【開催レポート】全国エリアマネジメントシンポジウム2024 『〜エリアマネジメントの意味を考える〜』その2

2024年8月30日、エリアマネジメントシンポジウム2024を虎ノ門ヒルズステーションタワーにて開催しました。今回のテーマは「エリアマネジメントの意味を考える」。エリアマネジメントと呼ばれる活動や事業が生まれて20年が経過した今、改めてエリマネを見つめ直す議論を二部構成にて行いました。
多様な立場や地域でエリマネに取り組む方々に登壇いただき、課題や悩みを共有しながら「これからのエリアマネジメント」のヒントに溢れた【開催レポート_その2】です。

▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その1】はこちら。

 

●クロストーク

プレゼンテーションの後は、全国エリアマネジメントネットワーク幹事・森ビル株式会社の中裕樹氏、全国エリアマネジメントネットワーク副会長・リージョンワークス合同会社の後藤太一氏も加わり、3名でクロストークを行いました。

最初に、モデレーターである後藤氏からインプットと投げかけがなされました。

全国エリアマネジメントネットワーク副会長/リージョンワークス合同会社 後藤太一氏

 

「エリマネの役割を見直す前に、エリマネそのものの解像度をもっと上げて議論した方がいいと思っています。というのも、海外ではエリアマネジメントではなく『Urban Place Management』という言葉で表現していて、細かく定義もされているんです。まず、エリアではなく『プレイス』という言葉になっていますが、具体的にいうと『共有された文脈や関係性のある人々が生活する舞台』。つまり、施設や空間だけではなく、人の活動や人と人の関わりを扱っているということが大きな考え方です。もう一つ『マネジメント』というのは、日本のエリマネでは建物がつくられた後にどう使いこなすかという管理・運営を指すことが多いですが、海外の定義では計画、リーダシップの発揮、コミュニケーションとマーケティング、経済開発、制作提案などを包括して行うことをマネジメントの内容としています。
世界ではこういった考え方があり、定義化されている中で、日本のエリマネは現状何をしていて、今後どうあるべきか。そういったところに一歩踏み込んで議論できればと思います」(後藤)

 

「エリアマネジメント」という言葉が誕生して20年。さまざまな研究や取り組みを経て、そのあり方や意味を確立してきました。次第に日本の各地で取り入れられるようになり、エリマネはさらに発展を続けています。そうした現状を改めて会場の皆さんと共有した上で、次に何を考え、取り組むべきなのか、クロストークにより議論を深めていきました。

後藤 飯田さんのプレゼンテーションでは、「第三の自分」や「経験への開放性」など、エリマネの役割としてこれまで求められてきた経済発展以外にももっと大事なものがあるんじゃないかと感じました。

飯田 今世界中でまちづくりに取り組む人は、経済よりも人の幸せに重きを置いているように感じています。もちろん経済開発によって街が活性化することも大事ですが、そこだけを追求すると取り残されてしまうことがあまりに多いのも事実です。経済だけを優先してきた社会からの脱却する取り組みとして、インフォーマル・パブリック・ライフがあるんじゃないかと思います。

後藤 カフェの例もありましたが、インフォーマル・パブリック・ライフ的な場というのはどういったものがあり得るでしょうか。

飯田 お金を持っていなくてもいられることがポイントで、商店街や骨董市なんかはお金を持っていなくてもそこに佇んだり回遊するだけでも許されますよね。 ただいてもいいし、買いたかったら買ってもいいというぐらいの状態が、一番インフォーマル・パブリック・ライフとしてうまくいくと思います。
デザイン的なことで言うと、まず誰でも訪れることができて、カフェで過ごしてもいいし、ベンチに座ってもいいし、芝生で休んでも大丈夫という、そういった自由にいられるしつらえになってることが一番理想です。骨董市に行っても何にも買わないでなんか見てるだけの人もたくさんいるように、そういう緩やかさが大事だと思うんです。

後藤 森ビルさんが手がけるヒルズも、何も買わなくても回遊できるような設計をされていますよね。

  そうですね。居住者の方も多くいらっしゃいますし、日常的に居られるような場を考えています。最近では住宅地でもエリマネの取り組みが始まっていて、飯田さんのご経験のように住宅地にあるさまざまな課題に対して住民同士が協力してエリアの価値を上げていこうとしています。そうした中で、我々の立場として地域の方と協力できる可能性はあるのでしょうか。

