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2023年9月4日、全国エリアマネジメントシンポジウム2023を福岡・天神にて開催しました。今回は「これからの“まちなか”における文化・クリエイティビティを考える」をテーマに、福岡を拠点にあらゆる分野で活躍されるステークホルダーの方に登壇いただき、議論を交わしていただきました。

文化・クリエイティブを切り口に二部構成で、多様なトピックが展開した3時間に渡る【開催レポート_その2】です。

▷▷▷【開催レポート_その1】はこちら。

 

SESSION2:エリアマネジメントはどうする【エリアマネジメント団体の方々によるディスカッション】

続いての第二部では、第一部でのトークを踏まえて、街にあるさまざまな空間やコンテンツを扱うエリマネは、都市に多様な文化的・創造的アクティビティを展開していくために、どのような役割を担うべきか、文化芸術といった要素をどう受け止めていくべきかを考えていきます。

このセッションのコーディネーターを担当する東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授の出口敦氏は次のように切り出しました。

東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 出口敦氏

 

「シンポジウムに参加されている皆さんは普段エリマネの実務に携わられていて、さまざまな業務に追われていると思います。ただ、目の前のことに精一杯になっていると、何のためにまちづくりをしているのか俯瞰して考える時間がなかなかないのではないでしょうか。そういった点で、年に一度実務者が集まって原点に立ち返り、自分たちの取り組みの意味を考え直す機会は非常に重要だと思います。ここからはまさにエリマネの役割について議論を深めていきますので、皆さんのお考えにも繋がっていければと思います」(出口氏)

第二部でも、まずは各登壇者の方より現在の活動をご紹介いただきました。

<登壇者>
須賀大介氏|福岡移住計画 代表
三好剛平氏|三声舎 代表
内野豊臣氏|博多まちづくり推進協議会
兼子慎一郎氏|博多まちづくり推進協議会
荒牧正道氏|We Love天神協議会
黒川文香氏|We Love天神協議会
吉田宏幸氏|福岡市経済観光文化局

●須賀大介氏|福岡移住計画 代表

須賀大介氏は、福岡移住サポートプロジェクトである「福岡移住計画」を立ち上げて、移住者のサポートやコミュニティ情報の発信を行っています。

「福岡移住計画では、居場所、食べていくための仕事、理想的な住まいの『居食住』に関する情報を提供し、移住者の暮らしを広くサポートする活動を行っています。元々は東京で起業していたのですが、3.11の震災後に生きる場所を改めて考えるようになり、10年前に福岡に移りました。福岡の空気感や人の優しさに魅力を感じ、ゆかりのないまま飛び込んだのですが、地域の方に非常に支えいただいて今に至っています」(須賀氏)

その他にも、コワーキングスペースや宿泊施設といった場の運営を広く手掛けられています。

「自分自身、プレイヤー同士が繋がる場を作っていますが、その重要性を今日改めて感じました。やはり近いところで活動していてもまだまだ繋がれていないですし、まちづくりに関わる人たちが集まるような場がないことに気づかされ、これは一つの課題と言えるかもしれません」(須賀氏)

 

●三好剛平氏|三声舎 代表

三好剛平氏は、福岡を拠点に文化芸術にかかわるプロジェクトの企画・制作を手掛けられており、アジアの映画上映・交流プロジェクト『Asian Film Joint』の主宰や九州のアート・カルチャーシーンを発信するラジオ番組への出演など幅広く活動されています。

活動のきっかけとなったのが、2010年から5年間開催された『まちなかアートギャラリー福岡』というアートプロジェクトです。福岡市とも主催側として、アーティストと関係を深めながら、アートを街に根付かせるようと奔走していたものの、最終的には予算がストップしたことで時間をかけて育ててきたものを終えなければならないことがあったそうです。

「先程のセッションにもあったように、アーカイブ化や活動を蓄積することを強く意識するようになったきっかけでもありました」と話します。

そうした経験から、福岡市が30年間実施していた『アジアフォーカス・福岡国際映画祭』の終了を受けて、その後継となるプロジェクトとして『Asian Film Joint』を助成金を集めて2021年に立ち上げ、福岡に蓄積されてきたアジアの映画監督たちとのネットワークを、財産として引き続き活かしていくために取り組まれています。

「地域にすでにあるものにもう一度血を送り直すことで、いくらでも活用のしようがありますし、そうした活動はその街や人が積み重ねてきた文化に対する自分たちなりの回答であり、未来に繋いでいくことだと思っています」(三好氏)

 

●内野豊臣氏・兼子慎一郎氏|博多まちづくり推進協議会
博多まちづくり推進協議会 事務局長 内野 豊臣 氏
博多まちづくり推進協議会 兼子 慎一郎氏

博多まちづくり推進協議会は、博多駅を中心に近隣の企業や学校、行政など180団体によって組織されています。これまでのセッションを受けて、博多まちづくり推進協議会の内野氏、兼子氏からそれぞれコメントをいただきました。

