Day

8月 30, 2024

2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた【開催レポート_その3】です。

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その1】はこちら。

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その2】はこちら。

 

SESSION2:エリアマネジメントに係わる私たち 
                    〜エリアマネジメントに携わる若手メンバーと中堅メンバーの対話によって〜

続いてのセッションでは、エリマネに携わる若手メンバーと中堅メンバーの対話によってエリマネそして、それに係わる人々について考えていきました。全国エリアマネジメントネットワークの若手実務者会議「AMU35」のメンバーから、日々の取り組みの中で感じる課題や悩みを投げかけ、中堅メンバーがメンターとしてそれに答える形で対話をしていきます。

<登壇者>

【メンター】
内川亜紀氏|札幌駅前通まちづくり株式会社 代表取締役
園田聡氏|有限会社ハートビートプラン 代表取締役(共同)

【AMU35メンバー】
金井れもん氏|(公財)中国地域創造研究センター/広島駅周辺地区まちづくり協議会
川島あさひ氏|東京建物株式会社
高山円香氏|三菱地所株式会社/大丸有エリアマネジメント協会
浅野進氏|安田不動産株式会社

【モデレーター(AMU35発起人)】
山中佑太氏|NTTアーバンソリューションズ株式会社
内野洋介氏|(一社)二子玉川エリアマネジメンツ/東急株式会社

 

AMU35メンバー
(左上:川島あさひ氏 / 右上:浅野進氏 / 左下:金井れもん氏 / 右下:高山円香氏)

 

Q.現場対応や関係者調整など目の前の業務に追われ、エリマネの上流にあるビジョンと現場の取り組みとの距離を感じながらも、丁寧に振り返る時間がありません。また、アウトプットの機会が少なく、若手の頃はどういった行動をして視野を広げればよいでしょうか?

内川 若手ではなくなった今でも目の前の業務に追われていますが、私の場合は少し割り切っていて、イベントなどの現場業務は一番自分たちが考えていることを表現する場だと捉えています。イベントは「手段」なので、手段とビジョンがなるべく近づくように心がけていますね。振り返りも、資料をまとめて関係者を集めてしっかり時間を取ろうとすると大変ですが、実は雑談の中で振り返っていることが結構多いので、そういったことでも大切にするようにしています。
若手の頃の情報収集については、全国エリマネの事務局の方と仲良くなって、とにかくなんでも話を聞いてました(笑) 私の頃はエリマネ女子会という活動があったので、そこで他のエリマネ団体の先輩方と仲良くしていただいて、皆さんの話の中から課題の糸口を見つけるようにしていましたね。今でも様々なプログラムがあるのでそういった場に参加するといいかもしれません。

メンターの内川亜紀氏

 

園田 私はコンサルの立場なので、ビジョンと実際の取り組みがいかに結びついているかを言語化することが大きな役割ですが、若い頃は言語化しようにもスキルも経験も乏しかったので、現場にいる方の話をたくさん聞いて、その想いを自分なりに言語化するようにしていました。中でも一番よく聞きに行っていたのは飲食店の方の話。飲食店は、地域の経営者の中でも非常に高いリスクを背負っていて、自分の業態や出店理由にしっかりロジックを持ってらっしゃるので、街の声として非常に学ぶことが多いんです。
そういう方々がどういうビジョンやポリシーを持っているのか、自分たちが実施したイベントは何か寄与できていたのか、別の席で食べているお客さんが関心を持ってもらえる内容になってたかなんかを考えて。正しいかどうかはわかりませんし、お店のことは自分で調べてこいと怒られることもありましたが(笑) でも自分たちの視野も広くなりますし、すごくしっくりくるお話が多かったと思いますね。

 

Q.エリマネの取り組みはKPI設定や効果測定が難しく、どういった指標で測るべきか悩んでいます。また、エリマネの一環として行っている清掃活動には多くの方が参加してくださる一方で、そこからの展開に繋げられない状態が続いています。ステークホルダーが非常に多い中で、新しい取り組みに巻き込んでいくにはどうしたらよいでしょうか。

