【開催レポート_その1】全国エリアマネジメントシンポジウム2023 in 福岡 『これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える』

2023年9月4日、全国エリアマネジメントシンポジウム2023を福岡・天神にて開催しました。今回は「これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える」をテーマに、福岡を拠点にあらゆる分野で活躍されるステークホルダーの方に登壇いただき、議論を交わしていただきました。

文化・クリエイティブを切り口に二部構成で、多様なトピックが展開した3時間に渡る内容を、【開催レポート_その1】と【開催レポート_その2】に分けてレポートします。

 

冒頭にWe Love天神協議会事務局長の荒牧正道氏、国土交通省 都市局まちづくり推進課 官民連携推進室企画 専門官の乃口智栄氏より開会のご挨拶をいただきました。

We Love天神協議会 事務局長 荒牧正道氏

「コロナが5類に移行して、皆さんの活動も活発に動き始めていると思います。福岡市中心部では『天神ビッグバン』『博多コネクティッド』といった大規模開発の真っただ中にあり、街の新たな変化に向けて今は力を蓄える時期だと思って取り組んでいます。
今回のテーマである『文化・クリエイティブ』をどう街に実装させるかにつきましても、まさに今議論すべき重要なテーマです。やはり街に出て気づきを得たり、何か自分をアップデートするものに出会うことが街の魅力につながりますので、皆さまとともに考えをより深めたいと思っています」(荒牧氏)

国土交通省 都市局まちづくり推進課 官民連携推進室企画 専門官 乃口智栄氏

「国土交通省では8月に来年度の予算要求方針を発表しまして、都市局の取り組みとしてはグリーンや子育て支援のまちづくり、地方都市の再生を重点な柱として新たに掲げております。 本日のテーマである文化やクリエイティブは、地方都市の再生に欠かせない要素の一つですので、皆さんのご意見や議論を今後の施策検討に繋げていきたいと考えています。また、エリマネに関しては、 その活動や空間の評価を新しい指標で考えていく取り組みも行っておりますので、引き続き全国エリアマネジメントネットワークの皆さまとともに検討させていただきたく考えています」(乃口氏)

 

SESSION1:街の個性をつくりだす創造的・文化的アクティビティ
           【福岡で活動する多様な領域の方々によるクロストーク】

続いて、トークセッションへと移ります。第一部のセッションでは、「街の個性をつくりだす創造的・文化的アクティビティ」をテーマに、音楽やアート、工芸、福祉等、福岡で活動する多様な担い手の方々にお集まりいただき、その活動内容や福岡に対する課題感と可能性について語っていただきました。

最初にコーディネーターである、株式会社大央 代表取締役社長、福岡建築ファウンデーション 理事長の松岡恭子氏より投げかけがなされました。

株式会社大央 代表取締役社長、福岡建築ファウンデーション 理事長 松岡恭子氏

「先日久しぶりにニューヨークとシカゴへ行きまして、街の様相が非常に変わったと感じました。例えば、ニューヨーク市にあるハイラインは、廃虚だった高架鉄道が公園へと生まれ変わった場所ですが、公園を作ったことで人が訪れるようになり、周辺に高級コンドミニアムやオフィス、ミュージアムが集まってきています。一見経済的合理性の乏しい公園が、文化芸術の力を巻き込んでお金を生み出す場所になっているんです。文化的なものをどう街に根付かせるかという点は今後のエリマネにおいて非常に重要なテーマですので、皆さんの取り組みやお考えを伺ってヒントを得たいと思います」

続いて、各登壇者の方より現在の活動について紹介いただきました。

<登壇者>
深町健二郎氏|音楽プロデューサー、ミュージックマンス福岡 総合プロデューサー
中村弘峰氏|中村人形 四代目人形師
樋口龍二氏|NPO法人まる 代表理事、株式会社ふくしごと 取締役副社長
西高辻信宏氏|太宰府天満宮 宮司
ニック・サーズ氏|有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役

 