全国エリアマネジメントネットワーク幹事/森ビル株式会社 中裕樹氏

 

飯田 ここは自分がいてもいい場所なんだ、と思える場をデザインすることが大事だと思います。東京には新しい施設が次々とできており、広場は美しく、座るところも十分に整えられているけれど、自分が場違いに思えてしまうこともあります。この「場違い」の対極には「歓迎」があって、例えばカルディは非常に成功を収めていますが、それはやはり入口でコーヒーをもらえることが嬉しいからだと思うんです。自分がいても大丈夫なんだ、許される場なんだと感じ取る力を人は敏感に持っていると思うので、その点を意識すると地域の人との関わりもすごく変わるんじゃないかと思いますね。

  ありがとうございます。もう一点、クリエイティブクラスの開放性を上げていくことが、その場の質を高めていくという話がありました。確かにエリマネとしてもその可能性を感じていざやろうと思うと、もっと刺激的なイベントをやろうだとか、アートプロジェクトをやろうといった既視感のある企画に落ち着いてしまいます。おそらくアプローチは多様にあると思いますが、取り組む上でどういったことが重要になるでしょうか。

飯田 まず、「インフォーマル・パブリック・ライフはイベントではない」ということを前提に持っていただきたいと思います。日本は季節の行事を大事にしてきた歴史があるので、それをしなければいけない意識が強くありますが、イタリアやフランスの広場ではそこまでイベントは行われておらず、基本は日常的に佇める場なんです。インフォーマル・パブリック・ライフは日常の中のちょっとした非日常を感じる場となっていて、週に3〜4回行く人もいます。しかし、イベントをやっているとその分座れる場所や滞在できる空間がなくなるので、日常的に訪れている人やイベントと関係がないと感じる人を排除することになりかねません。特に日本の広場はそういう側面が強く、イベントをやっていない時は人は端っこを通り、空白地帯になってがらんとしてしまう。そうではなくて、日常的に人が佇める場をつくることが大切だと思いますね。

後藤 過ごし方が選べる状態にあるといいですよね。例えば自分の場合だと昔は居心地が良かった渋谷のセンター街が最近行きづらくなっているんですけど、それは人の変化もあるわけで。やっぱりいろんなものがある程度あるかどうか、全てを揃える必要はないけれど、この街には何が必要かを考え続けないといけないと思います。

飯田 すべての解決策はイベントではなく、そこでゆったりと時を過ごせる場のセッティングをすることだと考えていくといいのではないかと思いますね。日常の中で気軽に外で過ごせる場所というのは、求められてるのに全然ないんです。設計した後にそうした場をつくることは難しいと思われるかもしれませんが、キッチンカーとビストロチェアを何個か出してみるだけでも雰囲気は非常に変わります。そういったできるところからでも試すのもよいかもしれません。

飯田美樹氏

 

  できることからやる時にも、やはり一社ではできないことが多いので、他社の物件や地域の方と一緒に取り組んで、エリア全体の価値を上げていくという意識が重要ですね。
もう一つ、今日の飯田さんのお話を聞いて強く感じたのは、人に対して高い解像度を持って見ていくことです。エリマネでは「人中心」という考え方は以前から言われていることですが、「人」についてもっと具体的に突き詰めるべきだと改めて感じました。

飯田 街やそこにいる人を観察する際には「関係の解像度」を見るといいかもしれません。関係というのは、何かに触れられるとか、匂いがするとか、お店の奥から店員さんが声をかけてくれるといった関係性が生まれる予感のようなものです。自分がいてもいいんだと思える温かみがあるかないかを見ていくと、今後のエリマネにも何かヒントになると思います。

後藤 都市というものはいろんな人の場所であるということが前提にあって、その中でどのように人の活動や交流を促していくか考えるべきだということですね。
やるべきことは時代とともに非常に変わり続けていますが、今日得たヒントをそれぞれの街に応じてカスタマイズしていっていただきたいと思います。

 

 ▷▷▷【開催レポート 全国エリアマネジメントシンポジウム2024_その3】はこちら。

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