園田 コンサルの立場で言うと、自分が好きで素敵だと思うことに取り組めばいいと思います。コンサルという存在は当事者の方からすると、お金もらってあるべき論を言っているだけと思われがちで、なかなか話を聞いてもらえないんです。なので、地域のこの人が言っていること、考えていることの中で、自分が心から素晴らしいと思えるものに対して、どうやったら実現できるか考えるようにしています。
地域には多くの企業がいるので一社一社すべてが合意して、全員がメリットが感じられることをやるというのはそもそも無理があるんです。それだったら、明確にやりたいことがある一社に絞って、今回はこの企業のテーマで皆さんでできることをやってみませんかと動くようにしています。この時に、お金を募るだけではなく、それぞれが持っている本業のリソースを共有してほしいとお話しすることも大事です。デザイン系の会社だったら制作物を協力してもらえないかとか、学校があれば学生に関わってもらうことができないかとか。一社ではできないことも、地域全体で力を合わせることでこんなことまでできるんだとわかってもらえれば、次に繋がっていくんですよね。
各社がどういったことにメリットを感じているかは、僕らではわからないことがたくさんあるので、話を聞いて何を求められているのかちゃんと理解して蓄積していくと、新しい活動に活かせるようになると思います。

メンターの園田聡氏

 

内川 清掃活動は参加してくれるだけで嬉しいと思った方がきっといいですよね。仲間がこれだけいるんだとお互いに知ることができますし、顔がわかるだけでも何かに繋がるんじゃないかと考えています。
KPIは誰もが難しいと感じていることかもしれませんが、私たちの場合は常にビジョンやミッションと照らし合わせて活動がちゃんとそれに伴っているかを確認しています。

園田 KPIや効果については、一つの取り組みを見た時に、どう多面的な価値を見出せるかといった見方をすることが大事だと思いますね。
例えば、ある街の駅前に中高生が多く集まる広場をつくった際に、周辺のステークホルダーの方にこの場所にどういった価値を感じるかヒアリングしたんです。その中で20代向けのショッピングセンターのテナントさんが、「広場に集まる中高生は、今はうちで買い物はしないけれど、3〜4年すればメインターゲット層になるので、この場所に親しみを持ってくれれば今後お客さんになってくれるかもしれない」という話をされて、そういう考え方もあるのかと思ったんです。つまり、店舗の経営判断として直近の顧客獲得に繋がらないことには投資できないけれど、公共なら将来的な人の流れを想像して投資できる。街で過ごす習慣をエリマネ側でつくっていくことは、ある種数年後に対する顧客創造の投資にも繋がるので、新しいマーケットをつくるという説明もできるんです。そうやって、絶対的な正解というよりあらゆる見方で価値を見つけていくことが大事だと思いますね。

内川 ヒアリングに行くと、事務局の言ってることって難しくてわかんないのよと言われることが結構ありますよね。やっぱり人それぞれの理解の度合いは異なるので、自分たちがやりたいこともあるけれど、相手の目線で話を聞くということはずっと大切にしていることかもしれません。

 

Q.エリマネは板挟みになる苦しみや収益性の悩みなど、逆風も多く負けそうになる時もあり、日々のモチベーションに波が生じます。そういった時はどうしていますか?

園田 僕の場合は最初の質問にもあった、その街の飲食店に話を聞きに行きますね。エリマネはステークホルダーが多く、それぞれのメリットになっているのか収益性があるのかといった話によくなるんですけど、「誰のメリットにもなってないことをやってる」と思ってしまうと、そもそも仕事として意味があるのかというところまで考えてしまいます。そういった時に、自分たちの活動を最初に手を挙げて一緒にやってくれた人を思い出して会いに行くんです。自分たちがやってることをわかってくれている存在は安心しますし、街の人の顔を見ることで、誰のためにやっているのかを再確認していますね。

エリマネの取り組みはそれぞれの地域で異なりますが、志を同じくする立場の悩みは共通するもの。現場に立つ実務者同士、具体的なアドバイスは若手メンバーにとっても多くのヒントとなったようです。
対話の後には、メンターのお二人から若手メンバーに向けてコメントをいただきました。

「今エリマネに取り組まれてる方の中でも、『エリマネ』という言葉をあまり知らずに、会社に配属されて関わるようになった方は多いと思います。ですが、私も全く知らないところからここまでやって来ているので、すごく専門性が必要なのかというとそれだけではありません。皆さん立場も違いますし、やっていることも全員バラバラなので、違いを楽しみながら業務に携われたらいいんじゃないかなと思っています」(内川氏)