●深町健二郎氏|音楽プロデューサー、ミュージックマンス福岡 総合プロデューサー

音楽プロデューサーの深町健二郎氏は、福岡の5つの音楽イベントが集結した「Fukuoka Music Month」のプロデュースや福岡を日本・アジアを代表する音楽都市にすることを目標とした「福岡音楽都市協議会」の立ち上げなど、音楽を関連産業の振興だけでなく、観光や教育、まちづくりといった場面で活用する取り組みをされています。

そのきっかけには、9月の毎週末にさまざまな主催者が音楽のフェスを開催していたことにあると話します。

「さまざまな主催者がそれぞれに音楽イベントを開催しているのを見て、音楽というのはひとつの重要な福岡らしさだと気が付いたんです。福岡の人は祭り好きな気質もありますね。それで各イベントに横串しを刺してみたらこの福岡という都市が国内外に対して音楽都市としてPRできるんじゃないかと考えました」(深町氏)

そうして10年ほど前から『Fukuoka Music Month』として称して、5つの音楽イベントを集結させたものとして開催。活動を続ける中で、世界の多数ある音楽都市が一堂に集まるコンベンションである国際会議へ、福岡に参加オファーの声がかかるほどになりました。

「世界には名だたる音楽都市がありますが、まさに世界中では音楽がいろいろな場面で活用されていることを知りました。『福岡音楽都市協議会』を立ち上げたのはそれがきっかけで、福岡も音楽を活用したことができるんじゃないかと考えて取り組みを広げています」(深町氏)

 

●中村弘峰氏|中村人形 四代目人形師

中村弘峰氏は、博多人形を作る中村人形 四代目人形師として活動されています。事業は100年以上の歴史を持ち、福岡で7月に開催される伝統的なお祭り「博多祇園山笠」では、山車に乗せる人形の制作も手掛けています。代々受け継がれる仕事がベースにありながらも、伝統工芸をアートとしてどう未来に残すか、という想いがあるようです。

「これまで工芸作家にとって百貨店が主戦場で、まちづくりの中でも百貨店は主要な位置付けを持ってきたと思いますが、客足が減ってきていて、地方の百貨店なんかはだんだん潰れてしまったりと状況が変わってきています。そういった危機感もありつつ、SNSを通じてお客様から直接お問い合わせがあることも増え、百貨店だけでなくコマーシャルギャラリーでも展示をおこなったり今年から自分でもギャラリーを構えるようになりました。そうした背中を示すことで、他の工芸作家やアーティストの参考になればいいなっていう気持ちもあります」(中村氏)

 

●樋口龍二氏|NPO法人まる 代表理事、株式会社ふくしごと 取締役副社長

樋口龍二氏は、2007年に障害者支援施設を運営するNPO法人まるを設立し、その後「FACT(福岡県障がい者芸術文化活動支援センター)を立ち上げ、福岡を中心に障害のある人たちの表現を社会にアウトプットする企画運営や、表現活動をサポートする人材育成を各地で開催しています。

現在の活動に至った背景に、障害のある人たちと初めて出会った時になぜ施設の中だけに固まっているのだろうと疑問を抱いたことがあると話します。

「現在障害のある人は1,000万人近くいて、本来であれば皆さんと働いたり暮らしたり、 いろいろな場を共有するということがもっと身近にあるはずなんです。多様性という言葉がよく使われますが、彼らがいる社会を当たり前に作っていかなくていけない。分断を生んでいる社会の方に障害があると思って活動に取り組んでいます」(樋口氏)

そのために福祉の分野にとどまらずに他分野の方とともに繋がりながら、社会にアプローチすることが大事だと話します。

「我々は別に福祉を変えようとは思ってなくて、福岡という街を変えていきたいんです。行政の福祉課の方たちにも、障害者、高齢者、子育てなど範囲を限定するのではなく、社会全体を見据えた考え方で取り組んでもらうよう話しています。

弱い立場の人が暮らしやすい街は、僕らも暮らしやすい街だと思っているので、そういった社会を実現できるよう徐々に発展させたいと思っています」(樋口氏)

 

●西高辻信宏氏|太宰府天満宮 宮司

西高辻信宏氏は、太宰府天満宮の権宮司を務められており、現在124年ぶりの御本殿の大改修を進められている他、継承者不在の古民家のホテルへの改装、太宰府天満宮でのアートプログラムの開催等、長い歴史を積み重ねてきた街の拠点として幅広い取り組みを展開されています。

