェリア協会事務局次長/三菱地所株式会社エリアマネジメント企画部マネージャー/田口真司氏

田中氏からは、竹芝エリマネのプラットホームの特徴と東京ポートシティ竹芝で開催されたイベントについて紹介がありました。
田中氏が所属する竹芝エリアマネジメントを含め、5つの組織が共同してプロジェクトの提案と運営を行っている竹芝のエリマネ。単一の組織でないからこそ、人の交流や知の交流がより活発となり、力強いプロジェクトの推進が可能となっている点を田中氏は強調しました。
東京ポートシティ竹芝で9月に開催された3日間の音楽ライブでは、単なるオンライン配信だけではなく、オンライン特有の映像技術を加え処理したスペシャル配信を提供し、3日間で約87万人が視聴。竹芝の魅力をオンラインイベントで日本だけでなく、世界へも伝えることに成功しました。
「無観客ライブのオンライン配信によって、会場への問い合わせも増えている状況です。リアルとオンラインを使い分けて両立できる取り組みがこれからは重要になってくると考えています」(田中氏)

朝賀氏からは、新たに掲げた新虎通りのエリアビジョンとその取り組みについての紹介がありました。
まず、虎ノ門が持っているニュートラルなビジネス街の土壌を活かすことを念頭に、地元の方々や企業とともにエリアビジョンを再考して来た経緯が語られました。そこで生まれたのが「グローバルな産官学の交流による、イノベーション創出を目的としたビジネスコミュニティを醸成していく」という大きな指針です。
取り組みとしては、虎ノ門ヒルズのビジネスタワー4階に大企業の新規事業部門を出島として集積し、さらにベンチャー企業も交わるコミュニティの土壌作りが進められています。
また、新虎通りCOREでは、英国の美術大学(RCA)と東京大学生産技術研究所の(IIS)のコラボによるデザインアカデミーが開設され、デザインで新たな産業を興そうという視点での教育が実施されています。
「新虎通りは、通りの沿道にまだまだ余白が多い。今後大きな開発と絡めながら、エリマネとしてどういった余白の利活用ができるかを検討していく予定です」(朝賀氏)

エコッツェリア協会の田口氏は、コロナ禍におけるオンラインのメリットとデメリットから、これからのエリマネの役割について言及しました。
オンラインが普及したことによって、発信者と受信者双方に時間と空間の制限がなくなり利便性が高まりましたが、同時に参加者同士の新たな関係性の構築が困難さを感じていると言います。利便性が高まったからこそ、面倒で時間のかかることの意味や意義が問われているのではないかと田口氏は強調しました。
その中で勇気付けられた体験として、運営しているイベントのオンラインでの取り組みを紹介。制限はあるものの、企画次第では「知の交流・交易」の可能性が大いにあることを示唆しました。
「エリアマネジメントの価値は、良質なコミュニティを持ち、また分野の異なるコミュニティ同士をどのようにつないでいくかにあると思います。エリアを物理的な場所と機能とに分けて考えると、機能の部分はオンラインに変わりつつあるので、物理的な場所としての特徴と機能の特徴を切り分けて明確化する。その上で街づくりをしていくことがこれからのエリマネに必要であると考えています」(田口氏)


セッション② 地域経済の再興に資するエリアマネジメントを展望する

このセッションでは、2年間活動を行ってきたエリアマネジメント負担金制度部会のメンバーが、新型コロナウイルスによって影響を受けたエリアマネジメントについて議論を行いました。

<参加者>
■エリアマネジメント負担金制度活用部会部会長/リージョン・ワークス合同会社代表社員/後藤太一氏
■三菱地所株式会社/谷川拓氏
■梅田地区エリアマネジメント実践連絡会/阪急阪神不動産株式会社/高田梓氏
■札幌駅前通まちづくり株式会社/内川亜紀氏(リモート参加)

まず、後藤氏から問題提起がありました。
エリマネ活動を投資としてステークホルダーに捉えてもらうために、マニフェスト的な事業計画と活動内容の報告が必要となることをベースに議論を深めてきたところ、コロナ禍によって長期的な見通しが立てられない状況になっている地域が多いこと。また、これから求められるエリマネ活動の推進において、組織の構成を柔軟に変え続けていく必要があるのではないかということが挙げられました。

財源の確保について、高田氏から梅田地区のエリマネの現状が語られました。
「私たちのエリマネ団体では、イベント開催費の一部は協賛金を頂戴していますが、今回のコロナ禍でも協賛してくださった企業が多数ありました。日頃から私たちの活動目的などがきちんと伝わるコミュニケーションを取り続けていたことが、今回の結果につながったと考えています。定量的な成果がこれまでは求められていましたが、定性的な観点も入れたSDGsの考え方が認められてきていることに救いを感じています」(高田氏)

公共空間の貸し出しなどで財源と人材の確保を行なっていた札幌の内川氏は、コロナによって顕在化した課題と、エリアの価値を高める現在の取り組みについて話していただきました。
「これまで公共空間の利活用に財源を頼っていたので厳しい面はありますが、ある意味事業を考え直すチャンスであると前向きに捉えています。また、10年間の活動を通してビジョンが明確となり、今年ガイドラインの策定に至りました。コロナで出てきた課題を価値に転換して、ガイドラインをもとにステークホルダーとの協議を重ねていきたいと考えています」(内川氏)

谷川氏からは、ステークホルダーとのコミュニケーションの課題が挙げられました。
「大丸有では1996年から、東京都と千代田区とJR東日本と一緒に大丸有まちづくり懇談会というテーブルを持っているので、基本的に大きな方針や方向性の共有はできていると思います。しかし、数年毎に人事異動があるなど、どうしてもまちづくり関係者全ての人たちにまで共有しきれていないこともあります。言葉での共有とともに、計画図など、他の方法での共有やコミュニケーション方法が確立される必要があると感じています」(谷川氏)

最後に、コーディネーターを務めた全国エリアマネジメントネットワーク事務局次長の長谷川隆三氏が、今後のエリマネの役割と展望を語りました。
「ビジネス開発に資するエリマネの『つなぐ役割』と、地域内外のステークホルダーを巻き込んで解像度の高い『ビジョンを描く役割』が、エリマネにとってさらに重要になってきています。データ分析に則った事業計画を年次で回していくことを、エリマネ団体としてスキルアップさせていきつつ、エリマネ組織の経営についても今後議論していく予定です」(長谷川氏)

今回、エリマネの本質的なあり方や役割についての認識があらためて示されたことで、コロナ禍による足元の対応だけでなく長期的な視点の重要性が共有されました。
また、リアルとオンラインでのシンポジウム開催となり、今後のエリマネ活動の可能性を広げる新たなスタートを象徴する会となりました。

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