「先輩方の研究や取り組みによって日本なりのロジックや手法が整理され、その功績の上に僕らはエリマネ活動をすることができています。一方で、これからのことは今の現場に一番ヒントや可能性があると思っていて、新しいことに取り組むと今までのロジックでは解けない課題が出てきますが、それが解けた時にまた次のステージに進めると思うんです。そういう意味では、僕らは先輩たちがやってきたことに貢献しながらさらに発展できるよう、今日のように現場で感じていることを共有し、研究し、何か形に定着させていかなければなりません。世代ごとで積み重ねていくことを大事にしながら、自らも新しいフィールドに行けるようにどんどん現場で活躍してほしいなと思います」(園田氏)

最後に、本会会長である出口敦氏から閉会の挨拶がありました。

「今日の一番のキーワードは『悩む』だと思っていまして、各セッションの中でも非常によく出てきた言葉ですが、やはり皆さんで悩む場がこの全国エリアマネジメントネットワークであり、悩みを議論する中から答えを導き出そうとすることがこの組織の一つのあり方だと思っています。時代と共に悩みが尽きることはないと思いますが、今後も活発な活動を通じて、日本のエリマネを広めていきたいと思っています」(出口氏)

全国エリアマネジメントネットワーク会長 出口敦氏

2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた【開催レポート_その2】です。

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その1】はこちら。

 

●クロストーク

プレゼンテーションの後は、全国エリアマネジメントネットワーク幹事・森ビル株式会社の中裕樹氏、全国エリアマネジメントネットワーク副会長・リージョンワークス合同会社の後藤太一氏も加わり、3名でクロストークを行いました。

最初に、モデレーターである後藤氏からインプットと投げかけがなされました。

全国エリアマネジメントネットワーク副会長/リージョンワークス合同会社 後藤太一氏

 

「エリマネの役割を見直す前に、エリマネそのものの解像度をもっと上げて議論した方がいいと思っています。というのも、海外ではエリアマネジメントではなく『Urban Place Management』という言葉で表現していて、細かく定義もされているんです。まず、エリアではなく『プレイス』という言葉になっていますが、具体的にいうと『共有された文脈や関係性のある人々が生活する舞台』。つまり、施設や空間だけではなく、人の活動や人と人の関わりを扱っているということが大きな考え方です。もう一つ『マネジメント』というのは、日本のエリマネでは建物がつくられた後にどう使いこなすかという管理・運営を指すことが多いですが、海外の定義では計画、リーダシップの発揮、コミュニケーションとマーケティング、経済開発、制作提案などを包括して行うことをマネジメントの内容としています。
世界ではこういった考え方があり、定義化されている中で、日本のエリマネは現状何をしていて、今後どうあるべきか。そういったところに一歩踏み込んで議論できればと思います」(後藤)

 

「エリアマネジメント」という言葉が誕生して20年。さまざまな研究や取り組みを経て、そのあり方や意味を確立してきました。次第に日本の各地で取り入れられるようになり、エリマネはさらに発展を続けています。そうした現状を改めて会場の皆さんと共有した上で、次に何を考え、取り組むべきなのか、クロストークにより議論を深めていきました。

後藤 飯田さんのプレゼンテーションでは、「第三の自分」や「経験への開放性」など、エリマネの役割としてこれまで求められてきた経済発展以外にももっと大事なものがあるんじゃないかと感じました。

飯田 今世界中でまちづくりに取り組む人は、経済よりも人の幸せに重きを置いているように感じています。もちろん経済開発によって街が活性化することも大事ですが、そこだけを追求すると取り残されてしまうことがあまりに多いのも事実です。経済だけを優先してきた社会からの脱却する取り組みとして、インフォーマル・パブリック・ライフがあるんじゃないかと思います。

後藤 カフェの例もありましたが、インフォーマル・パブリック・ライフ的な場というのはどういったものがあり得るでしょうか。

飯田 お金を持っていなくてもいられることがポイントで、商店街や骨董市なんかはお金を持っていなくてもそこに佇んだり回遊するだけでも許されますよね。 ただいてもいいし、買いたかったら買ってもいいというぐらいの状態が、一番インフォーマル・パブリック・ライフとしてうまくいくと思います。
デザイン的なことで言うと、まず誰でも訪れることができて、カフェで過ごしてもいいし、ベンチに座ってもいいし、芝生で休んでも大丈夫という、そういった自由にいられるしつらえになってることが一番理想です。骨董市に行っても何にも買わないでなんか見てるだけの人もたくさんいるように、そういう緩やかさが大事だと思うんです。