文化的な取り組みの始まりは、明治に入った頃に実施した『太宰府博覧会』に遡ります。当時神社のものはほぼ非公開だったところを一般に公開して知識を示すことを目的としたもので、世界で博覧会の潮流を受けて、日本でも初期に行われました。そうした取り組みを経て、文化が御祭神と非常に親和性が高く、まちづくりの中でも大事だという意識が歴代宮司に受け継がれているそうです。

「2006年から『太宰府天満宮アートプログラム』という現代アートのプロジェクトを行っており、アーティストの方のオリジナル作品を、境内の中に点在させて境内全体を博物館とするといったものです。作品とともに境内を広く歩いて楽しんでいただくような工夫を施しています。アートの非常にいいところは、国内外の多様な方と関わることができるということで、そうしたご縁をいただいた方と時間をかけて関係性を深め、共同作業をしながら日々取り組んでいます」(西高辻氏)

こうした境内を広く楽しんでもらう仕掛けを展開しながら、次の課題として神社を日常的に訪れる場所にするということがあるようです。

「すでにあるものの歴史を紐解いて、光の当て方を変えることによって、違う展示の仕方をするなど検討しています。今ある資源をどう継承してどのように活かすのか考えて、神社づくり、まちづくりに取り組む必要があると思っています」(西高辻氏)

 

●ニック・サーズ氏|有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役

ニック・サーズ氏は30年以上前に来日して福岡に住み始め、1998年にインターナショナルメディア「Fukuoka Now」を立ち上げ、2021年からライブ動画配信サービス「Kyushu Live」をスタートさせています。こうした発信は多言語で展開されており、メディアを通して福岡への移住者も引き寄せているようです。長く福岡を見てきたニック氏が考える福岡の魅力を語ってくださいました。

「福岡はスケールがそこまで大きくなく歩きやすいので、インバウンド旅行客にとっても快適な街です。また、音楽やアートが屋外空間に充実していて外にいるだけで楽しめることも特徴だと思います。再開発を通して期待している変化としては、建物の上層階や屋上にパブリックスペースができてほしいですね。上からの景色をみんなのものにするということは大事だと思います」(ニック氏)

屋外空間や景色をいかに誰もが楽しめるようにするか。こうした考えは、ニック氏が配信する動画コンテンツでも、ローカルな日常的風景が反響が大きいという点があるようです。今人々はどういったことに関心があり、何を求めているのか、エリマネに取り組む上でもそういった点を捉えることは重要になると投げかけました。

その後はフリーディスカッションへ。松岡氏からの投げかけを受けて、登壇者同士で議論を深め合います。

 

松岡 今日のお話を伺って改めて感じたことは、時間、場所、人の繋がりがエリマネの充実に繋がっていくのではということです。

時間というのは、この先も残るハードをどう使い続けるか、時間の蓄積の先に何があるのかを考えることがエリマネの目標のように思います。次に場所は、エリマネには必ず物理的な場所が必要になりますが、何かを行う場とはどうあるべきかを皆さんと考えたいです。最後に人の繋がりというのは、一過性のものではなく、人間一人一人の生活の中に溶け込むような、なだらかな動きみたいなものを作って人を繋ぐことが必要なんじゃないかということです。この3つをキーワードに皆さんのお話をもう少し伺いたいと思います。

 

深町 開発において公開空地を作ることが条件のようになっていますが、ただ作ってもどういった活用をするか前提にいないと機能しないので工夫が必要です。他方で、福岡には街を象徴するランドマークが意外となかったので、そこを逆手に取れるのではと考えています。

例えば、すでに音楽都市協議会の取り組みとして、市内7ヶ所程度をストリートライブができる場所を認定していますが、日本はどの街でも許可されている場所が少ないので、環境を作れば音楽都市としてのひとつの象徴になり得るかもしれません。

経済的合理性でまちづくりをするとやはりコモディティ化が起きてしまうので、その街の個性を大事にしようと思ったら文化しかないんです。文化でどれだけその街を表せるのかがポイントかと思います。

 

松岡 警察や自治体とうまく協働体制を作ることがまずは必要になりますが、その間に入る立場としてエリマネ団体の役割が重要になりそうですね。

樋口さんも行政や障害のある方を媒介する立場で活動されていらっしゃいますが、中間体としてのエリマネ団体に対する課題感や期待はございますか?