「福岡市内でもWe Love天神協議会と博多まちづくり推進協議会の二つのエリマネ団体があります。博多のエリマネというのは、1km程度の範囲で取り組んでいるんです。福岡という広いエリアではなく、敢えて博多と天神といった狭いエリアを対象にしてお互い活動してるということが、街の個性を失わないことに繋がっているのではと思います」(内野氏)

「エリマネの役割は建物に血を流し込むことが大事なのではと考えています。ただ、協議会の事務局スタッフも人数が限られているため、自分たちですべて主催すると考えるのではなく、恒常的にやるためにはさまざまな分野のプレイヤーの方と連携を取って進めていくべきだと改めて思いました」(兼子氏)

 

●荒牧正道氏・黒川文香氏|We Love天神協議会
We Love天神協議会 事務局長 荒牧 正道氏
We Love天神協議会 黒川 文香氏

We Love天神協議会は、134の会員とともに天神の価値向上や来街促進を目的に活動しています。We Love天神協議会の荒牧氏、黒川氏からコメントいただきました。

「協議会の会員さまと毎月天神の将来について議論を行っておりまして、その中で、多様な方々と連動しながら街の課題解決に挑んでいき、新たな価値を生み出していくことがこの街の魅力を引き出す上で重要なことだと話し合っています。そうしたことを積み上げて、世界にも届くような福岡の魅力を引き出していきたいと思っています」(荒牧氏)

「エリマネはイベント関連の取り組みが印象として強いですが、交通施策や防災など本当に多様な分野を包括しています。やはりエリアを豊かにするためには、さまざまな人にとって恒常的に楽しめるものであるべきですので、長期かつ広域を見据えて天神がどうあるべきかをじっくり考えながら一つ一つ物事を進めていきたいと思っています」(黒川氏)

 

●吉田宏幸氏|福岡市経済観光文化局

最後に福岡市経済観光文化局の吉田宏幸氏より、全体を受けての感想をいただきました。

「コロナを経て、観光はすでに以前の状態に回復していますが、文化芸術活動は8割程度に留まっています。やはりコロナ禍で文化芸術に触れられなかった層や、あるいはそうした場所に行く機会を失われたまま習慣が戻らないような人たちがいるんじゃないかと考えています。そうした状況を踏まえると、新しい層へアプローチやインバウンドなど観光施策の中に文化的要素を取り込んで、コロナ禍以前を超えるくらいの状況を目指していかなければならないのではと思っています」(吉田氏)

続いてフリーディスカッションへ移ります。文化芸術に関わる立場としてエリマネに求めること、どういった姿勢で取り組むべきか議論が交わされました。

 

出口 コロナ禍の3年間の影響は大きかったと思いますが、その後にエリマネがやるべきことはさまざまあると思います。三好さんにお伺いしたいのですが、文化芸術に関わる取り組みをされる立場としてエリマネに求めることはありますか?

 

三好 文化芸術にまつわるプレイヤーの方、エリマネ団体の方それぞれとお話ししていると、共通テーマとして持っているはずの「文化」に対する解像度が結構違うなと感じます。

エリマネの議論において、「文化をまちづくりに活用する」といった表現を耳にすることがありますが、アーティストは無償だとしても、自分たちが納得する作品を届けたいと一番に考えているんですね。そういった大事にしているものへの理解が必要ですし、ちゃんと理解できるまでとことん付き合って、一緒に汗をかくということをしないといけないんです。

彼らが育ててきた文化を表面だけさらって利用してもやはり持続性がないですし、こうした姿勢が非常に重要だと思います。

 

出口 アートを消費の対象として捉えてはいけないということですね。街は基本的にものを買ったり食事をしたり消費をする場所ですが、その対象の一つとしてアートも捉えてしまうと、次に繋がっていきません。好循環を生み出していくためには、アートを育てていくという意識を持つ必要がありますね。

須賀さんはいかがでしょうか。

 

須賀 私はHOOD天神というコミュニティスペースも運営しておりまして、移住者同士が繋がり、さまざまな活動が生み出される場所になっています。福岡にゆかりがない人も一歩入り込める、街の余白みたいなものを提供させてもらっているのかなと思います。

先程のセッションでも話にありましたが、多様な世代や分野の人が混ざる場が必要だと思うので、エリマネに関わる皆さんにはそういった視点で場を作っていただけるといいのではと思います。

 

出口 人が集まり交流する場としての街の屋外空間や公共空間の意義はコロナ以降で変わってきたと思います。コロナ前までは賑わいづくりを盛んにやっていましたが、そうしたことができなくなり、屋外でくつろぎを提供することが重視されるようになりましたね。同時に、オンライン化が進んだことでリアル空間の価値が問われるようにもなりました。

そうした現状を踏まえて、エリマネ団体の方々は現在どういった取り組みをされているのでしょうか。

 

兼子 道路や公開空地の利活用が、コロナ以降に制度含めて変わってきています。例えばコロナによって喫煙所が閉鎖になり公園での喫煙者が増えたのですが、子どもが遊べなくなってしまったことを受けて、仮設喫煙所を設置して本来の緑のスペースを取り戻す社会実験を実施しました。実験のため現在は元の状態に戻ってしまったのですが、今後Park-PFIが採択される予定でして、事業者の方と常設の喫煙所の設置や文化的な役割についても検討していきたいと思っています。