後藤 森ビルさんが手がけるヒルズも、何も買わなくても回遊できるような設計をされていますよね。

  そうですね。居住者の方も多くいらっしゃいますし、日常的に居られるような場を考えています。最近では住宅地でもエリマネの取り組みが始まっていて、飯田さんのご経験のように住宅地にあるさまざまな課題に対して住民同士が協力してエリアの価値を上げていこうとしています。そうした中で、我々の立場として地域の方と協力できる可能性はあるのでしょうか。

全国エリアマネジメントネットワーク幹事/森ビル株式会社 中裕樹氏

 

飯田 ここは自分がいてもいい場所なんだ、と思える場をデザインすることが大事だと思います。東京には新しい施設が次々とできており、広場は美しく、座るところも十分に整えられているけれど、自分が場違いに思えてしまうこともあります。この「場違い」の対極には「歓迎」があって、例えばカルディは非常に成功を収めていますが、それはやはり入口でコーヒーをもらえることが嬉しいからだと思うんです。自分がいても大丈夫なんだ、許される場なんだと感じ取る力を人は敏感に持っていると思うので、その点を意識すると地域の人との関わりもすごく変わるんじゃないかと思いますね。

  ありがとうございます。もう一点、クリエイティブクラスの開放性を上げていくことが、その場の質を高めていくという話がありました。確かにエリマネとしてもその可能性を感じていざやろうと思うと、もっと刺激的なイベントをやろうだとか、アートプロジェクトをやろうといった既視感のある企画に落ち着いてしまいます。おそらくアプローチは多様にあると思いますが、取り組む上でどういったことが重要になるでしょうか。

飯田 まず、「インフォーマル・パブリック・ライフはイベントではない」ということを前提に持っていただきたいと思います。日本は季節の行事を大事にしてきた歴史があるので、それをしなければいけない意識が強くありますが、イタリアやフランスの広場ではそこまでイベントは行われておらず、基本は日常的に佇める場なんです。インフォーマル・パブリック・ライフは日常の中のちょっとした非日常を感じる場となっていて、週に3〜4回行く人もいます。しかし、イベントをやっているとその分座れる場所や滞在できる空間がなくなるので、日常的に訪れている人やイベントと関係がないと感じる人を排除することになりかねません。特に日本の広場はそういう側面が強く、イベントをやっていない時は人は端っこを通り、空白地帯になってがらんとしてしまう。そうではなくて、日常的に人が佇める場をつくることが大切だと思いますね。

後藤 過ごし方が選べる状態にあるといいですよね。例えば自分の場合だと昔は居心地が良かった渋谷のセンター街が最近行きづらくなっているんですけど、それは人の変化もあるわけで。やっぱりいろんなものがある程度あるかどうか、全てを揃える必要はないけれど、この街には何が必要かを考え続けないといけないと思います。

飯田 すべての解決策はイベントではなく、そこでゆったりと時を過ごせる場のセッティングをすることだと考えていくといいのではないかと思いますね。日常の中で気軽に外で過ごせる場所というのは、求められてるのに全然ないんです。設計した後にそうした場をつくることは難しいと思われるかもしれませんが、キッチンカーとビストロチェアを何個か出してみるだけでも雰囲気は非常に変わります。そういったできるところからでも試すのもよいかもしれません。

飯田美樹氏

 

  できることからやる時にも、やはり一社ではできないことが多いので、他社の物件や地域の方と一緒に取り組んで、エリア全体の価値を上げていくという意識が重要ですね。
もう一つ、今日の飯田さんのお話を聞いて強く感じたのは、人に対して高い解像度を持って見ていくことです。エリマネでは「人中心」という考え方は以前から言われていることですが、「人」についてもっと具体的に突き詰めるべきだと改めて感じました。

飯田 街やそこにいる人を観察する際には「関係の解像度」を見るといいかもしれません。関係というのは、何かに触れられるとか、匂いがするとか、お店の奥から店員さんが声をかけてくれるといった関係性が生まれる予感のようなものです。自分がいてもいいんだと思える温かみがあるかないかを見ていくと、今後のエリマネにも何かヒントになると思います。