 

樋口 イベントや施設など、街で盛り上がっている場所はある一定数の行ける人だけで成り立っている傾向にあり、障害のある人も不自由なく楽しめることも考える必要があると思います。少数とされる障害のある人のニーズにまでリソースが回らないという課題もあると思いますが、行政が予算化して対応すればいいという話でもないんです。トップダウンで事務的に対応するのではなく、そうしたニーズに応えることが企業や団体にとってもメリットになっているべきで、そこを解決するアイデアが絶対あるはずなんです。

ただ、現状はやはり障害のある人との接点が乏しいので、そうした人がコミットしていける社会構造を、まずエリマネから働きかけていくべきではないでしょうか。時間はかかると思いますが、地域として取り組むべき課題だと思っています。

 

松岡 障害のある人も含めた日常のクオリティをどう作っていくか考えなければいけませんね。

西高辻さんは、太宰府天満宮である種エリマネ的な取り組みをすでにされていらっしゃいますがいかがでしょうか。

 

西高辻 日常や恒常的な話でいくと、太宰府天満宮では季節を非常に大事にしてまして、お祭りは多くありますが、歳時的なものが少ないんです。そこを新たに打ち出せると、非日常以外の魅力として伝わっていくのではないかと考えています。

また、文化を消費するのではなく、どう生み出すか考えることも重要なテーマにあると思います。その点において中村くんが提唱されていることはとても面白いですよね。

 

中村 ありがとうございます、福岡の「2時5時問題」ですね。これはつまり、福岡って2時から5時の間やることがないんです。県外から友人が遊びに来た際も、昼食と夜飲みにいく場所だけ決まっていて、その間に何をするか非常に悩むんですね。この課題は福岡の方は共感してくださると思いますが、解決方法を考えてみまして。自分がやっているお店やサービスを「ここでは◯◯分、時間を潰せます」と定義してみる、というものです。

例えば、「中村人形のギャラリーは15分、時間を潰せます」といった形で時間を設定して、非飲食系サービスで2時から5時の3時間を繋げる仕組みを作るんです。特に観光に来る人はできるだけ多くの場所を回りたいので、短めに時間を提示しておいて、「いざ回ったけど時間が足りなかったから次は2泊で来よう」と思ってもらうことも狙いです。

シンプルなアイデアですが、みんなで3時間を繋ぐということはいろいろな解決につながると思っています。

 

松岡 福岡には音楽やアート作品が街中にたくさんありますが、情報としてアーカイブされていないのでそこを充実させることは大事ですね。

 

中村 みんなで時間を繋ぐということで言うと、今まで街のプレイヤーとなる人たちのレイヤーが分野や世代で分かれ過ぎていて、全然混ざってなかったんですよね。そういった課題感もあり、かつてあった素晴らしい活動を当事者の方にお話しいただく「FACT/Fukuoka Art Culture Talk 」というトークイベントを実施したのですが、街で起きたことを蓄積することを目的に、トークの内容はすべて記録して誰でもアクセスできるようにしています。そうすることは、長い目で見たら後世にも残る街の財産になると思っています。

 

ニック 将来のためのことを考える場に、若い方を巻き込むことは大事ですね。今日も若い方が少ないですが、どういった人とともに考えていくかも重要な気がします。

 

松岡 そうですね。皆さんそれぞれ長く活動されて蓄積があるものの、意外と横が繋がっていないという驚きがありましたが、そこが一つの課題であると思いました。そこに対してエリマネは何ができるかというと、継続的かつ長期的に議論や計画する場を作ることなんじゃないでしょうか。年次の報告だけでなく、5年、10年の蓄積が何を生んだのかを振り返り、検証することも必要です。姿勢としては、今ここに石を積み上げつつ、なるべく遠くにも石を投げておく、ということが求められるのではないかと思います。

 

▷▷▷ 【開催レポート_その2】に続きます。

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