 

出口 We Love 天神協議会さんはどうでしょうか。

 

荒牧 天神には広場がたくさんあるので、先程のセッションにあったような2時5時の間を潰せるものが日常的に展開されているといいのではと思いました。また、天神は地下ネットワークが発達していますので、地下空間のあり方についても有効に活用していきたいと考えています。

 

出口 日常的な場面も含めて、2時5時の間をどう過ごせるかをしっかり編集してアーカイブすることは、観光客にとって有益なだけでなく、地域の人が街の個性を認識することに繋がると感じます。そういったことを主導することこそ、エリマネ団体の役割ではないのでしょうか。

今日エリマネの役割がいろいろと出てきましたが、文化芸術に寄与していくためにはどういったことを心掛けていけば良いでしょうか。

 

三好 街一体でみんなが同じ目標を持って達成に向かうと考えるのではなく、数十〜数百人の多様なコミュニティそれぞれが、いいねと思える状態を集積していくことが理想的だと思います。まずは見渡せる範囲の人たちを楽しませるにはどうしたらいいのか、これからそういったことが問われるんじゃないでしょうか。

2時5時問題も、人それぞれの感性や価値観に合わせて情報を提供できるよう解像度を高められると、さまざまな分野に寄与するものになると思います。やはり小さなことを積み上げていくことが大事ですよね。

 

出口 集団として平均化された楽しさを追求することも重要ですが、やはり多様な一人一人が参加して楽しんでもらい個人のQOLを高めていくことも重要だと思います。エリマネ団体の方には、定性的なものでもいいので、一人一人のQOLを高めるような評価にもっと目を向けてもいいかもしれません。

 

須賀 価値観の多様化でいくと、クリエイターがどこの街で創造性を発揮したいと思うかという視点も大事です。そこでやる意義を見出してもらえるよう、街の文脈や強みをどう編集して見せていくのかをエリマネの方や各プレイヤーがともに考えながら、場を生み出すことが重要だと思います。

また、場を運営して持続させることも非常に難しいところですので、我々が連携しながら持続させる仕組みを提供させていただきたいなと思いました。

 

出口 エリマネ団体の皆さんはいかがでしょうか。

 

内野 まずは皆さんが活躍できて、多様な方が繋がれる場を作ることとが重要だと思いました。あとは街の魅力に気づいてもらうきっかけ作りも我々の役割ですね。地域の人も見落としているような魅力をエリマネがしっかり掬い上げて、発信していくことを考えていきたいです。

 

吉田 The New York Timesが発表している2025年に世界で訪れるべき都市に、日本では盛岡市と福岡市が選ばれました。今年世界水泳選手権が開催され、実際にそのような状況になってきているように感じます。

そうした中で、短期的ですがまずは2025年に向けて、文化振興をどう図っていくか考えるべき時期なのではないでしょうか。2025年には新しい文化施設ができ、その後も福岡市が発展を遂げてきたものがまた新たに生まれ変わるタイミングが次々とやってきます。そういった動きと足並みを揃えて、皆さんと文化芸術を進めていくことができればと考えています。

 

出口 エリマネの役割は、時間と場と人の繋がりを提供することだと松岡さんがおっしゃっていましたが、「時間」というものが非常に印象深いキーワードだと思いました。

都市開発は空間をつくり出すことと言えますが、公開空地をつくり出したからといって、必ずしも刺激的な時間を提供することまではできません。空間を提供して、空間をマネジメントして、さらに刺激的な時間を提供していく、ということがコロナ以降のエリマネの役割ではないかと思います。ビジネスや産業ではなく文化的なもののパワーによって、知性や心に訴えかけるような時間をどうつくり出すかを考えるべきではないでしょうか。

今日ご登壇いただいた二つの協議会は、駐輪場の問題や交通渋滞といった地域の課題解決を使命として始まりましたが、現在のエリマネの役割は課題解決から、街の価値を問う価値創造が求められる時代になってきていると思います。そういった気概を持って今後取り組んでいただければと思います。

 

最後に、本会副会長である一般社団法人大手町丸の有楽町地区まちづくり協議会事務局長 金城敦彦氏より閉会のご挨拶がありました。

「この団体名にもあるネットワークという言葉は、各地のまちづくり団体だけでなく、社会を作るような文化活動をされている方々とのネットワークもしっかり築いていかなければならないと改めて感じました。今日さまざまな分野で活動される方々のリアルなお話を伺って、エリマネを担う立場としてはやはり現場の声や営みを大切にして、引き続き皆さんと支え合いながらまちづくりに取り組んでいきたいと思っています」(金城氏)

全国エリアマネジメントネットワーク副会長/一般社団法人大手町丸の有楽町地区まちづくり協議会事務局長  金城 敦彦氏

新型コロナウィルスによって2020年の夏のイベントは中止を余儀なくされました。開催を心待ちにしてくださっていた皆様をはじめ、準備をされていたエリマネ団体の皆様にとっても、視覚的な楽しさの共有、思い出の一助となればと思い作成したムービーです。