後藤 都市というものはいろんな人の場所であるということが前提にあって、その中でどのように人の活動や交流を促していくか考えるべきだということですね。
やるべきことは時代とともに非常に変わり続けていますが、今日得たヒントをそれぞれの街に応じてカスタマイズしていっていただきたいと思います。

 

 ▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その3】はこちら。

2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた内容を3回に分けてレポートします。

 

冒頭に、国土交通省 都市局まちづくり推進課長 須藤明彦氏より開会のご挨拶をいただきました。

国土交通省 都市局まちづくり推進課長 須藤明彦氏

「国土交通省では、官民が持つ空間をパブリックな場所として街に開き、 イノベーションの創出や人々のウェルビーイングを実現するまちづくりに向けた政策を推進しているところです。そのためには、ハードの整備だけではなく、多様な関係者間でのビジョンの共有、連携体制の構築、 官民連携のさらなる強化といったことが重要です。その中で、エリアマネジメントの取り組みはますます欠かすことができないものとなりますので、今後の都市再生政策の要にもなるエリアマネジメントのあり方について、皆さまからのご意見もいただきたく考えております」(須藤氏)

 

SESSION1:インフォーマル・パブリック・ライフから考えるエリアマネジメント

最初のセッションテーマは、「インフォーマル・パブリック・ライフから考えるエリアマネジメント」。『インフォーマル・パブリック・ライフ―人が惹かれる街のルール』の著者である飯田美樹氏をゲストに迎え、都市における居心地良さや暮らしやすさの観点からエリアマネジメントの役割を改めて考えていきました。

初めに、飯田氏から「インフォーマル・パブリック・ライフ」について、事例とともにご紹介いただきました。

Lumière 代表/カフェ文化、パブリック・ライフ研究家 飯田美樹氏

 

まず、このテーマで執筆するに至った背景として、自身の経験が大きく影響していたと話します。
カフェ文化やパブリックライフの研究に取り組む傍ら、子供の出産を機に専業主婦になり、京都のニュータウンに引っ越したという飯田氏。そこは大きな公園やショッピングセンターが周辺にあり、ウォーカブルでよく計画された都市だったそうですが、どこか違和感があったそうです。

「いざ暮らしてみると、街のどこを歩いてもほとんど人がいないことが日常でした。 それでも街に適応して楽しもうと心がけて、児童館やママサークルへ出かけていったものの、日増しに得体の知れない孤独が深まるばかりで、泣くことが増える一方だったんです。
そうした日々の中、ある大学の先生から私の研究に近いんじゃないかとレイ・オルデンバーグが書いた『The Great Good Space(翻訳版:サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」)』を読むことを勧められました。当時はまだ知られていなかったサードプレイスやカフェの重要性を説いた本で、そこには私が抱えていた得体の知れない孤独と同じものをアメリカの専業主婦たちが抱えていると書かれていたんです」(飯田氏)

オルデンバーグは「元々人間は家庭と職場・学校を第一と第二の場とし、それから第三の場となるインフォーマル・パブリック・ライフがあることで精神的なバランスを取っていた」とし、それに対してアメリカ社会は、第一と第二の場のみで全てを背負ってしまっているため、ストレスが解消されない状態が起きていると指摘しています。
この「インフォーマル・パブリック・ライフ」との出会いを機に、得体の知れない孤独に対する答えがここにあるのではないかと、自らも研究を進めることを心に決めたと言います。

「この第三の場所となる『インフォーマル・パブリック・ライフ』とは、老若男女が気軽に行けて気分転換ができる場所およびその時間と定義しており、具体的には広場、公園、川岸、海辺、市場、商店街などのイメージです。第三の場所というと、日本では『サードプレイス』をイメージするかもしれませんが、サードプレイスはインフォーマル・パブリック・ライフに含まれる中核的な存在と位置付けています。カフェ、パブ、ビアホールといったものがサードプレイスの例で、特にヨーロッパでそれらは社会的なガス抜きの場として機能しています。
一方、そうした場がないと家庭や職場、学校における社会的なストレスを、個人的に解消しなければならず、自分でヨガやジョギング、ジムに行くわけですが、そのお金がない人はストレスを解消することすらできないという悪循環が起こってしまうのです」(飯田氏)

 

ストレスは社会的なものでありながら、解決は個人に委ねられるという悪循環。その循環を解消する鍵となる第三の場=インフォーマル・パブリック・ライフとは、一体どういったものをもたらすのでしょうか。飯田氏はインフォーマル・パブリック・ライフの要素を以下のように挙げました。
=====
● 朝から晩までどんな時間でも人がいる
● 誰にでも開かれており、誰しもがそこでゆっくりすることが許される
● あたたかい雰囲気があり、一人で訪れても、誰かと一緒にいるような安心感がある
● そこに行くと気持ちが少し上向きになる
● そこでは人々がリラックスしてくつろぎ、幸せそうな表情をしている
=====
日本では、南池袋公園や丸の内仲通り、商店街や骨董市もインフォーマル・パブリック・ライフの良い例として挙げられるそうです。

 

では、上記のような特徴を持つインフォーマル・パブリック・ライフの社会的意義とは、どういったことがあるのでしょうか。飯田氏は、自分とは異なる世界にいる人の存在を肌で感じることができる「ソーシャルミックスの促進」、頭の中に抱える悩みや問題を一時的に低下させる「カフェセラピーの効果」、そして家庭や仕事での役割に縛られない「本来の自分自身の獲得」に繋がると述べます。

「最後の『本来の自分自身』とは、厳しい社会規範や教育に抑圧されずになんとか残った忘れかけていた自分、つまり第三の自分を指しています。
サードプレイスが実は人間にとって重要なんだとオルデンバーグが主張したように、私は人間にとって第三の自分こそがもっと重要ではないかと提起したいんです。私がニュータウンでの生活で第三の場と第三の自分が得られずに苦しんだように、自分らしくいられる場所とそうあれる時間が街には必要なんだと強く思うようになりました」(飯田氏)

人の暮らしや社会とって重要なインフォーマル・パブリック・ライフですが、それらの充実は街の動きにも影響を与えると言います。社会学者のリチャード・フロリダは「私が聞き取り調査をした人たちは、刺激的で創造的な感情を提供してるところに住みたいし、住む必要があると主張した」と述べたように、コロナ以前には、パリ、ロンドン、ニューヨークなどで、前代未聞の人口増加が進んでいました。飯田氏は、この背景にある人々の願望をこう分析します。

「人がある街へと引っ越す理由には、そこに行けばよりよい暮らしが期待できるとか、もっと自分らしく生きられるのではないかといった願望があります。今日ここに参加されているまちづくりに取り組む方々にとっても、どうすれば自分の地域が人の願望を惹きつけ、発展できるかが大きな課題ではないかと思います。リチャード・フロリダは、そのための鍵となるのは『まず高い能力を持つ人やクリエイティブな人を惹きつけることだ』と述べており、そうしたクリエイティブクラスや若い世代は、ストリートライフのあるコミュニティやウォーカブルな場所に好感を抱く傾向にあります。経済的に栄えるためにはオフィスビルの繋がりだけでは不十分であり、文化的、社会的刺激に満ちた街であるということが重要だと言われています」(飯田氏)

しかし、ストリートライフのあるコミュニティやウォーカブルな場所であればいいというわけではありません。そうしたものの中に、クリエイティブクラスは何を求めているのでしょうか。ここで飯田氏が経験したニュータウンを再び例に挙げます。

「私が住んでいたニュータウンは、ウォーカブルシティとしては非常に良くできた街でしたが、そこでは『子連れの主婦』としての画一的な経験しかできなかったんです。第二や第三の自分はなく、自分らしくありたいと願っても、それを促す場も許容してくれる場も存在しませんでした。この街での自分の正しい生き方とは、このまま2人目の子供を産んで団地の一室を購入して老後を迎えることで、それ以外の可能性を感じられずに毎日を生きていました。こうした画一的なものの見方や価値観しかない街は、それらに違和感がある人にとっては息苦しさを感じて脱出するしかなくなってしまうんです。
こうした自分の経験を踏まえながら特にお伝えしたいのは、インフォーマル・パブリック・ライフを通した経験への開放性が大事だということです。つまり、自分が持つ絶対的な価値観とは全く異なるものに出会った時に、否定せずに肯定的に捉えられる状態であること。これが人を惹きつける街と抜け出したい街の一番の違いであり、クリエイティブクラスもなぜインフォーマル・パブリック・ライフの充実した街を選ぶのかというと、まさにそこが経験への開放性を促す場になっているからなんです」(飯田氏)

経験への開放性が高い場は、視野を広げるとともにより自身の自由な発想も認めてもらえるようになります。これは画一的な価値観の中で苦しんでいる場合には、生き方を左右するほど重要な環境とも言えます。

「改めてインフォーマル・パブリック・ライフがなぜ重要かと言うと、そこでは社会の規則から離れて自分らしく振る舞うことができるとともに、多様な人がいることで視野が広がり、既存の価値観と違うのも肯定的に受け入れやすくなります。そして、そこには新しいこと、異なることに対する寛容な雰囲気があるので、他では許されないような行動や意見も安心してすることができる。つまり自己表現がしやすくなるので、新しいアイデアも肯定されてイノベーションへと繋がっていくのです。
そしてそうした場に大事なものは、居心地の良さだと思っています。多くの人が集まっているかではなく、長い時間滞在したいと思うかどうか、恒常的に居心地が良いかが重要ということです。人々が主体的に過ごせる場をつくるということが、これからのまちづくりの役割なのではないかと思っています」(飯田氏)

 

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その2】に続きます。


2024年8月30日、全国エリアマネジメントネットワークの第8期の活動振り返りと、第9期の活動方針を発表する総会を開催しました。今回は虎ノ門ヒルズステーションタワー45階の会場にて、東京の街を望みながら多くの会員の皆さまにご参加いただきました。報告がなされた主な内容をレポートします。

 

第8期事業報告

まず、第8期の主な活動と現在の状況について報告を行いました。
総括としては「研究会合同シンポジウムの初開催」、「エリアマネジメント研究交流会の認知向上」、「人材育成プログラムの展開」が主な活動となりました。それぞれの詳細は以下の通りです。

●活動の総括
(1)研究会合同シンポジウムの初開催

これまで「スマートシティ・DX」「グリーン×エリアマネジメント」「ナイトタイムエコノミー」をテーマとした三つの研究会を設立し個々に議論を進めてきましたが、第8期では各議論の成果として「全国エリマネ研究会合同シンポジウム:エリアマネジメントの役割・領域の拡張」を開催。各研究テーマの可能性やエリマネして取り組む意義を紹介しながら、三つのテーマを掛け合わせた都市の価値向上を図る新たな展開について議論を深めました。

(2)エリアマネジメント研究交流会の認知向上

第4回目の開催となったエリアマネジメント研究交流会は、15本の研究発表が集まり、100名以上の方に参加いただきました。本研究交流会で報告をすることを一つの目標とする学生も増えてきており、エリマネに関する研究や調査の報告の場として着実に認知度が向上しています。

(3)人材育成プログラムの展開

人材育成を目的としたプログラムでは、エリマネ実務者向け研修プログラム「プレイスメイキング講座」に加え、包括的にエリマネにおけるマインドを理解する新たなプログラムとして「エリマネマインド養成講座」のパイロット版を実施。エリマネに必要とされるリーダーシップや地域とのコミュニケーション、コーディネート力等を学ぶことを目的に、経験豊富なエリマネ実践者をメンターに迎え、インプットとディスカッションを行いました。今回のパイロット版にてニーズや運営の課題を明らかにした上で、第9期では本格的な開催を検討しています。
また、第5期に立ち上げた若手ネットワーク「AMU35」も継続的に開催し、人材の循環も行われています。

また、海外連携については、海外の組織と具体的な議論を進め、連携体制のベースを構築しました。一方で、当初計画していたアンケート等のリサーチ関係やエリマネウェビナー、行政との対話の機会の実施は着手に至らなかったため、第9期に引き継ぐこととしました。

第9期事業計画

続いて、第9期の事業計画の報告を行いました。これまでの全国エリアマネジメントネットワークでは、「交わる/深める/広める/支える」の4つの方針にて取り組んできましたが、活動の裾野が広がってきたことを踏まえ、第9期からは「高める」を方針に新たに追加。エリマネのプロフェッショナルとしての専門性・実務能力向上の機会を創出することにも注力していきます。

●第9期の主な活動内容

第9期では「エリアマネジメントの振り返りと高め合い」をコンセプトとして、以下の活動を計画しています。

➢ エリアマネジメントの振り返りとこれからの役割の再考と発信
➢ 中間支援組織としての情報蓄積及びエリマネに関わる人・団体の高め合い
➢ エリアマネジメントに関する行政との対話の充実
➢ 研究会・コミュニティ活動の推進を通じたエリアマネジメントの実務者育成
➢ 海外情報の収集やアジア都市との連携活動の展開(エリアマネジメントの海外への展開)
➢ 全国エリアマネジメントネットワークの組織体制の検討

これらを方針とし、特に注力したい事業内容について説明を行いました。

 

(1)情報交換・連携【交わる】

従来のニュースレターの発行に加えて、会員間で日常的に交流や情報交換ができるよう、オンライン等のコミュニケーションツールを活用した環境設備について議論を進めていきます。
また、海外連携では、IDA(International Downtown Association)等の海外ネットワークを通じて、世界各地のBID(Business Improvement District)の情報を蓄積し、情報交換を行っていきます。

(2)エリアマネジメントの社会的な認知向上【広める】

エリマネの社会的な認知向上に向けて、「エリマネを振り返る」ことをテーマにした大規模なシンポジウムを予定しています。また、イベントレポートの配信やウェブサイトの英語対応等を行い、さらなる広報の充実化を図ります。

(3)エリアマネジメント活動の深化・行政との対話・連携の場の構築【深める】

「エリアマネジメント研究交流会」を継続して開催するとともに、「エリアマネジメント政策対話」という新たな議論の場を展開します。これは、国土交通省とともに開催してきた「官民連携まちづくりDay」から発展した取り組みとして、エリマネの推進に必要な政策・制度の活用法や課題について、国、自治体、エリマネ団体といった多様な立場の実務者同士が対話できる機会を創出していきます。

(4)エリアマネジメントに関する各種情報提供やエリアマネジメント団体の強化【支える】

エリマネに関するこれまでのリサーチの成果として、「エリアマネジメント」という言葉が日本で提唱されてから現在までの約20年の動きを俯瞰して整理し、これまでのエリマネの役割や活動領域の広がりを理解するとともに、今後の展望を議論する場を展開する予定です。

(5)エリアマネジメントのプロフェッショナルとしての専門性・実務能力向上の機会【高める】

これまで開催してきた講習会での実践・試行をもとに、エリマネについて様々な観点から学ぶことができる場として「エリマネカレッジ」を開催します。プログラム内容は、第8期にパイロット版を実施した「エリマネマインド養成講座」やエリマネの制度や事例を体系的に学ぶ「エリマネ実務者研修講座」、合宿形式でエリマネのプランニングや事業設計を学ぶ「エリマネ実務者合宿」などを検討しています。
また、第9期から新たに「エリマネアワード」を立ち上げ、各エリマネ団体が行っているエリマネ事業を募集し、実務者同士で評価し合い、高め合う場を展開していきます。

 

最後に、全国エリアマネジメントネットワークの立ち上げから活動を牽引してくださった小林重敬氏が、第8期をもって会長を退任されることとなりました。退任の挨拶として、エリマネの可能性について次のように期待を寄せました。

小林 重敬 氏

「全国エリアマネジメントネットワークは約10年前に発足し、その中で様々な成果が上がってきたと思います。一つは、全国でエリマネ活動をしている団体が増えたこと。大都市を中心とした団体から、いまもっとも活動が活発化している中都市、それから最近では地方の小さな都市でも活動があり、あらゆる地域でエリマネ活動が展開できることがわかってきました。また、これまでは商業地域での活動が多くを占めていましたが、最近では住宅地でのエリマネ活動が徐々に芽生えています。
全国でのエリマネ活動は、非常に幅広く展開している過程にありますので、今後も皆さんで力を合わせてより一層ネットワークを広げていただきたいと思います」(小林氏)

 

後任には東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授の出口敦氏が就き、「新しい時代を築いていくための課題は多くありますが、そうした課題にも前向きにチャレンジしていきたいと思っています」とこれからの活動に向けた想いを述べました。

新に会長に就任する 出口 敦 氏

 

第8期の全国エリアマネジメントネットワークでは、研究会合同シンポジウムや人材育成プログラムの展開など、これまで積み上げてきた知見やノウハウをさらに実務面に生かすための展開を行いました。
会員も年々多くの方にご入会いただき、益々全国でのエリマネ活動の発展が期待されます。各地域での取り組みがより推進されるように、全国エリアマネジメントネットワークでは繋がりをより強固なものへとしていきます。体制が変わり新たなスタートを切る全国エリアマネジメントネットワークの活動に、これからもぜひご期待ください。

 

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全国エリマネ第9回通常総会資料